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色挿しについて

色挿しは糸目糊置きで括った部分に着色する、あるいはロウによって堰出し(ロウによって文様を括ること)した部分に着色することをいいます。

同じ模様、図柄でも、その配色の違いによって出来上がりの印象は、全く異なります。

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「色刺し」という言い方もあります。

「しっかりと裏まで染まるように染料を刺すようにすること」という意味合いがあるようです。

ここでは「色挿し」とします。

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挿し色は染料を使う場合と、顔料(いろいろな種類があります)を使う場合があります。

糸目友禅の場合は細い糊で文様を括ってあるだけのため、染料をそのまま挿すと糊で括った柄の外まで色が滲んでしまうので、少し布海苔を溶いたものなどで染料にトロミをつけて、糸目糊の外に出にくくします。

さらに、下から電熱器で熱を当てながら色挿しを行うことによって、素早く乾燥させ滲みを抑えます。(染料を生地の裏までしっかり通す役割もあります)

当工房では、主に糸目友禅とロウを併用するため、糸目糊はゴム糊を使用しています。

ゴム糊は防染力がそれほど強くないため、布海苔と電熱器を必ず使いますが、真糊(餅米の糊)を使う場合は防染力が強く、布海苔と電熱器を使わない場合もあります。(糸目の太さや地入れの具合、仕事の内容によります)

染料を使った挿し色の定着は「蒸し」によって行います。

顔料を挿す場合は染料と違い、顔料の粒子を繊維に固着させるための固着剤が必要になりますので、顔料を溶いたものに固着剤を加えます。

顔料の色挿しでの布海苔の役割は、粘度のある固着剤を使うことによって持たせます。

昔は顔料を豆汁などで溶き、色挿しした後に軽く燻煙し、豆汁のタンパク質を固めることによって固着させる、その他の方法がありましたが、当工房では行っていません。

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*色挿しで使う道具など*

色挿しの時は、作る染料の量が少ないので染料一滴の微妙な調整が必要となります。なので、溶かした染料をポリ点滴容器のような扱いやすい別の容器に入れ替えて使用しています。

・筆または刷毛
色挿しは刷毛や筆を使って作業をします。
色挿しをする面積が広い場合、刷毛を使い、細かい部分は筆を使います。

筆にも大小あるので、それは柄によって、色によって使い分けます。

糸目友禅の色挿しでは小さい部分も小さい刷毛を使って色挿しをする場合が多いですが、当工房では筆を使って挿すことによる文様内のムラを意図的に使うことが多いので筆で挿すことが多いです。

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・電熱器
色挿しは生地の下に電熱器を置いて、熱であぶりながら作業をします。
昭和中頃までは炭火だったそうです。

・友禅机と伸子
色挿しの作業は、生地を張り手で長く張ったまま作業する時と色挿しをする部分に伸子を交差させるように掛ける「友禅伸子」を使い「友禅机」で作業する時があります。

友禅机とは、机の中央に四角に切り取った穴が空いており、その下に電熱器(熱源)が置ける様になっている机です。

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*染料と顔料の色挿し*

・染料の場合

1、ゴム糸目に揮発地入れをする

2、染料で色挿しを行う場合は先に布海苔と豆汁の地入れをします。

当工房ではゴム糊での糸目が殆どなので、生地全体に地入れをする方法です。(地入れについては引き染めの項目を参照して下さい)

3、地入れが完全に乾いたら、染料で色挿しをします。

4、挿し終わったら1度蒸しをして色挿しした染料を発色/定着させます。(蒸しについては別ページを参照して下さい)

5、蒸し終った後に、柄の部分を糊またはロウで伏せて地色を染めます。

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・顔料の場合

顔料に「バインダー」という固着剤を使った場合

1、ゴム糸目に揮発地入れをする

2、顔料による色挿し

3、色を挿した部分にあて布をし、アイロンで熱を加え、顔料を生地に定着させます。

4、柄の部分を糊またはロウで伏せます。

5、布海苔と豆汁の地入れをし、乾燥後、地色を染めます。

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当工房では挿し色の色数はかなり絞ります。

なぜなら、あまり多色にすると、絵画のようになってしまい、文様としての形、動きが鈍るからです。

人は一度に沢山のことを把握することは出来ません。

絵のように自由に多色にしてしまうと、色のみで布が情報過多になってしまい、全体としては混沌とし「染物としての力」は弱まってしまうと考えるからです。

染物の良さは、文様と色、生地の質感の織りなす生き生きとしたバランスの妙です。文様染の布は絵画ではないのです。

色挿しをする時、薄い色から濃い色…といった順番は特にありません。それは時と場合によって変わるからです。既に配色が決まっている場合でも、全体のバランスを見ながら挿す場所を決定する事が多いです。

布の文様への色挿しなので、染料や顔料を”塗る”のではなく、布の裏側までしっかり通るように”刺すようにする”という点に注意しなければいけません。小さい場面でも「染めるという意識を持つ」ことが大切です。

生地の表面を染料で塗った感じの色挿しと、しっかり裏まで染める意識でした色挿しとでは、仕上がりの厚みや奥深さが全く違います。


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