吉川 由紀枝

慶応義塾大学商学部卒業。ビジネスコンサルティングに従事後、2005年コロンビア大学院に…

吉川 由紀枝

慶応義塾大学商学部卒業。ビジネスコンサルティングに従事後、2005年コロンビア大学院にて修士号(国際関係)取得し、ライシャワーセンター上級研究員。2012-14年沖縄県知事公室地域安全政策課にて普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案担当。

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  • 世界史

    今の国際情勢が分かるために必要な世界史という観点からまとめています。

  • 繰り返し読みたい現代の話

    時事問題として取り上げましたが、現代の問題の基礎知識等を書いています。

最近の記事

アメリカ中東政策の崩壊

4月のイラン・イスラエル軍事応酬 今年4月、イラン・イスラエル間で初めて、互いの国土に向けての武器類の応酬が繰り広げられました。しかし、拍子抜けするほど、互いに抑制のきいたものでした。 まずイランが発射した際には、ウクライナ戦争で使用されないような、安モノドローン、あるいは火力のないデコイ(ミサイル防衛システムの注意を分散させるために使われるオトリ)ばかりを2~300発であったと言われます。しかも、イラン本土から発射していますので、イスラエルへ到着するまでに5時間程度かかり

    • 不安定な韓半島 太平洋戦争終結まで

      隣国は強すぎても、弱すぎても困る 日本は、何のために韓半島を併合したのでしょう?植民地化し、その富を収奪することが目的だったのでしょうか?そのように誤解されがちですが、そうであれば1905年日露戦争の直後に併合しそうなものですが、足掛け6年かけて併合に至っています。また、李朝政府へ、日本政府が無利子・返済期限なしの貸付を行う必要もありません。併合後も総督府や日本軍の駐留費等は、全て日本政府持ち、租税負担率も内地よりも安く設定し、赤字分は日本政府が補填していました。* そもそ

      • 不安定な韓半島 日韓併合まで

        2024年1月に北朝鮮は半島統一という従来の目標を放棄し、韓国を同胞ではなく外国、しかも主敵とみなすと宣言しました。もちろん、韓国の尹錫悦政権にとっての中間選挙と位置付けられる、同年4月の韓国総選挙に影響を与え、親日・米姿勢を打ち出す現政権へ打撃を与えようという意図はあるでしょう。しかし、それだけなら何もせっかく父・金正日総書記が建てた祖国統一三大憲章記念塔まで破壊する必要はありません。金正恩政権には、それまでの路線から逸脱した面が見られていましたが、今回の唐突な宣言の真意を

        • すれ違いの米中関係 その3

          中国共産党、民主主義を学ぶ 同じ民主主義国でも、日本とアメリカでは大きくその運用方法が異なり、互いの理解を妨げます。それよりも大きな乖離が米中間にあるわけで、ニクソン大統領の訪中以降、中国は民主政治について、様々学習・体験中です。 1つ目の洗礼は、台湾関係法成立です。中国政府は、カーター政権に日本同様、中国との国交樹立・台湾との外交断絶を求めます。そこで、台湾政府はこの流れを不可逆と見る一方、その身の安全保障のため、米議会へのロビー猛攻を仕掛けました。カーター政権がブレジン

        アメリカ中東政策の崩壊

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        記事

          歴史の重み:すれ違いの米中関係 その2

          番狂わせのニクソン・ショック 毛沢東政権で外交全般を指揮していたのは、周恩来首相です。とはいえ、毛沢東主席の意向に従わざるを得ず、後々まで中国に悪影響を与えた場面が2点ありました。一つは、フルシチョフ批判です。スターリン書記長に傾倒していた毛沢東主席は、スターリン死後、その後継者であるフルシチョフ書記長によるスターリン批判に拒否反応を示しました。これにより、中ソ間が緊張し、それまでのソ連からの技術支援が停止され、技師たちは帰国してしまいました。さらに、1960年代両国間の国境

          歴史の重み:すれ違いの米中関係 その2

          すれ違いの米中関係 その1

          絶妙な2024年台湾総選挙 2024年1月台湾での総統選挙は与党・民進党、第一野党・国民党、第二野党・台湾大衆党の党首による三つ巴でしたが、反中派と呼ばれる中国警戒派、親中派、とその中間としてよく政策の違いを説明されていました。親中派とその中間が、野党として統一候補に絞ることができれば、政権交代もあり得ましたが、統一できずに与党が総統選を制しました。その一方、立法院では与党が過半数席を失い、いわゆる「ねじれ」現象が誕生しました。 台湾人は実に選挙の意味を心得ていると言えます

          すれ違いの米中関係 その1

          アメリカ単独覇権から激動のリバランス時代へ

          ロシアに降り立つシカゴ・ボーイズ 以前ラテンアメリカ諸国のお話で、シカゴ学派(シカゴ・ボーイズ)の指導の下、いかに国家資産が欧米企業の餌食になったかをお話しました。そのシカゴ・ボーイズが次に向かった先は、ソ連崩壊直後のロシアでした。全ての企業が国営企業であるため、得意の民営化を進めるにはあまりにも莫大な量(そして欧米企業にとっての利潤)があることは明らかでした。 ソ連崩壊直後の混沌の中、シカゴ・ボーイズに勧められるまま、エリツィン政権は国営企業の大胆な民営化並びに従来の価格

          アメリカ単独覇権から激動のリバランス時代へ

          パレスチナ・ハマスの勝算

          今年10月9日より、パレスチナの武装集団ハマスがイスラエルへ攻撃を仕掛け、1000名強を殺害し、200名余りを人質に取りました。これに対し、イスラエルはハマス殲滅を掲げ、大規模な空爆を中心に既に9倍以上のパレスチナ人を殺害し、パレスチナでの電気・水道等の社会インフラを止め、外国からの人道支援物資搬入ルートもほぼ閉鎖し、200万人ともいわれるパレスチナ人への報復措置を続けています。(十分国際法違反です) 前回パレスチナの歴史のお話をしましたので、今回は直近の出来事について考え

          パレスチナ・ハマスの勝算

          イスラム・現代 後編 イスラエル・パレスチナ

          パレスチナ問題の起源 パレスチナ問題のそもそもの発端は、第一次世界大戦中のイギリスの三枚舌外交のせい、と言われます。3枚の舌の1枚目は、イギリスはフランスとオスマン・トルコ帝国解体後の領土分割を協議し結んだ、サイクス・ピコ協定です。以前お話しました通り、英仏の資本の集中投下場所に応じて、中東の南部をイギリスが、北部をフランスが、その勢力下に持つことになりました。その一方、パレスチナは国際委任統治となりました。理由は、「パレスチナがユダヤ教、イスラム教、キリスト教諸宗派共通の聖

          イスラム・現代 後編 イスラエル・パレスチナ

          イスラム・現代 前編

          現代中東を理解するための基礎知識 ここでは、イスラム世界の中でも中東、トルコ、イラン、エジプト(以後イスラム地域と呼びます)及びそのヨーロッパ移民を扱っていきます。 さて、日本人に馴染みの薄いイスラム地域を理解するのに、大事なキーポイントが2点あります。すなわち、この地域内での人口の大小と産油国か否かです。前者は、軍隊の大きさを、後者はその国の富を測る上での大まかな尺度となります。 大まかにいえば、人口が大きい国とは、イラン、イラクと東地中海沿岸にあるエジプトやトルコ、対

          イスラム・現代 前編

          冷戦 その8 勝因と敗因

          検証ポイント5:なぜ冷戦は終結したのか? 「アメリカはソ連を破産させる気か?」 冷戦終結の原因は、一言で言ってしまえば、ソ連の破産にあります。アメリカと並ぶ「超大国」だと思い上がり、貴重な資源を身の丈に合わないほどに軍事に費やした結果といえます。 短期的にみれば、レーガン政権の軍事費増大によるソ連軍事費増大の誘発です。すなわち、あるレーガン政権スタッフが、アメリカの軍事費の増大に合わせて、ソ連も軍事費を増大させていることに着目しました。もしソ連がアメリカと意識的に足並みを揃

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          BRICSサミット2023:加速するドル離れ

          今年8月22-24日の間というジャクソンホール会議の直前、BRICSサミットが開かれました。ジャクソンホール会議の方は日本でもよく報じられていますので、こちらではBRICSサミットについて考えていきたいと思います。 それでもドル離れは変わらない 以前中国が金地金を大量に生産かつ購入しているというお話をしました。その流れか、サミット開催前の4月、ブラジル大統領がBRICS共通通貨を作りたいと発言しました。*ラテンアメリカで親米政権でなければ、当然の発言といえます。(「冷戦7ラ

          BRICSサミット2023:加速するドル離れ

          正しく「戦争」を語り継ぐとは

          原爆投下日や終戦記念日が近づくと、太平洋戦争中、戦争直後のドラマや映画がよく放映されます。しかし、常に不思議なのは、決まって日米間の戦闘か日本本土での話に限られることです。それでいて、戦争を語り継ぐと言います。かなり偏った「戦争」なのです。 日中戦争と太平洋戦争を正しく理解するなら、満州を含めた中国大陸、かつて日本の一部であった台湾や朝鮮半島、東南アジア等を主舞台とした話があったとしてもいいと思うのです。それはそれなりに、通常と異なった視点からエンターテインメント性のみなら

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          「ワグネルの乱」のメッセージ

          不可解な「ワグネルの乱」 2023年6月23日、「ワグネルの乱」が発生しました。それまでウクライナ戦争で活躍していた、ロシアの民間軍事会社、ワグネル社の一部が戦線を離脱し、モスクワに向かいましたが、ベラルーシ大統領の仲裁により一日で解散したという、何とも不可解な事件です。

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          歴史の重み:冷戦 その7 ラテンアメリカ経済

          検証ポイント4:植民地は本当に「独立」したのか? 番外編:統治経験のない植民地・ラテンアメリカ 輸出主導型成長を目指せ 日本でほとんど語られることがないですが、アジア・アフリカ独立の先輩格にあたるラテンアメリカに触れておきたいと思います。 ラテンアメリカ諸国は、宗主国がナポレオンに敗北するのを見て、急激に独立運動が盛り上がった結果、独立を獲得しました。この時点では確かに、真の意味の独立でした。(但し、先住民はほとんど、ヨーロッパ征服者がもたらした武器か伝染病により死亡してし

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          冷戦 その6 植民地の「独立」?II

          検証ポイント4:植民地は本当に「独立」したのか? 植民地「独立」へ 植民地政府が、「合法的に」現地民を強制労働者に仕立て上げるには、拒否する現地民を警察が逮捕し、法廷で裁き、刑務所に連れて行かねばなりません。課税するには、現地民の人口調査をせねばなりません。このような必要性から、アフリカの地に警察、陸軍、民政管理機関、司法機関を置きました。これらの事象は、植民地政府職員を数多く必要とします。本来宗主国が必要数派遣できればいいですが、それも難しくなっていきました。そこで、編み出

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