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発達障害を考えるときのキホン4〜限局性学習症(SLD)〜 

この記事では、発達障害かもしれないと考えて受診される方やそのご家族、さらに発達障害を持つ方を支援する方、あるいはご本人が、発達障害を理解するための基本になる考え方をわかりやすく説明します。先に以下のリンクの記事をお読みください。

・発達障害を考えるときのキホン1 〜知的障害(知的発達症)〜
・発達障害を考えるときのキホン2 〜ADHD(注意欠如・多動症)〜
・発達障害を考えるときのキホン3〜自閉スペクトラム症(ASD)〜


 キホン1では知的発達症について、キホン2ではADHDについて、キホン3では自閉スペクトラム症について書きましたが、この記事では限局性学習症(SLD)について説明したいと思います。

 学習症(学習障害)は文字通り学習に支障をきたすのですが、勉強が苦手であれば全て学習症(学習障害)と言うわけではありません。学校の勉強についていけなくなった時にまず疑うのは、キホン1でお示しした知的障害(知的発達症)です。ですので、まずはIQを測る知能検査を受ける必要があります。知的な発達が全般的にゆっくりなこどもは、やはり学校の勉強にもついていくことが難しいからです。

 知能検査ではっきりとした知的発達の遅れがないことを確認した上で、それでも学習に支障をきたしている場合、さらにキホン2でご説明したADHD(注意欠如・多動症)がないかも確認します。ADHDのこどもは、特に自分が興味のないことには集中することができないため、多くのこどもにとってあんまりしたくない勉強に集中するのは難しいです。集中して聞けていないと、当然学習内容を理解することができないですし、テストでも時間内に集中して解くことができないので、成績は下がってしまいます。しかしこういったこどもの場合は、1対1での個別指導や自分の好きな教科だと、何の問題もなく理解したり点数をとったりすることができます。

 知的障害でもないし、ADHDでもなさそうだとなった場合、ようやく学習症(学習障害)を疑います。学習症は、知的な遅れなどの学習に遅れをきすような他の原因がないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習に必要な能力だけ、なぜかうまくできなかったりわからなかったりするものを言います。実は教育領域での「学習症の判断」と医療領域での「学習症の診断」とはちょっと違ったりするなど、色々と細かいことはありますが、私はその点についてはあまり本質的なことではないと思うので、詳しく知りたい方は以下のようなサイトを見て確認してください。
厚生労働省 e-ヘルスネット 学習障害(限局性学習症)

 ほとんどの学習症で問題になるのは「読み書き」の障害です。全般的な知的能力に問題はないのですが、なぜか「文字の認識」だけが上手くできないのです。文章を読もうとすると、単語ごとに区切って読めなかったり、隣の行の文字を間違って読んでしまったり、字を書こうとすると間違った書き順になってしまったり、漢字なのに右側から書いてしまったり、「へん」と「つくり」が逆になったりしてしまいます。かといって、言葉の意味が分かっていなわけではなくて、例えばクイズ番組のように口頭で問題を出されたら、きちんと答えることができます。「鎌倉幕府を作ったのは?」と聞けば「源頼朝」と口ではこたえられますが、漢字がどうしても覚えられません。

 私たちは母国語の文字を見ると、ほとんど反射的に頭の中で文字を音に変換しています。この文章を読むときに、頭の中で「発音」せずに読める人はいないでしょう。必ず頭の中で「音」にしてしまっているはずです。読み書きの障害のあるこどもは、このように無意識で文字を音に変換する「音韻の障害」というものがある場合もあります。下の文字を見てみてください。

السلام عليكم

 
 これはアラビア語で「こんにちわ(平安であれ)」と書いてあります。「アッサラームアライクム」みたいな発音だそうです。どうでしょう、皆さん、ちゃんと書くことができますか?
 おそらくどこからどこが一文字かもわからないと思います。この文字でどの部分が文字として大事な要素なのかもわかりません。それでも書けといわれたら、皆さん左から書いていくと思いますが、そもそもアラビア語は右から左に読みます!
 読み書きの障害があるこどもは、極端にいうと文字がこのように見えているとイメージしてください。書けと言われても文字として認識するのが難しいので、絵を写すような書き方になったり、右から左に書いてしまったり、棒が一本多くなったりしてしまいます。読み書きの障害のあるこどもたちの苦労がわかったでしょうか。

 さて、ではどうしたらよいのでしょう。こういった特性のあるこどもたちに「覚えられるまで100回書く」という指導をするのは、筋が悪そうだなと思いませんか。しかし読み書きというのは昔から「読み書きそろばん」というように、学習の基本であって、読み書きができなければどの教科のどのような知識を学んでいくにあたっても、大変な支障をきたしてしまいます。こういうこどもたちには、「合理的配慮」をしてあげて、「無駄に」勉強で苦労するようなことがないようにしてあげることが大切です。しかし現在の学校教育において、LDにどのように合理的配慮をしていくのがよいのかは、非常に複雑で難しい問題があります。さらにこの問題はもっと深く考えていくと「障害とは何か」というテーマにつながっていくものです。このことについては一回の記事では書ききれないので、また別の記事として書いていきたいと思います。

 発達障害のキホンについては以下の動画もぜひご覧ください。


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