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コロナの売人から地元アイドルに戻るまで

ようやっと緊急事態宣言もマンボウも何もない日に戻った。
しかし、1年以上も続くコロナの恐怖はなかなか払しょくできない。
特に感染者数が少ない田舎は、感染拡大地域から誰か来るというだけで戦々恐々とするらしい。と聞かされる帰省者もハラハラドキドキもんだ。

モデルナワクチン2回接種、PCRと抗原検査の陰性証明をひっさげて帰省した。

感染拡大地域に住んでいるだけで「コロナの売人」扱い

2019年夏の帰省を最後に2年帰省できずにいた。
何度か帰省できそうなタイミングがあったものの、周囲からいろんないちゃもんがついて何度も断念した。

緊急事態宣言中だから
大阪が蔓延しているから
府県間の移動自粛が秋田県で呼びかけられている
PCR検査しても飛行機に乗っている間に感染するかも
両親がワクチン接種済みでも本人が打たないと危ない
ワクチン打っても完全に感染しないというわけではない

さらに、両親が言っているレクリエーションセンターや病院では必ず

「他府県在住者との接触ありますか?」

と聞かれるらしく、もし「はい」と答えたらどういう措置がされるんだろう?ともはや、感染拡大地域に住んでいるだけで「コロナの売人」扱いだ。

そうこうしているうちにあっという間に2年が経過し、90歳を過ぎたばあちゃんが、ご飯を食べられなくなり、歩けなくなり、いよいよ最後かもという連絡がきた。

とはいえ、さほどボケているわけでもなく、意識あるうちに顔を見せてあげたい。

モデルナワクチン2回目接種後の高熱、倦怠感を乗り越え、空港でのPCR、さらに抗原検査の陰性証明があれば文句ないだろう!と万全の体制で帰省にこぎつけた。

とはいえ、前日になると近所や親戚の目が気になる母から
「やっぱり、大丈夫かしら?いや、大丈夫、もういいわよね?
いや、いい!だって緊急事態宣言解除したもの!でも、まだ大阪は50人くらいいるし、やっぱりやめたほうがいいからしら」

と本人も娘には会いたい、けど、近所の目も気になると、よくわからない板挟みに苦しんでいる模様。

「じゃ、やめときましょか?」

と言ったら、とたんにさみしくなったみたいで

「いい!もういい!YOUきちゃいな!」

とどっかの社長のノリで自分の気持ちにけじめをつけた。

とはいえ、強気だったゆきんこもいざ、空港で検査結果を待っている間は気が気じゃない。

もし陽性だったら飛行機に乗れない、近くの病院に緊急搬送される

などと脅され、生きた心地がしなかった。

無事、陰性証明をゲットし、飛行機に乗り込むもいつものウキウキ感が出てこない。

もし、本当にコロナの売人になったらどうしよう・・・
両親が感染したら、どうしよう・・・

と考えているうちに秋田空港到着。
ロビーで待つ母親と落ち合うとそんな不安はどこへやらとばかりにマスク越しながら、つばを飛ばしまくってしゃべりまくった。

自宅についてもさすがにマスクは外さず、夕飯は小皿によそってもらい、唾液が飛ばないように注意しながら食べた。
しゃべるときはマスクを装着し、洗面台のコップも別にし万全の体制。

隣近所にばれないようにひっそりと過ごし、1週間ほど過ごそうと考えていた帰省2日目。ばあちゃんが入院している病院から連絡がきた。


ばあちゃんの臨終は窓の外から

「血圧が低く、息も絶え絶えで今日、明日が山場です・・・」

え?どういうこと?意識あるんじゃなかった?

「他府県在住者との接触ありますか?」と毎回聞かれる病院のため
ひとまず、両親とおじさんがばあちゃんを見舞う。

静かに眠っているばあちゃんは、今日、明日とは思えないほど穏やかだったそう。

もしかしたら、私が話かけたらまだ意識が戻るかもという感じだったようで恐る恐る母が

「孫が会いに来てもいいでしょうか・・・大阪在住なんですけど・・・」

ちょっと躊躇しつつも

医者:「ええ、大丈夫ですよ」

と言ったのに、横にいた看護師さんが

えええ!大阪・・・・

と小さい声でのけぞったのだそう。

ワクチン2回接種済み、PCR検査陰性証明を持っているといったものの
看護師さんの固い表情は崩れなかったそうだ。

ゴーストバスターズみたいな防護服を着たらいいのか?とも思ったが
それでばあちゃんが睨まれたら元も子もない。

ということで、次の日、せめて近くに行ってあげたいと外から病室の窓を眺めていた。

ぼーっと眺めていたとき、会いたかった孫がすぐ近くにいるのを感じ取ったのか、す~っと穏やかに息を引き取ったらしい。

やっと会えたばあちゃんは冷たく、二度と目を開けてくれなかった。

寝ずの晩をした結果

亡くなった後ならコロナに感染しても文句ないだろ!と言わんばかりに
「寝ずの番」をやらせてくれと買って出た。

それはいいとして、近所や親戚に帰省がばれないようにこっそり帰ったつもりがばあちゃんの他界により一気に知られてしまった。

通夜には少ないながらも近所の年寄、親戚がきた。

「おお、帰ってたのか!」
と気さくに話しかけてくれる人もいたが

「1.5mのソーシャルディスタンスせねば!」
「介護職だから、他府県の人と接触すると仕事できないのよ」

などなど、コロナの売人扱いは続く・・・

コロナの売人が寝ずの番をするからか、みんないそいそと帰っていく。
なんだかばあちゃんに申し訳ない気がしてきた。

冷たくなったばあちゃんに寄り添い

「やっぱさ、寝ずの番は私じゃないほうがよかったかね?みんな最後のお別れをゆっくりしたかっただろうに、コロナの売人が隣にいたから挨拶できなかったんだろうな~」

なんて話かけながら夜明かしした。

ばあちゃんが極楽浄土にいけるように、旅路の足元を明るく照らすために
線香とろうそくの火を絶やすことなくきっちりと役目は果たした。

もしかしたら、ふっと息を吹き返すかも?なんて思いながらじ~っと顔を見つめるものの、お腹に保冷剤をがっつり入れられた状態でぴくりとも動かなかった。

次の日。

「コロナの売人が一晩中いた部屋はコロナまみれになっているから
怖くて来れない!」

なんていって誰もこないんじゃ?という、もはや自分はコロナの売人と認識してしまうおかしな精神状態になっていた。

が、そんな不安はどこへやらとばかりに昨日とは打って変わって

「一晩中ご苦労さん」
「おばあちゃんはゆきんこのおかげで極楽浄土にいけたよ」
「疲れたでしょ。これ食べて」

などなど優しい言葉をかけていく。

こんな時期だけど、葬儀後の会食をしたときは、さすがに一緒に食事をするのはまずいだろうと事態しようとすると

「寝ずの番をやったゆきんこはこっちゃこい!」

と真ん中に呼びつけられ

「もう、マスクなんていらない!大丈夫だ!」

とこっちがひやひやするくらいの至近距離でしゃべくりまくり。
お寿司も気を使って別の箸でとろうとすると

「誰も気にさねから、普通にとっちゃいな」

と感染対策どこへやらだった。

理由の一つとして、ワクチン2回接種済み、PCR検査の陰性証明を持っていることを母が来る人来る人に伝えた。

もう一つ、自分でいうのもなんだが、ゆきんこはもともと近所では、愛想がいいからか、変人だからか、いつもニタニタしているからか、アイドル並みの人気を誇っている。

特におじさん連中は本当はゆきんことしゃべりたい、接触したい、飲みたくてたまらなかったのだ。

ということで、コロナの売人の汚名を返上し、いつもの地元アイドルに戻ったゆきんこ。

2年ぶりの帰省は、すったもんだはありつつも、後半はいつもと変わりなく近所の人たちと交流し、楽しく過ごせた。

空港では、白髪が増え、はげ領域が拡大した両親が手を振って見送ってくれた。二人の笑顔を見ながら、「このままコロナが続いたらあと何回元気な姿で会えるんだろう」と不安が募る。

ようやっと感染対策に気を配りながらも人間らしい暮らしができるようになってきた。
この当たり前と思っていた人間らしい暮らしが長く続くことを願うばかりだ。

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