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フォリア工房のムラ染系の仕事について・2

*トラ目染*

こちらも「全面ロウムラ加工」と同じように、工房内での通称がそのまま業界の通り名になってしまいました。

「トラ目」とか「虎杢」というのは、木材に表れる縞文様のようなものです。エレキギターでは、ギブソン・レスポールで有名です。

画像1
(画像は、Gibsonさんのサイトから借用)

上画像のエレキギターのボディトップの材木のニュアンスを、染で出したものです。

元々は、フラットな生地への「全面ロウムラ加工」のご依頼をいただいた際、やってみたものの、良い感じに仕上がらず、他の方法を模索していて開発した技法です。怪我の功名ですね。笑

この技法は、生地を引き染をするのと同じように張り、生地を湿らせ、生地が湿っているうちに、刷毛でいろいろな色を下画像のようなニュアンスに染め重ねて行くものです。

全体に良い感じに仕上げるには、なかなかの想像力が必要です。なぜなら、濡れている時には色が濃く見えますし、刷毛のストロークの具合や、染料の滲んだニュアンスも乾いてみないと分からないからです。

染料は、そのまま、あるいは少し布海苔を溶いたもので粘度を付けたりと、生地の特性や出したい滲み具合によって調整します。

ある意味「一発勝負」なので、非常に緊張します。当工房で行うムラ染系は「一発勝負系」が多いのですが、しかしだからこそ、面白いニュアンスが出るというのはあります。

白大島の生地に、トラ目染

上画像は、繊細な絣の白大島でしたので、さざ波の立つ湖面のような感じに仕上げてみました。

こちらは、白生地の状態だと今ひとつ売れにくかった白大島を、染め加工する事によって別の魅力を乗せ、新しい商品価値を持たせる、という狙いがありました。

そのような呉服店さんからのご依頼は良くあります。

当工房は「素材を活かす」事に長けておりますので、呉服店さんが素材感の面白い生地を仕入れたものの、どうにも和装にしにくい生地・・・売れない・・・さあ困った、となった時に、ウチに連絡が来る・・・となるようです。

小千谷上布(廉価版のもの)にトラ目染

上画像は、麻で、ザックリしていますので、刷毛のニュアンスもザックリとさせました。また、透ける生地ですので、布の状態ではコントラストを強めにしてあります。そうしておかないと実際に着た時に透けて見える襦袢などの影響で、トラ目が見えなくなってしまうのです。

大島紬に中濃度のトラ目染

あまり濃色では出来ない加工ですが、上画像の中濃度ぐらいでしたら可能です。


*三彩染*

「三彩染」というのは、陶器の「唐三彩」的なぼかし染をしたところから名付けました。

「三彩壺」文化遺産オンラインより借用

三彩の陶器のようには激しくしない事が殆どですが、色数は三色程度にし、滲みを生かした染をする事が多いです。

紬着物生地に三彩染加工
ほわっとした感じにしてあります。

上画像は、印象派の絵の、晴れた日の空と雲ような感じにしました。

こちらもいろいろなニュアンスが出せますが、あまり濃い色だと、染料だけではなく、染料を調整する薬品なども併用して制作する必要があります。 


*刷毛目染系*

良くある「シケ引き」というものと技法は、ほぼ同じです。

生地を引き染をする のと同じように生地を張り、櫛状に加工した刷毛を用いて生地に刷毛目を付けて行く加工です。

当工房では、京都で行われているような、繊細な感じではなく、もう少し「刷毛のストロークや揺らぎが出るように加工する」事が多いです。

顔料や染料、その他ダックを入りの染料を引いたり、ロウを刷毛で置き、その上から地色の染料を引く場合もあります。

(ダック=染料で染めた部分に撥水性をもたせる薬品。染料にダックを混ぜ、乾燥してから蒸気で蒸すと、その部分に撥水性が出る。薄い色の刷毛目に、濃い地色の加工をする事が可能になる)

ちりめん生地に墨による刷毛目+矢車附子によるグレーの地染の着物「流水}
上着物のUP画像。水の流れに水の飛沫をポツポツ入れています

上画像は、少し広幅の三越ちりめん(男性ものでも使える)に、墨で刷毛目を入れ、その上から、矢車附子+鉄媒染でグレーに染めた「流水」と題した着物です。(草木染)

一般的な「シケ引き」ですと、このようなザックリした感じにはしない場合が多いですが、こちらでは、刷毛目同士が重なってモアレ現象を起こしているところが、むしろ本当に川の水の流れのように見えます。

当工房では、職人技術的に安定した技術による着物や帯はもちろん制作しますが、しかし、あまり職人芸過ぎても、現代、手作りで和装品を「後染め」で制作するにあたっての「刺激」が少し足りない気もします。(後染め=生地に染め物をする事)

昔の着物は、現代の「レ点チェック方式」ではなく「多少問題もあるけど面白いからOK!」というものが沢山あります。日本美術全般で見ると「ヨレ」「揺らぎ」「偶発性」は、とても重要なテーマでそれが愛されています。それを布に取り入れるという、ある意味冒険をします。

もちろん、かといって「技術不足で下手」ではいけません。

刷毛目の加工とはいえ、それはある意味、文様染でもあります。工芸品は「表現したいもの」と「技法」が合致している事が重要です。それが工芸品の良さです。流水のようなニュアンスを、川の絵を描くのではなく「刷毛目で表した」という事が大切なところなのです。

一越ちりめんに、墨による刷毛目+矢車附子によるベージュ

上のベージュ地のものは、一般的な「シケ引き」の仕事のような感じに、繊細に仕上げたものです。

刷毛目系では、その他、いろいろなニュアンスの加工をします。

無地の大島紬にダックによる刷毛目加工
ダックによる刷毛目加工着物のUP

こちらは、上で少し説明しました「ダック」という薬品を使った刷毛目の仕事です。

この仕事では、薄いグレーの染料に「ダック」を入れ、着物に刷毛目加工をし、それから蒸して染料部分に撥水性を持たせ、地入れをし、地色は、裏から染めます。

そうすると、刷毛目の薄い色に濃い地色が被らず「薄い色の刷毛目に、濃い地色」という加工が可能になります。

このようなザクザクした仕事などは、着物はもちろん、羽織やコートなどにも良いですね。

ロウで刷毛目を入れ、それから地色を染める方法もあります。

紬生地に白ロウによる刷毛目+矢車附子によるグレー(草木染)
上画像のUP画像

ロウによる刷毛目では、染料や顔料による刷毛目よりもザックリとした感じになり、さらにロウの上から染料の色が被りますので、より「危うさ」も出ます。より「陶器の肌」のような感じになります。

このように「刷毛目」の加工でも、いろいろなバリエーションがあります。

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