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夏の怪談 BBQ

著:ユキヒロ

雰囲気を出すために、音楽を聴きながらというのは如何でしょうか?



ではでは、はじまりはじまり。

これは、居酒屋で偶然仲良くなった男性から聞いた話です。
怪談でよくあるように、その男性をAさんとします。書きやすいですからね。

Aさんは少し特殊な仕事をされている方でした。
身寄りのない人が亡くなった際に、その人が住んでいた家や部屋を綺麗に掃除するという仕事です。
その仕事がない時は廃材の処理などを行っているそうです。

その日もAさんは亡くなった人の部屋を掃除するために、同僚の人と2人であるアパートの一室を訪れました。

Aさんはその部屋に入るなり、少し違和感を感じたそうです。
というのも、こういった場合に訪れる部屋はあまり綺麗とは言えない状態であることが多いらしいのですが、その部屋は隅から隅までぴっしりと綺麗に掃除されていたそうです。
Aさんは、まるで自分が亡くなることを事前に知っていたようだったと言っていました。

部屋に入って少し面を食らったものの、気を取り直してAさんと同僚の人は掃除を始めます。

遺品などを段ボールに振り分けていく作業をしていた時のことです。
Aさんはベッドの下から1つの8mmビデオテープを見つけて拾い上げました。
最初はその8mmビデオテープに何も興味は無かったのですが、それを段ボールに入れようとした際に8mmビデオテープに何かが貼り付けられていることに気づきました。

ん?なんだ?

Aさんが気になって見てみると、8mmビデオテープの裏に小さなメモ用紙が貼られていました。
そして、そのメモ用紙にはこう書かれていたんです。

これのせいだ これのせいだ これのせいだ
これのせいだ これのせいだ これのせいだ


メモ用紙一面に小さな字でびっしりと、これのせいだ、と書かれていたんです。

Aさんはその貼られていたメモ用紙を見て、少し不気味だなと思ったものの、その時はそのまま8mmビデオテープを燃やさないゴミ用の段ボールに入れました。

夕方頃になってようやく部屋の掃除が終わり、Aさんと同僚の人は片付けた荷物を持って事務所のある倉庫へと戻りました。

倉庫に到着すると、同僚の人は早々に帰宅すると言い出し、Aさんは仕方なく1人で報告書を作成することにしました。

パソコンでカタカタカタカタ報告書を作成していたAさんは、遺品欄に8mmビデオテープと入力する際に、あのメモ用紙に書かれていた言葉を思い出しました。
そして、それから報告書を書き終えるまでの間、ずっと脳裏にその言葉がはりついて仕方なかったのです。


これのせいだ これのせいだ これのせいだ
これのせいだ これのせいだ これのせいだ



Aさんはビデオの内容が無性に気になってしまい、してはいけないと理解しつつも、その日、その8mmビデオテープを自宅に持って帰ってしまったそうです。
翌日早くに倉庫に戻せばいいやと。

自宅に帰ってきたAさんは早速押し入れからビデオカメラを取り出して、その中に8mmビデオテープをセットしました。
それをテレビに繋げて、再生ボタンを押すと、

ザッ
「◯◯さーん、肉焼けてるー?」
「だから、ビール持ってこいよー」

ザッという一瞬の音から始まったのは、何人かでBBQをしている映像でした。
課長!とか部長!などの肩書きが聞こえたので、すぐに会社の関係者でBBQをしているんだなと理解できました。

Aさんにはもう1つ気づいたことがあります。
どうも、このBBQを撮影している人が、あの部屋で亡くなった人だということです。

BBQに参加している人がカメラ目線で、
「 Bさん、ちゃんと撮れてる?」と話しかけていたからです。
その名前こそが、あの部屋で亡くなっていた人の名前だったんです。

Aさんは、
(なぁんだー。ただのBBQの映像かぁ。)
と、どこか拍子抜けした気持ちになりながらも、しばらくその映像をながめていました。

すると、Aさんはまたあることに気づきました。
BBQをしている場所のさらにその奥にある広場の木の陰から、誰かがずっとこちらを見ているんです。
そして、よく見ていると、その目線はどうやら撮影をしている Bさんに向けられているようでした。
つまり、遠くからずっとカメラ目線でこちらを見ている。

そのことに気づいたAさんは、もうその目線に釘付けになっていました。

撮影された映像は、ずっと撮影されているわけではなく、ところどころで撮影を中断して、また撮影を再開するといった映像でした。

そのため、撮影の切り替わりのタイミングで、ザッという微かな音が入り、急に映像が切り替わります。

ザッ。
ザッ。


映像が切り替わる度にAさんは、あの目線を探すようになっていました。

ザッ。
ザッ。


Aさんはもう気づいていました。
映像が切り替わる度に、その目線の送り主が徐々に撮影をしているBさんの方へ近づいてきていることに。

それは、とても大人しそうな女性でした。
しかし、その長い髪の隙間からうかがえる表情は、憎悪に満ちあふれていて、限界まで開かれたその目はひどく充血していたそうです。

ザッ。

BBQも終盤にさしかかり、BBQをしていた人達が後片付けを始める映像に切り替わりました。

目線の送り主であるその女性はもうBBQをしていた人達と同じ場所まで近づいていました。

しかし、誰もその女性に気づいている様子はありません。
撮影しているBさんですら全く気づいている様子はありませんでした。

Aさんはふかんで後片付けの様子を感じながらも、目線はその女性に釘付けでした。
睨みつけるようにカメラを見つめる女性。

「ねー?Bさんも手伝ってー」
「わかったわかった。もう撮影終わるねー」

Bさんがそう言って、撮影をやめようとした、まさにその時でした。

ドタドタドタドタッドタドタドタドタッ

今までその場でただカメラを睨みつけていただけのその女性が、すごい勢いでカメラのすぐ目の前まで走ってきたんです。

撮影された映像を全て覆い隠すように、テレビ画面いっぱいにその女性の顔が映しだされます。

Aさんがその迫力にたじろぎ身を後ろに倒しながら目線を少し横に逸らしたときでした。

しっかりとこう聴こえたそうです。

かすれた低い声で、

ねぇ、私に気づいてるよね?
気づいてくれたよね?
....これからはずっと一緒だよね

って。

ビデオはそこで終わっていたそうです。

この話をしてくれたAさんは言っていました。
亡くなったBさんは、撮影をしている時は全くその女性に気づいていなかったけれど、後から映像を確認するときに気づてしまい、そこから何か悪い霊にでも取り憑かれてしまったんじゃないかと。

だから、ビデオテープに貼られていたメモ用紙には、びっしりと、

これのせいだ これのせいだ これのせいだ
これのせいだ これのせいだ これのせいだ

と書かれていたんじゃないかと。

Aさんはビデオを見た翌日にお祓いに行き、その8mmビデオテープも納めてきたそうです。

私はこの話を聞いたとき、心底こう思ったんです。

知らない方がいいことって本当にあるんだなって。


おしまい


p.s

あくまでも全て創作です。
少しでも楽しんで頂けたなら、嬉しい限りです。

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