安田記念だったのでストーカーについて考えてみた

 安田記念といえば、私にとって初めて競馬場に見に行ったのが1993年の安田記念だった。それまでテレビ観戦で気に入ったイクノディクタスという競走馬を直接見たいと思ったからだ。初めて見るパドックはテレビで見るのと大違いで馬の毛並みや紫青のゼッケンが新緑の若葉に映えてそれはそれは美しかった。本馬場入場でパドックから馬場に解き放たれた馬が走る様も出走のファンファーレも印象的だったし、お目当てのイクノディクタスは大穴を開けて馬券的にも勝ったし、鮮烈な競馬場デビューになった。そんなわけなので、イクノディクタスという馬にもっと入れあげてしまうようになったのは当然の流れで、私の人生三大ハマりもののひとつになってしまった。

 イクノディクタスは栗色の美しい毛色をしていて、おしりから太ももにかけての筋肉がドッシリとしたオトナの魅力たっぷりなグラマラスビューティなのに、ちょっととぼけたような可愛い顔をした牝馬だった。とてもタフな馬で女の子なのに2週おきにレースに出たりしていて、鉄の女なんて呼ばれていた。春秋の競馬シーズンだけでなく夏の競馬にも出る。のでこっちも忙しい。どのレースに出るかチェックして馬券を買わなければならない。彼女がどこにいるのか、例えば栗東でトレーニング中とか鹿児島の牧場でお休みしてるとか、そういった情報は競馬新聞や雑誌で得ていた。いわゆる追っかけだった。そして、彼女が居る地方で台風とか地震があると心配で居ても立ってもいられない気持ちになっていた。仕事を頑張るオンナって感じだったので、ちょうどガシガシ仕事していた頃だった自分と重ねていたのかもしれない。もちろん競馬場に会いに行く。カメラを持って会いに行く。パドックで周回しているときに特にたくさん写真を撮る。正に会いにいけるアイドル先取りだ。そうして、ウチからだと東京競馬場が一番近いので、彼女が府中で走るとなれば「せっかくイクノちゃんが東京に来てくれるんだから行かなくちゃ」という気分になっていた。

 ここで、はたと気付いたのだが、これってストーカーの心理なんじゃないだろうか? 相手が競走馬で、私が20代の小娘だったからそうは見えないが、もし私が男で追っかけてる相手が一般女性であったなら、勝手に相手の心配をしたり行動をチェックしたり私に会いに来てくれる的な発想になってしまったり、写真に写った彼女の身体のラインをたどって見るとか、すごくストーカーっぽい。でも相手は人気商売だったし、プライベートにまでは踏み込んでないし…と頭のなかで反対意見を並べてみるが、いや、待てよ、と、プライベートに踏み込んでないことはなかったことを思い出す。そういえば、引退してからは繋養先の新冠の牧場に贈り物(にんじんとかりんご)を届け、年賀状を欠かさず出して、会いにも行ったのだった。牧場の人に様子を教えてもらったり今年はどの種牡馬の仔を産んだとか(←このへん特に変態っぽい)、前に産んだ仔はなかなか勝たないみたいな、もし人間ならば極めてプライベートな話も聞いた。ストーカーってこんな気持なのかもしれないとなんだか親近感を覚えてしまうような全くあさっての方向の結論に達した安田記念だった。

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