躁転のときにボーリングの球を買ったら大変な目にあった

 春がやってきた。毎年のことではあるけれど春の訪れというものはとても気分がいいものだと思う。特に私のような精神疾患もちにとって冬は鬼門みたいなものだから、春から夏にかけて徐々に体調がよくなっていくのを感じるのはとても気持ちがいい。

 いまの職場ではお花見と呼ばれる行事がないので私のような人付き合いが上手ではない人間にとっては大助かりなのである。

 新卒一年目のときに駆り出された職場のお花見の席では欅坂46の不協和音をもの凄いテンションで歌った。それも率先して「はい!はい!〇〇事業部営業二課新人の〇〇女子大卒斎藤優希です!歌います!歌わせてください!!」みたいなテンションで。周りの関係ない人たちも拍手してくれた。恥ずかしい思い出なんですが今思えば明らかに躁転。

 それにしても「僕はYESと言わない 首を縦に振らない 周りの誰もが頷いたとしても 僕は嫌だ!」なんて言う歌を入社したばかりの社会人一年生がこれから働く職場の人達の前で歌えたのって凄い。当然課長とか部長とかもいたのである。さすがZ世代。我ながらあっぱれだった。いまの私にはもうそんな勢いはないからあの頃の無敵だった私が少し羨ましくもある。

 あの頃の私はそんな自分のことを

 「たまに羽目を外し過ぎることもあるけれどサバサバしていてノリが良くて遊びも出来るし仕事も出来る人気者の女」

 というふうに思っていた。なんたる思い違いであろうか。恥ずかしくて〇にたい。
 それにしてもつくづく双極性障害という病名がついて良かったと思う。双極性障害という病気が無かったらただの異常人格者だと思われてお終いである。精神障がい者になんかなってしまって碌なことが無いとめそめそしがちな私ですがこういう良いこともあったんだぞということは忘れないようにしたいと思う。

 というかこうして書いてみると女で双極性障害ってかなり恥ずかしいよねって思う。首を吊りたくなるのも当然。勿論私もそう。

♢♢♢ 

 去年の5月だったか?外出先で見つけたいい感じのアンティークショップにボーリングのピンと球が売られているのを発見した。

 ピンの木の質感に魅せられてしまった私は購入を決意。ついでに球も買うことにした。当然こんなものは我が家の生活には全く必要のないものである。なぜこんなものが欲しくて堪らなくなったのかは謎である。謎としか言いようがない。

 ちなみにお値段のほうはふたつ合わせても三千円ちょっとぐらい。でも相場が分からないのでお買い得だったとも何とも言えない。

 店員さんは当然発送するものだと思い込んでいたけれど私はそれを謎のテンションで頑なに拒否して持ち帰ると主張した。当然重い。本当に今思えばなんでこんなに重くてかさばるものを持ち帰ると言い張ったのか本当に謎。

 結局押し問答の末に店員さんが折れて、それほど大きくないコットンの買い物バッグに球とピンを無理やり詰めて持ち帰った。球がバッグに収まりきらず三分の一ほど袋からはみ出す始末。もし電車の中でゴロンと転げ落ちたらオッペンハイマーも真っ青の大惨事である。

 店を出て十分ほど歩いて駅についた頃には指がちぎれて肩が外れるのではないかというぐらいの身体的ダメージを受けていたのだがど根性で家に連れて帰った。この辺りの根性とか無理やり持って帰ろうとするあたりの執念も謎。躁転って本当に謎。普段だったら絶対にしないようなことをやってしまう。だから病気なんだろう。

 後日ソファに座りながら足で球をころころと転がして遊んでいた時にちょっとしたアクシデントが発生して左足の小指にヒビがはいった。蒸し暑いさなか包帯を巻いた足で過ごすのは本当に苦痛だった。部屋でボーリングの球を足で転がして遊ぶときは本当に注意してください。



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