ミュージカル「DESPERATE」観劇感想

 こんにちは、雪乃です。今日は舞台を観るべくシアター風姿花伝に行っていました。感想を書いているうちに日付が変わっていたのですが、私がまだ寝ていないので今日という体で進めさせていただきます。

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 今回観劇したのは、ミュージカルグループMono-Musicaによるミュージカル「DESPERTATE」です。

 Mono-Musica、生で観たのは今回が初めてですが、初めて知ったのは高校生の時。当時宝塚のことを調べている流れで女性だけの劇団を紹介するサイトにたどり着き、そこに名前が載っていたのがMono-Musicaでした。
 劇団の公式YouTubeで初めて見た公演の動画が「花廻りの鬼」。楽曲や世界観があまりにも好みど真ん中で、そのままDVDを買いました。当時お小遣いで買ったDVDは今でも宝物です。

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 そんなこんなで、高校生の頃にMono-Musicaを知った私も社会人に。ようやく本公演を観に行くことができました。

 第13回本公演「DESPERATE」。主人公はステージシンガーを目指すエルザ・キンバリー。顔にある傷からレディ・フランケンと呼ばれる彼女が、フリークスたちの集う酒場に迷い込むことから始まる物語です。

 まず、めちゃくちゃ楽しかったです。キャラは濃いし衣装はどのキャラもすごく凝っているし、すべての楽曲が良いし、キャストさんも歌唱力のある方ばかりだし、ダンスもカッコいい。無駄なく伏線が回収され、最後は物語の構造そのものに観客席がまるごと組み込まれる構成。100分間ノンストップ、最高に楽しいハロウィンミュージカルでした。
 万葉集から北欧神話、ケルトの伝説に至るまで、東西を問わず取り入れられたモチーフが、ハロウィンという、異なる世界が混ざり合う強力な舞台装置の中で共鳴し合う物語でした。(万葉集で卒論を書いた身としては万葉集が取り入れられているのが嬉しい。)

 また生で観たわけではないものの初めて観たMono-Musicaの作品が「花廻りの鬼」だったので、台詞の中に「黒塚の杜」が出てきた時はテンションが上がりました。過去作との繋がり、楽しい〜!

 私が高校生の頃にDVDで観た「花廻りの鬼」でも、伏線の回収がとにかく鮮やかだった感覚が強く残っていて。異なるバックグラウンドを持ち、異なる人生を生きるキャラクターが持つストーリーが、最後にはパズルのピースがそろうように綺麗にひとつの物語を形成していく。すべてが繋がったときの気持ちよさに、最高にゾクゾクしました。この感覚を生で味わうことができて良かった……!


というわけで、観劇感想恒例のキャラ別・キャスト別感想を。

 まずはずぅさん演じる主人公エルザ・キンバリー。サイレント映画のスター女優に憧れ、自らもスターになるべくオーディションを受け続ける女性です。
 オープニングの楽曲で、まずそのソウルフルかつ心の深いところに響く歌声と歌唱力に圧倒されました。ステージの真ん中で歌声を響かせる姿はまさしくディーヴァ。しかしそんな姿から一転、酒に酔ったエルザの姿がもう面白くて。そんなコメディエンヌぶりを見せたエルザがフリークスたちとの関わる中で、自分の本当の願いを見つけていく過程はすごく刺さるものがあったし、何よりも、願いも傷も意思もひっくるめて、自分の人生をきっちり引き受けていくエルザの姿がすごくカッコよかったです。

 次はフリークス酒場の主人である鵺。演じているのはしひろさん。中華風の黒いお衣装がめちゃくちゃ似合うし、丈長めな衣装が映えるダンスも好き~~~!!!こんな美青年のいる酒場なら、ハロウィンと言わず1年中通いたい。謎多き存在としての揺らぎと、酒場の主人としての包容力を持ち合わせた鵺。アルカードとの絡みも楽しく、また2人で歌うシーンは、どこぞのアイドルかと。
 鵺の過去、なぜ彼が「鵺」なのか。明瞭な存在が次第に不明瞭になっていく過程が明かされる鵺の回想シーンは、謎多き彼の真相が明かされつつも、一番「揺らぎ」が見える場面ですごく好き。

 魔女のセイラム。演じているのはヤヤさん。「花廻りの鬼」の御堂役が強く印象に残っていたのですが、生で拝見しても唯一無二の存在感……!何百年と生きていそうな佇まいの説得力もまたすごい。コミカルな面と底の見えない魔女らしさが不思議と同居していて、これはもう「セイラム」という、ただ1人の魔女だなと。一見するとエキセントリックな魔女ですが、その奥にあるのは、先に旅立ってしまった仲間への情。仲間が得意だったことを自分のものにしようとするその姿勢に、脚本全体に貫かれた優しさを感じました。

 吸血鬼のアルカード。演じているのはみきさん。吸血鬼といえば十字架やニンニクを苦手としていることでおなじみですが、アルカードはその真逆。十字架が苦手どころかネックレスとして身につけてしまっているし、好きな食べ物はペペロンチーノ。しかしそんな彼ですが、十字架やニンニクを苦手とする、「普通の」「一般的な」吸血鬼になりたい、という願いを持っています。翼で空を飛ぶことに対する憧れを見せる純粋さと共に見せるのは、「向いている」「向いていない」という単純な二元論では語り切れない、本当の願い。自分の願いに対する真摯さがすごく素敵でした。鵺との、漫才?のようなやり取りからの「Pumpkin,Pumpkin」のギャップも大好きです。

 狼女のハティ。演じているのはジュンさん。孤高という言葉が似合うシャープな佇まいと繊細な歌声のギャップに魅了されました。
 ハロウィンの王・ジャックが姿を消してもなお恋い焦がれるハティ。エルザと歌う「Ugly Angry Monster」で見せる剥き出しの強さと脆さに説得力があったのは、その歌声あってこそ。エルザとのデュエットは本当に耳が幸せでした。フリークスでありながら人間のエルザとどこか通じ合う要素を持っている姿は、皆どこか人間らしい月夜の森のフリークスたちを象徴する存在だと思います。

 人魚のヤオ。演じているのはまなむさん。透明感のある衣装もあってかファンタジックな空気感を纏うヤオですが、叶えたい願いのために覚悟を決めている強さのあるキャラクター。たとえ代償を支払ってでも願いを叶えて愛を貫こうとする姿勢は一貫して地に足ついたもの。人魚だけど。
 ヤオにまつわる伏線の回収がバチッとハマったときの気持ちよさは、やはりヤオがそれまで限られたシーンの中でも、愛する人への想いを丁寧に積み上げてきたからこそ。本作に貫かれたテーマである「願い」を主軸に据えたキャラクターとしても説得力のある誠実さが魅力的でした。

 妖精のシー。演じているのは文音さん。ビジュアルがあまりにも2次元すぎて、舞台上に現れた瞬間に我が目を疑いました。シーくんのアクスタってないんですか?!
 そんなシーは、手の動きも含めて可愛く、そしてハティを思う姿はカッコよく。ハティのために、ハティは知らない方が良い真実を引き受ける。真相を知った上でもう一度立ち振る舞いを考えると、違うものが見えてくるキャラクターでした。

 酒場の影・ジョンドゥ。演じているのはマナさん。「名無しの男」を意味する英語をその名にもつ、正体不明の存在。あらゆるシーンに登場しては、フリークスたちの感情をダンスで表現する不思議な存在です。重力を感じさせないダンスはまさしく「影」。そこにいるのにそこにいない、そんなキャラクター。作品の舞台となっている「月夜の森」の息遣いの具現化とも言えるジョンドゥ。何者?という問いは意味をなさないのでしょう。彼(?)はジョンドゥでしかないのですから。
 他のキャラクターと言葉を交わすシーンもあり、そういう場面では表情豊かで愛嬌のあるジョンドゥ。哀愁ある姿を見せたかと思えば笑顔がすごく素敵だったりと、掴み所はないのに気づいたら好きになっているキャラクターでした

 終演後にプログラムを読んだのですが、作品全体に横たわっていたのは深い愛なのだなと思いました。それぞれのキャラクターの持つ「異なり」を愛おしむように書かれた脚本。しかしその一方で、「普通」に憧れるアルカードという存在が、否定されることなく存在している。たまらなく、優しい世界だと思います。プログラムのアルカードのページに書かれた言葉は自分自身のバックグラウンドと重なるものがあり、すごく響きました。

 「自分が本当に願うことは何?」
 個性的なキャラや多彩なモチーフに彩られた作品でありながらも、「DESPERATE」が伝えているメッセージは「死に物狂い」の物語であるがゆえにごくシンプル。プログラムに書かれた言葉や歌詞を味わいながら、自分の願いについて、考えてみようかなと思います。

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。

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