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誰もが平和に、健やかに暮らせる世界を祈って。 「時代のカナリア」

まだ世界初の女性映画監督、アリス・ギイについての投稿の途中ですが、終戦の日の今日、ある本を紹介させてください。 

「時代のカナリア」は作詞家の湯川れい子さんの書かれた本。

湯川さんといえばジャズ評論家、ラジオDJ、作詞家、作家など、様々な形で活躍してこられた方。

この本では9歳で終戦を迎えた子供時代から女優を経てジャズに興味を持ち、音楽業界に足を踏み入れ、ビートルズの来日時には単独インタビューに成功し、憧れていたエルヴィス・プレスリーと対面し…と華やかな面も書かれています。

でも、戦争や環境問題、女性の生き方性や差別問題などについても強い思いを書かれています。

中でも印象的だったのは、戦争に関すること。

湯川さんのお父様は職業軍人で、昭和19年の春、海軍司令部の作戦会議室に詰めっきりの徹夜続きの後、急死。

二人の兄は長兄・次兄ともに従軍し、長兄は南方で戦死。

戦地に赴く前、最後の休暇で実家に戻った長兄は実家の庭を掘って実家に残る母と妹二人のために3日間かけて防空壕を作ってくれたそうです。

音楽や絵が好きな、優しいお兄さんだったとか。

その長兄は、防空壕を掘りながら綺麗な曲を口笛で吹いていたので、湯川さんがなんという曲か聞くと、「自分で作った」と答えたそうです。

でも、戦後になってから、湯川さんはラジオで懐かしい曲を耳にします。

米軍放送WVTRから流れるその曲を聞いて、気がついたら一緒に歌っていた湯川さんは、それが亡くなった長兄が口笛で吹いていたあの曲だと気づきます。

「なぜ兄が自分で作ったと言ったあの曲が、米軍の放送局から流れてきたのか・・・」

湯川さんはその曲聞きたさにラジオを聴き続け、数年後、それが「スリーピー・ラグーン」という曲だとわかります。

そして、湯川さんは
「音楽好きだった兄がすでに敵性音楽だった米国の音楽をこっそり夜中に米国の短波放送で聞いていたか、敵性音楽を扱っていることで迫害されながらも開戦前夜まで細々と営業を続けていた音楽喫茶などでこの曲に出会ったのだろう」
と確信します。 

父は職業軍人、母は軍人の妻でしたから、母と妹の前で敵性音楽とはいえず、とっさに「自分が作った曲」だと言ったのでは、というのが湯川さんの結論でした。

「音楽も絵も好きだった兄が生きていたら…」
という湯川さんの思いが、文章に滲んでいます。

長兄の出征後、湯川さんは母とともに山形の祖母の元へ疎開。

疎開先の学校で空腹を抱えたまま、女の子たちまで竹槍の稽古をして、迎えた終戦。

玉音放送を聞いた翌朝、9歳だった娘に母が言ったのは

「米兵がやってきて、辱めを受けるようなことがあったら、そのときは私も自害します。
だからあなたも一緒に自害しなさい。」

そして、亡くなった父の形見の懐剣を湯川さんの膝の前に起き、正座している娘の膝を紐で縛って固定。

短剣の鞘を外し、柄のほうに半紙を巻いて娘に両手で握らせ、刀の刃先を喉元に当てさせて
「こうして、そのまま前に、全体重をかけて倒れなさい」
と言って、その後、懐剣を脇において実際に前に倒れる練習をさせたそうです。

幸いにもその練習を実行する日はこなかったのですが、湯川さんが今80代になってもその時のことをしっかりと覚えているのは、やはり衝撃的な出来事だったからなのでしょう。

また、次兄は特攻隊員として出撃を待つうちに終戦を迎えます。

戦後しばらく帰ってこなかったので、家族は特攻隊員として戦死したのでは、と思っていたそうです。

実際には敗戦後の日本で天皇や皇族を占領軍から守るという秘密計画があったために偽名で潜伏しており、計画が不要になってから、ようやく家族の元に戻ってきたのでした。

でも、その後も旧海軍関係者として
「戦時中に米軍が日本の主な港を封鎖するために設置した機雷を掃海する」
という任務にも関わっていたとか。 

湯川さんは本の中で一番してはいけないことは戦争だと強く訴えています。

全ての人たちが、平和に、健やかに、危険にさらされることなく大切な人と共に生きられる世界になることを心から祈ります。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

*花の写真は東京都庭園美術館で開催中の蜷川実花さんの写真展「瞬く光の庭」のもの。(全て撮影可能箇所)

ここ1年半ほど、今まで以上に熱心に「取り憑かれたように」日本各地に足を運んで撮影した4万点!の作品の中から構成された今回の展覧会。

その4万回のシャッターを切る毎回が心が動いた瞬間だったとのこと。

これまでの蜷川さんの作品とはイメージとは異なる、余白を感じる空間やもやがかかったような雰囲気も感じる作品と、優美な庭園美術館の上品な佇まい。

美しいひと時でした。

季節の花々を愛でつつ、平和に過ごせる毎日でありますように。

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