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第1章の1 高齢者の就業率を引き上げるには

◇人生100年時代
 日本人の平均寿命が長くなっています。
 単に寿命が延びているだけでなく、健康で働ける年数も長くなっています。
 「人生100年時代」が言われるようになりました。

◇高齢者の労働環境の整備が必要
 将来の労働力不足は、日本経済が抱える深刻な問題です。
 これに対する対策として、少子化対策が言われます。少子化の是正は、それ自体として重要なことです。しかし、いま出生率が上昇したとしても、労働力不足問題の解決策にはなりません。生まれた子供が労働力になるまでには、かなりの時間を必要とするからです。

 将来の労働力不足に対処する重要な施策の一つは、高齢者の労働環境を整えることです。
 情報技術の発達によって、高齢者が働き続ける環境が整えられています。とくに、シェアリングエコノミーとフリーランシングの進展は、高齢者就業について重要な意味を持っています。

◇高齢者の就業状況
 では、高齢者の現実の就業状況は、どうなっているでしょうか?
 まず、労働力人口比率を年齢別に見ると、図1のとおりです。ここで、「労働力人口比率」とは、当該年齢階層の人口に占める「労働力人口」の割合です。「労働力人口」とは、「就業者」と「完全失業者」の合計です。

図1 年齢別労働力人口比率(単位%)(2017年)

 図1を見ると、25~29歳頃から85%程度になり、55~59歳まで80%を超える水準が続くことが分かります。
 しかし、65~69歳で45%近くに低下し、70歳以上になると、さらに低下します。
 つまり、65歳以上になると働かない人々の比率が急増するのです。「高齢者は働かない」という従来からの図式が、ここに、そのままの形で見られるわけです。

 高齢者の労働力人口比率は、なぜ低下するのでしょうか?
 その原因として、つぎの2つを考えることができます。第1は、個人の肉体的・精神的要因。第2は、制度的要因です。
 これらのうち、肉体的能力よりも制度的な要因のほうが強く影響していると考えられます。それは、以下のように時系列的な推移を見ることによって確かめられます。

 高齢者労働力人口比率の時間的な推移を見ると、図2に見るように、2004年頃まで、傾向的に下落してきました。

図2 高齢者労働力人口比率の時間的な推移 (単位 %)

◇高齢者の就業がなぜ顕著に増えないのか?
 ところが、高齢者の肉体的・精神的条件は、この間に、時系列的に改善しています。その点から見れば、労働力人口比率がむしろ顕著に上昇していて然るべきです。
 それにもかかわらず高齢者の労働力人口比率が低下したのは、社会制度的な要因がそれを打ち消すほど強く働いたことを意味します。

 60~65歳層を見ると、労働力人口比率は、04年頃をボトムとして、その後は上昇しています。この結果、65歳以上で見ても、11年以降は上昇しています。この要因は、高齢者の肉体的・精神的条件の改善かもしれませんが、70歳以上に比べて60~65歳の比率上昇が顕著であることを考えると、年金支給開始年齢の引き上げの影響であろうと考えられます。かもしれません。つまり、働く必要が高まったので、労働力率が上昇したのです。

 社会制度的な要因が与える影響としては、つぎの2つがあります。第1に、働くことに対してどのような経済的なインセンティブを与えるか。第2は、働く意欲を持ったとしても、就業機会があるかどうか。
 第1点は、「働く意思があるかどうでしょう?」という問題であり、第2点は、意思があるとして、「職を得られるかどうでしょう?」という問題です。
 このどちらが重要でしょうか?

◇高齢者の失業率は低い
 それを見るために、年齢別の労働力人口比率と就業率を見ましょう。
 ここで、「就業率」とは、当該年齢階層の人口に占める「就業者」の割合です。
 ここには示していませんが、年齢別の就業率を見ると、年齢別の労働力人口比率とあまり変わりません。それは、つぎのように失業率を見ても、明確にわかります。

図3 年齢別の失業率(単位 %)(2017年)

資料 労働力調査

 図3を見ると、高齢者の失業率は、他の年齢層に比べて格別高いわけではありません。それどころか、若年層に比べるとかなり低いのです。
 2017年においては、図3に見られるように、20~24歳の失業率は4.5%を超えているのに対して、65歳以上の失業率は1.8%でしかなかった。これは、全年齢平均の2.8%より低い数字です。

◇「働くことが損にならない制度を作る必要
 つまり、高齢者については、「職が得られるかどうか」というよりは、「就労したいと思うかどうか」が問題なのです。
 いいかえれば、「働こうとすれば職を得られるにもかかわらず、働こうとしない」高齢者が多いのです。
 したがって、「働くことができる制度」も重要ですが、「働くことが損にならない制度」を作ることは、もっと重要なのです。 

 現在の日本の制度は、働かない者にとって有利な制度になっています。とくに問題なのが、社会保障制度です。
 社会保障制度は、高齢者になって働くことに対して重い税を掛けているのと同じ結果をもたらしています。
 このため、働く能力を持ち、かつ働きたいと思えば就業の機会がありながら、あえて働かない高齢者が多いと考えられます。こうした要因を取り除くことが必要です。

 とりわけ問題なのは、在職老齢年金制度と高齢者医療制度の影響です。

 在職老齢年金制度の見直しは、労働力不足が深刻化し、高齢者の就業率の上昇が望まれる時代において、当然の措置です。

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