今年最後の「映画の日」に「サタデー・フィクション」

12月1日は今年最後の「映画の日」。
仕事の後、なんとか映画館に滑り込みました。

見たかったのはロウ・イエ監督の新作、「サタデー・フィクション」。

実はこの映画の公開初日、行きつけの吉祥寺Uplinkでロウ・イエ監督やオダギリジョーさんの舞台挨拶付きの上映があったのですが、当然のことながらチケットは超即完売でした。

でも、12月1日の夜の上映後には映画評論家の森直人さんと上海出身の映画ジャーナリスト・徐昊辰さんのトークショーがあり、ドリンクのサービスもありました。

と言うのは、上海はカフェ文化のある街で、映画の中でもジャズが演奏されるカフェが登場するため。

おかげさまで、牛乳を入れていただいていただいた美味しいコーヒーを味わいつつ、映画を鑑賞。

この映画は劇中劇もあり、複雑な入れ子構造になっているので、正直最初は戸惑いました。

登場人物の背景も複雑で、上海出身で当時の歴史背景も勉強している徐さんが見てもかなり難解な部分があったとのこと。

監督は
「複雑な世界危機の時に様々な人の運命を描いた映画」
とコメントしていますが、真珠湾攻撃1週間前のカウントダウンの中で進むこの映画には史実とフィクションが取り混ぜられていて、当時の歴史を深く学んでいないとこの映画を本当に理解することはできないのでしょう。

様々な国籍の人たちが行き交い、そして中国国内でも様々な立場の人たちがそれぞれ自分たちが正しいと思うことのために活動している当時の上海で、誰がどの立場にあるのか、誰を信頼できるか。

お互いが腹の底を探り合っている不穏な世界は全てを理解できる人には、わたしとは格段に違う精密な形で見えるのでしょう。

そうであっても、2時間強のこの映画、最初から最後まで引きこまれっ放しでした。

映画の中でも大女優を演じるコン・リーの美しさ、色っぽさ。
熟練したスパイとしての大立ち回り。
本当にほれぼれしました。

ロウ・イエ監督と主演のコン・リーは同じ1965年生まれとのこと。

出身地が違うとはいえ、中国で本当に同じ時代を生きてきたからこそ映画作りの中で理解できることも多いのかもしれません。

そして、上映後のトークショーを聞けたことも、やはり嬉しかったのです。

この映画が最初に公開されたのは2019年。

今年の日本での上映まで約4年かかっており、徐さんは
「この映画が日本で上映されてとても嬉しい」
と話していました、

中国では映画の検閲も厳しく、ロウ・イエ監督はその体制に体制を挑み続けている監督とのこと。

だからこそロウ・イエ監督の映画をもっとたくさんの人に見て欲しい、と森さんも徐さんも話していました。

そして、映画の中で登場する「蘭心大劇場」はこの映画のロケの後リニューアルされたので、リニューアル前の劇場の姿を見られる貴重な映画でもあるとのこと。

森さんは
「監督には『失われていく前の中国の姿を残したい』という思いもあるのでは」
と話していました。

また、映画のタイトルの「サタデー・フィクション」は映画の中で上映される舞台のタイトルでもあるのですが、監督によるとこの映画は
「中国文学史上で最も重要な位置を占める“礼拜六派(サタデー派)”へのオマージュでもある」
とのこと。

この映画は虹影(ホン・イン)の「上海の死」(日本語の翻訳は出ていない模様)と横光利一「上海」を原作としていますが、森さんは
「ロウ・イエ監督が横光利一のこの小説を読んでいたことに驚いた」
と話していました。 

また、この映画には「カサブランカ」やヒッチコックの「めまい」などを彷彿とさせる点も多く、森さんも徐さんも
「映画好き、ヒッチコック好きの監督らしい」
とコメント。 

映画好きの方ほど、この映画を楽しめそうです。

そして、この映画が作られた頃はまだ今ほどブレイクしてなかった中島歩さんがこの映画の重要な役に抜擢され、2019年に中国で上映された時にも高く評価されていたと聞き、ファンとしては嬉しい限り。

森さんも最近の「愛すべきダメ男」としての中島さんのキャラクターができる前にこの映画に抜擢されてこの役を演じていたのはすごかった、とコメントしていました。

決してハッピーエンドではないのですが、コン・リー演じるユー・ジンが自ら選んだ結末、「彼女はこれで幸せだったのかも」とも思うのです。

夢を見たような気持ちでエンドロールと共に流れるジャズの演奏を聴いていました。

この映画、やっぱり見られてよかった。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

*吉祥寺のL.L.Beanにも恒例のクリスマスツリーが登場しています。

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