見出し画像

【#シロクマ文芸部】雪化粧

お題:「雪化粧」から始まる物語
文字数:595文字

雪化粧を纏って白くなった街は音を包み込む。
久しぶりに感じる静けさに、私はカーテンを開ける前から雪が降ったことを悟った。
朝の光はグレーの空にぼんやりと浮かび、その前を音もなく白い雪がゆっくりと落ちていく。
ここに暮らし始めて何度目の冬になるのか。私は数えようとしてやめた。数えきれないほどの季節を繰り返した気がする。
それでもまだ旅の途中だ。

外に出てみると、近所の人たちも出てきていて、雪ですねと言いながら笑顔を交わす。
雪を踏む感触をしばし楽しんでから、私は家に戻った。
朝食をセットしていると、ブザーが鳴ってディスプレイがテーブルの上に現れた。
「緊急速報です。昨夜から降り出した雪は、今朝までの予定でしたが、システムの不具合で昼過ぎまで降り続く見通しです。修理の目処は立っているので心配は要りません」
女性のアナウンサーがそれだけ伝えると、ディスプレイは消えた。
長い旅で、さすがにこの巨大な宇宙船も不具合が増えてきた。
昨年の夏には雨が止まらなくなり、床上浸水に見舞われたエリアもあった。
長い長い旅を快適に過ごせるように、宇宙船の居住区域は街を丸ごと飲み込んだようになっていて、地球の四季が再現されている。
おかげで快適に過ごすことができたし、四季のイベントにもすっかり慣れた。

しかしこの生活ももうすぐ終わる。
3ヶ月後には地球に到着するのだ。
あとは、地球人と交渉するだけ。
戦闘部の準備はもう整っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?