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映画「PERFECT DAYS」を観たです

先日、妻と最近評判の映画「PERFECT DAYS」を観に行きました。

結論から言うと、私は好きな映画でした。

以下、雑感の寄せ集めです。

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私は映画はまるで詳しくなく、家族や知り合いがPCやDVDで観ているのを横から観たり、たまーに興味が湧いたものを映画館で観る程度で、滅多に観ません。

作り手視点で観察するにも、私の資質だと掴みきれない程に映画制作は規模が大きいので手に余ります。

ですので、たまに映画館に行くと、色々な面で進化しているのに驚きます。

チケットの販売方法、館内の設備の進化、映画の映像や音の良さ、役者たちの演技の「昔とは違う種類の巧みさ」などなど・・・一々感心してしまいます。

自分を、どれだけ時代に取り残されたヤツなんだと思いますが、

そんな「全然映画に詳しくない私」が「予備知識ほぼ無しで」つらつら思った事を書きました。

この映画は「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトのなかで作られた・・・という所までは知っています。実際、映画の主人公がトイレ掃除の仕事で身につけるツナギのロゴもそれですし、出て来るトイレはそのプロジェクトに関連するデザイナーズトイレです。映画の内容は、そのプロジェクトの趣旨をベースに物語が組まれた感じでした。エンドロールを観ていたら、その関連の名前が多かったです。

ロケ地は、生まれてこの方東京から出た事の無い私の良く見知った場所が多く、元住んでいた住所と近い場所も出て来るので、映画自体をとてもリアルに感じました。

いつものように、前置きが長くてすみません・・・

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監督のヴィム・ヴェンダースさんは、私が若い頃に若者の間で流行っていた気がします。作品はヨージ・ヤマモトのドキュメンタリー的な映像を観た事があるだけで詳細は知りません。

主演の役所広司さんは、有名な俳優さんですから存じてはおります。映画では「うなぎ」というのをDVDで観た事があります。しかし氏について詳しく知っているわけではありません。

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ストーリーは特に無い感じです。

もし映画にエンターティメントを望む人が観たら全く面白くない「地味映画」です。映画の規模で言えばかなり小さいもので、ロケ範囲も非常に狭いです。「案件映画」の一種なのでしょうけども、逆に、だからこそこういう「地味を貫いた表現」が可能だったのかなあとも思いました。(事実は知りませんが)

基本的に、主人公「平山」が、いかにも昭和的な古いテラスハウス作りの風呂無しアパートで、自分が青春時代に好きだった本や音楽などに囲まれ、早朝から公園のトイレ掃除の仕事をし、仕事の合間にフィルムのコンパクトカメラでちょっとした写真を撮り、仕事が終わると古いママチャリに乗り銭湯で一番風呂をし、その後行きつけの居酒屋で軽く晩酌をし、小さい盆栽のようなものを育て、休みの日には、その生活に洗濯と少し贅沢な呑みも加わる・・・そんな行動範囲が狭く単調な日々の様子が淡々と描写されて行くだけの映画です。

映画の内容は基本的には本当にそれだけ。そこに少しだけ普段と違う出来事が幾つか起こり、そのなかのひとつは少し平山の過去を匂わせたりしますが、それで新たな場面変換があるわけではなく、また普段通りの生活の描写に戻ります。

ですから、百人が観たら、百人が自分の経験と照らし合わせて「平山像」を作れます。

主人公の平山に良い意味で感情移入する人がいれば、平山の生活に酷く退屈を感じる人、怒る人、主人公の描写にあざとさを感じる人、などなど色々な感想を持つ人が出て来ると思います。

また、日本人からしたら批判しようとすればいくらでも批判が可能な映画でもあるかも知れません。しかし、そういう色々な反応が出て来る事自体が狙いなのかも知れません。

若い人たち向けの映画ではないように感じましたが、最近は若い人たちに昭和ブームがあるようだから、そちらの興味から観たら若い人たちにとっても面白いかも・・・私が行った映画館の観客の殆どが50歳以上の人たちのようでした。

で、私にはその「主人公がほぼ同じ日々を淡々と過ごすのを描写しただけの映画」が沁みました。私は、ただ「私の平山」を持ち帰りました。

ある種の諦めと後悔と未来への薄い不安を胸のどこかに置きながら、自分の毎日に軽い快をもたらす事には丁寧に接し、ほぼ同じ毎日が繰り返されるけども同じ内容の日は無い、それを毎日確認する事への薄い喜びがあり、それは他人から観たら退屈かも知れないけども、平山はその「薄い喜び」を楽しみながら生きている・・・自分なりの納得した生活。そしてその生活に執着を持っている・・・達観しているわけではない。

そんな「平山が、ただ平山の人生を生きている姿」の描写が沁みました。

個人的には、ただそれを感じ、それに充分満足しました。余計なサイドストーリーや伏線が無いのも良かったです。

・・・ある意味この内容の映画を作ってしまうのは度胸がいるよなあと思いました。個人作品的というか・・・監督の作風なんですかね。

+ + + + + + + 

私は、本当に映画の事を何も知らないので、その他ただ感じた事を列挙・・・

*監督のヴェンダースさんは、日本の事にとても詳しいのでしょうか、日本の関係者も内容にかなりアドバイスを入れていたのでしょうか、日本の昭和世代の文化・人物が違和感無く細部まで描写されていて感心してしまいました。外国人が勘違いした日本、日本はこうあって欲しいという描写はほぼありませんでした。そこに僅かに外国人には日本はこう観えているのだなという箇所が散見され、それでそういえばこれは外国映画だったなと確認出来たりして、その感じが面白かった。これを外国の人たちが観たらどういう感覚を持つのだろう?と想像しました。

*数少ないセリフの一部は、もう少し練り上げても良かったかな?と感じました・・・

*セリフや説明的な要素が殆ど無い分、映像で読み取らせるための細かい描写が沢山仕掛けてありました。

*若い日本人の俳優たちがアイドルっぽい人では無いのが良かったです。

*画面が、昔のテレビや映画のような画面比で、あれは日本の昔の映画監督の小津安二郎的な感じを出すためだったのでしょうか。あの比率は、目線を動かさず全体を把握出来る面においてはとても有効だと思います。それと、日常生活を覗き観ている感じのリアリティのある視野ですので、この映画にはとても合っていると思いました。

*「平山」のセレブな妹が(平山は実はお金持ち一族のひとりであったという設定のようです)平山の古いアパートに、家出した自分の娘を迎えに来た時に「本当にトイレ掃除の仕事をしているの?」と平山に尋ね「そうだ」と聞いた瞬間に憐憫と軽蔑の感情が数秒顔に出た様子を見事に演じた女優さんに感心してしまいました。

*オススメ度で言うと「オレはとても良いと思ったし好きだけど、興味が湧いたら観ても良いかも、という地味映画です」といった感じです。私はネット配信で観られるようになったらもう一度観ます。(近所の映画館では既に上映終了しているため)

(ヘッダー写真は公式サイトから)


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