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イギリスの医療通訳サービスは無料で受けられる話

こんにちは!

前回、イギリスの公共サービス通訳について書きました。そこで、イギリスのNHS(National Health Service)と呼ばれる医療制度は、国が一括で管理運営していることに触れました。そして、イギリスに住んでいる全ての人は、国籍や収入レベルを問わず、無料で医療サービスを受けることができます。

もちろん、それには賛否両論あります。政府のお財布事情がダイレクトに反映されることもあり、その経営事情がニュースで取りざたされることもしばしば。しかし、それはコロナ禍以前の話です。この一年間、NHSに勤務する医療従事者は、まさに国家の危機を最前線で戦っている英雄として、国民から多大な感謝と尊敬を集めています。

話は逸れましたが、NHSでは患者が英語を話せない場合に、無料で通訳サービスを提供しています。これは意外と知られていないことなのではないかと思います。というのも先日、もう30年近くイギリスに住んでいる日本人の友人が、この無料通訳サービスを知らなかった、と言ったのを聞いて驚いてしまいました。

現在私は医療通訳としても、イギリスNHSに日本語通訳サービスを提供しています。もちろん、これは無料のボランティアというわけではなく、エージェント経由で照会がくるので、そのエージェントから料金もいただいています。しかし、この料金の出どころも、国の予算となります。患者さんには一切の金銭負担はありません。しかし正直なところ、もう「ボランティア」というに等しい報酬です。イギリスで通訳者として、医療通訳のみで生計を立てるということは、不可能でしょう。それにも関わらず、医療通訳は、それなりの専門性が要求されます。私は常々、一体どのような人たちがこの仕事を引き受けているのか?不思議に思いながら、自分も仕事を受けています(笑)。私の場合は、やはり日本語⇆英語の医療通訳の専門知識を学ぶため、日本の厚生労働省が定めるカリキュラムに沿った講座を規定の時間数(約半年間)受講しました。私は医療だけに特化して通訳サービスを提供しているわけではありませんが、患者さんにサービスとして提供するからには、生半可な知識ではできません。自分で言うのもなんですが、毎回かなりの責任感とサービス精神を持って、通訳業務をさせていただいています。

では、こんなに実入りの少ない医療通訳の仕事をなぜ続けているのか?それは、私自身がイギリスに移住してから数々の心細い場面を経験してきたからと言えます。特に、医療の診察はその中の一つです。私は全く英語が話せないという状態ではなかったのですが、それでも、診察の前後にはいろいろな言葉を調べました。ただでも不安な状況の中で、英語でうまく表現ができず、聞きそびれてしまった質問も多くありました。特に子供の具合が悪く、夜中に救急外来に電話をした時など、かなり動揺しました。子供の病状の説明にあたふたしてしまい、涙があふれたことさえあります。イギリスに暮らす移民として、こういった場面で言葉がでてこないもどかしさを、忘れることができません。イギリスで暮らす日本人の方や、観光客、留学生が少しでも安心して医療サービスを受けられるよう、何か力になることができるのであれば、サポートを続けたいと思っています。

それで、本題に戻りますが、イギリスのNHSでは医療通訳サービスを無料で受けられます。なので、日本人で日常生活に困らないくらい英語ができる方でも、またはパートナーが助けてくれる、と云う場合でも、思い切って医療通訳を頼むことをおすすめします (なにせ無料ですから!)。というのも、医療では、日本語にしたら「あ、なーんだそのことか!」と思うような簡単な単語でも、思わぬ英語表現が出てきます。またパートナーの方が日本語を話さない場合もあるでしょうし、家族が通訳に入るべきではない診療もあるからです。何より通訳を介す安心感で、余裕を持って診察を受け、医師に細かい質問をすることができると思います。

今後また機会があれば、英語で医療サービスを受ける際の簡単な英会話のコツも書いてみたいと思います。

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