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ふることふひと1・2巻感想

 こんにちは、雪乃です。今日は漫画「ふることふひと」の2巻を買ってきたので感想を書きます。1巻はかなり前に手に入れていたのですが、なかなか感想が書けず。ですので、1巻もまとめて書いちゃいます。

 ネットでたまたま見かけたことをきっかけに読んだのですが、貴重な上代を扱った作品なので、まあ上代で卒論書いてる者としてとして買わないわけにはいかないよねと。個人的には大好きな上代の女性の装束が見られるのが嬉しいです。

 で、肝心のストーリーについて。

 舞台は奈良時代の日本。主人公は、中臣史(なかとみのふひと)。大化の改新の立役者である中臣鎌足(藤原鎌足)を父に持ち、のちに藤原氏隆盛の礎を築くことになる「藤原不比等」その人です。しかし本作に登場する史はまだ下級役人。

 ある日彼は天武天皇から史書の編纂を秘密裏に命じられます。有名すぎる父親の影から逃れるため、また史書の中立性を保つため、史は偽名で編纂事業に取り組むことに。そして正体を隠すべく女装をして「稗田阿禮」を名乗り、太安萬侶とともに史書――「古事記」の編纂を始める……のが第1話のあらすじです。

 調べたんですが、一応「稗田阿禮は女性だった」「稗田阿禮は藤原不比等の別名だった」という論はあるみたいですね。女性説に関しては否定されているようですが……。
 作中における「稗田阿禮」は、女性かつ史の偽名という、先行研究の闇鍋状態な設定ですが、うまく理屈として成り立っているのが「ふることふひと」のすごいところ。

 台詞回しや演出も含め歴史ものとしてはカジュアルな部類に入るかと思いますが、締めるべきところは締めているので軽すぎず、かといって硬くなりすぎず読むことが出来ました。

 安萬侶の台詞に「愛しい」で「うつくしい」と読ませるものがあったり、また彼が作中で詠んでいる歌が短歌ではなく5・7・7の「片歌」であるなど、上代らしいポイントがきちんと押さえられているのもすごく好きなところです。

 古事記の編纂がテーマとなっているので、日本神話の要素もふんだんに登場します。やはり漫画はビジュアルでわかりやすいので良いですね。スピンオフで日本神話のコミカライズやってくれないかな(個人的な願望)。

 テンポの良い作品でコメディタッチなところもありますが、「自分は誰なのか」「歴史は誰のものなのか」と、作品を貫くテーマはかなり骨太。壬申の乱や史の出生の秘密も絡んで物語が展開されていきます。

 別の作品なんですが、私、「応天の門」も好きなんです。あちらは平安時代前期を舞台に、学生時代の菅原道真が活躍する話。
 「応天の門」で外せない要素が「藤原氏」。応天の門は藤原良房・基経が政権を握っている時代を扱っており、すでに藤原氏の力は絶大なものとなっています。で、私は藤原に対してどえらい複雑な感情を抱いているわけですよ。だって推し(大伴旅人)の子孫を失脚させたのは史実だと藤原氏じゃないですか。応天門の変ですよ。もう平常心でいられるわけがありません。
 そんな中で読んだ、藤原氏隆盛前夜を扱う「ふることふひと」。のちに勝者として歴史の表舞台に立つ彼が、乙巳の変の勝者である父・鎌足の影を逃れ、敗者に心を寄せて史書を編纂する。何これエモい。平常心でいられるわけがありません(2回目)。
 中臣を名乗っていた史ですが、2巻で登場する彼の親戚で氏上である大嶋(名前です)は鎌足の息子である史を差し置いて「藤原」を名乗っています。そして「藤原」が呼び起こす、史の秘密。

 ふ、藤原氏の業の深さ~~~~!!!!!

 すいません、取り乱しました。「応天の門」といい「ふることふひと」といい、つくづく罪な一族ですね、藤原氏。でもたぶんこれから史も藤原を名乗るんでしょうね、きっと。
 中臣史がいかにして藤原不比等となったのか。時代としてどこまで描かれるのか定かではありませんが、彼の行く末が楽しみです。

 そして忘れてはいけないのが、もう一人の主人公と言うべき太安萬侶。小柄で太眉タレ目という、刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる(私とか)ビジュアルの彼。武人を父に持ちながらも文官の道に進み、「日本語(やまとことば)」に誇りを持つ姿がカッコイイです。古事記の草稿を天武天皇に献上するシーンとか、もう泣きそうになりました。

語りは言霊だ
神々は音に宿る
俺は字を使ってそれを表現したい
これは日本語(やまとことば)で『読む』為の史書なのだから

 安萬侶の台詞を1巻から引用しました。この台詞好きなんです。このシーンを初めて読んだとき、「ああ、私上代を選んで良かった……」と心の底から思うことが出来ました。まあ卒論のテーマ古事記じゃないんですけど。万葉集なんですけど。
 日本語が日本語になるまで、作中で描かれるような苦労がきっと史実でもあったんだろうなあ。「上代漢字しかなくてめんどい」とか言っててすまんかった。仮名の登場はずっと後ですからね、仕方ないですね。

 わかりやすいので、上代の予備知識ゼロでも楽しめるかと思います。1~3話まではマグコミで常に公開されているので、ぜひ読んでみてください。
 本日もお付き合いいただきありがとうございました。