「白橡の森」観劇感想

 こんにちは、雪乃です。お久しぶりです。元気です。

 たまに浮上しては特撮の話をする場になりつつある当アカウントですが、今日はMono-Musicaの新作音楽劇「白橡の森」を観劇してきました!

 実は今年はこれが初ミュージカル。なんか舞台2回くらい行った気がするな~と思ったのですが私が行ったのはシアターGロッソのヒーローショーでした。

 さて、白橡の森の感想です。今回は古典ミステリ風音楽劇ということで、台詞は非常に文学的。演劇体験というよりも文学体験であり、まるで小説の中に入ったような没入感を味わうことができました。小説の中の登場人物は、こういう温度を感じながら、こういう空気の中で生きているのだと実感できることそのものは極めてシアトリカルな表現です。しかし、まるで小説の世界と読者を隔てる紙という境界線を取り払ったような唯一無二の質感は、文学と演劇を同時に味わうという、まったく観たことのない虚構。作品のテーマでもあるように、真実と偽りが入り乱れる世界観がとても良かったです。
 隔てる、と書きましたが、本作でも「隔てる」あるいは「隔てられている」事象こそがひとつのテーマだったように思います。降霊術が行われる部屋を舞台の中央に据え、その部屋に隔てられるようにして張り出した舞台がある。物理的な「隔て」がやがて人間ドラマとしての「隔て」に昇華され、その「隔て」が揺らいでいく終盤のスティーヴンソンとメアリのシーンはゾクゾクしました。

 ミステリーというだけあって、やはり脚本の伏線回収の妙技が冴え渡った本作。冷蔵庫の中身をすべて綺麗に調理して終わるラストは気持ちよくもあり、しかし終わり方は観た者の心に傷を残して去って行くような切なさがありました。

 そして毎回恒例キャラクター/キャスト別感想です。

 まずは精神科医のヘンリー・スティーヴンソン(まなむさん)。この物語は、公式サイトで公開されている脚本の冒頭部分で明かされているように、彼を軸とした「三人称視点」で進んでいきます。演劇としては狂言回しのような役回りを担う彼は、まさしく歩く地の文。テクストの台詞でない部分にすら命を宿す血の通ったお芝居がすごく素敵でした。
 スティーヴンソンにおいて最初に抱いた印象は、一人異界に放り込まれた「まれびと」でした。「まれびと」の持つ異質さが物語の謎の中核をなしつつも彼自身の感情の導線は協力に作ってくれる脚本でもあったので、とても感情移入しやすく、彼と同じ温度の感情で真実を受け止めることができました。

 次は降霊術師のメアリ・ミラー(ヤヤさん)。降霊術師として有名でありながら、夫をベラドンナの毒で殺した「毒婦」ではないか?とも噂される人物です。
 真っ黒な衣装も含めて、まるで夜を切り取ったような佇まいが印象的でした。
 つかみ所の無い妖しさを湛えながら常に上品に振る舞うメアリの姿はどのシーンも好きなのですが、特に好きなのが「ネヴァーモア」。降霊術士ミセス・ミラー、あるいは毒婦のミセス・ベラドンナを纏っていたような彼女が見せる、誰かを間違いなく愛した、人間としての「メアリ・ミラー」としての表情。それまで見せることのなかった一面、あるいは心の叫びが音楽を通してすうっと心に入ってくる、そういったミュージカルらしい表現が心に刺さりました。

 貿易商のアーサー・フォード(マナさん)。亡くなった父からフォード商会を引き継いだ青年です。裕福な育ちの彼らしい余裕ある振る舞いが印象的なアーサー。常に杖を持っている彼ですが、この杖は母が父のために作らせ、そして今となっては亡き父の形見となっているもの。親の化身でもあり形見でもあり偶像でもあり虚像でもあるこの杖を持った立ち振る舞いが常に上流階級然としていたからこそ、アーサーが感情的に振る舞う場面では、大きな音を立てるなどしてまるで彼自身の化身となる。彼の育った歪な家庭が1本の杖に集約されていくお芝居は特に見応えがありました。終盤で魂の抜けたようなアーサーが杖に触れている、あのうつろな手元の表現も含めてとにかく素晴らしかったです。

 最後は新聞記者のキース・ブラウン(文音さん)。人なつっこく明るいキースでしたが、表層のコミュニケーションから本質を見抜くような聡明さが常に垣間見え、そういった要素が終盤の展開にも繋がっているのがすごく好きです。明るさだけではない、キースが常に持っている「食えなさ」のようなものは、終盤で明かされる真相だけではなく、物語を作る工程すべてに奥行きを持たせていたように思います。
 ……といろいろ書きましたが、一番好きなのはバックギャモンのダンスシーンです。カッコよすぎじゃないですか?!キースくんのアクスタってないんですか!?(そういやデスパレートのシーくんのときもこんなこと言ってたような気がするな。)

 まるで自分が、あの森を取り巻く霧の水滴の一粒になったかのような「白つるばみの森」。没入感をさらに超え、物語と一体となった感覚が忘れられません。それでいて物語る立場に観客がなることはなく、この物語はあくまで三人称視点として──神の視点で見下ろされているものとして進んでいく。そのような体験ができる作品としてもとても新鮮で楽しかったです。

 そしてグッズは公演台本とプログラムを購入。台本でいいですね。モノムジカの作品は日本語がとても強靱で美しく、思わず声に出したくなります。

 今年は「パノプティコンの女王蜂」の再演もあり、本公演も2幕もののミュージカルということもあって楽しみです。

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。

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