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ポルトガルの魚を仕入れ続けて感じたこと

今回は、ポルトガルの魚やその仕入れの話。

私たちが店を開店させた8年前から今まで、ポルトガルの魚の仕入れ状況は随分と変わった。


ポルトガルは海に面しているから、新鮮な魚がたくさん獲れることで知られていて、ヨーロッパ各地から、魚やシーフードを食べにくる観光客がたくさんいる。海外の、新鮮な魚が手に入らない国に住んでいる日本人も、魚を求めて休暇でポルトガルに来る人が多いようだ。

ポルトガルの人たちにとっても、そんな美味しい魚が自慢で、よくそんな話をする。こっちでは、鮮魚といえば、レストランだったら炭火焼きが一番ポピュラーだけど、その他には、それぞれ家庭でオーブン焼きや、カタプラーナやカルテイラーダという鍋、魚や魚介を使った雑炊などなどがある。色んな市場で魚屋の人たちに「これはどうやったら一番美味しいの?」と聞くと、「これはカルデイラーダにするよ美味しいよ!」と大体どんな魚でも、いつも言われるので、どんな魚も鍋にしちゃうのが、一般的らしい。

その一方、ポルトガルの代表的な食材として、バカリャウという干し鱈がある。これは大航海時代に保存食として重宝されてきたものらしいけど、この干し鱈は、実は北欧から輸入されているものだそうだし、いまだにポルトガルのソウルフードとして食べられてるというのが、本当に不思議で興味深い。観光客が集まるようなレストランに干し鱈を使ったメニューがあるのはわかるけど、地元民が行く食堂にもやっぱり必ずあるし、ポルトガル人の友人たちと話すと、やっぱりあれを食べて育ったから、あれが家庭の味、大好きだ!と言う。外国人の私たちからしたら、本当に不思議だ。日本にも棒鱈というものがあるけど、新鮮な魚が溢れる今、あれって今ではかなりマイナーな食材なのではないかな?


ポルトガルでの(少なくともリスボンでは)、魚の仕入れの事情はこの10年間ほどで、どんな風に変わったかというと、

こちらでは元々生で魚を食べる文化はないので、火を入れて食べる前提で売られている。魚はどれもいわゆる野締めの状態で、内臓もエラも鱗も全部ついて、死んだ状態で売られている。だから、臭くなってしまうのもとても早い。もちろん今でも市場に行くと、それは同じなんだけど、飲食店向けの卸業者は、その辺がずいぶんと変わった。


この変化は、ポルトガルで寿司を出す、日本食レストランが増えたことがきっかけんじゃないかと思っている。

寿司や刺身を出す店がものすごく増えたから、レストラン側が求める魚の質が変わってきた。それから、市場に出る魚の種類もずいぶん増えた気がするし、ポルトガル領土のアソーレス島からの魚の輸送も増えて、気軽に仕入れれるようになった。もちろん、日本食料理店以外のモダンな店でも、生の魚が出されるようになった

店で出していた、大野料理長による刺身盛り


レストランでは、いつも前日に魚のリストが届いて、そこから選んで注文する。希望したら、掃除して、綺麗に捌いて持ってきてくれたりもする。残念なのは、どの業者の人に聞いても、どの魚がいつ旬なのかは誰も知らないみたいだったけど、それは自分達で年間を通して把握していった。それから、他の国から訪れる日本人のお客さんたちにずいぶんと驚かれたのが、鯵やサバ、鰯などの青魚が、生でも食べれる鮮度であるということ。これが、脂が乗っていて本当に美味しいのだ。今まで生で食べたことがなかったポルトガル人のお客さんたちが、アジの刺身やたたきの美味しさを知って、来店する度に必ず頼む人も結構いた。

店に届いた魚。上からアジ、ハガツオ、サバ


大西洋の中央部に位置するアソーレス諸島からは、シマアジや、ブリ、カジキマグロなどが届く。こういう、ポルトガルの色んなところから届く魚を日々目にすることができたのは、本当に店をやっていた特権だ。そうそう、南部にあるアルガルベ地方から届く本マグロは絶品で、日本にも輸出されているそうだ。


日本の魚に比べて、一般的に、こちらの白身魚は脂があまり乗っていないことが多いけど、これは潮の流れなどのせいなのかな?

確かに日本みたいに種類も多くないし、季節によって魚の顔ぶれが変わる、ということもほぼないけど、それでも他のヨーロッパの国々と比べたら、ずいぶんと贅沢な条件なのである。

数年前に、アメリカから来るお客さんたちに、ハマチはあるか?とよく聞かれるようになった。きっとアメリカで一般的に普及し始めていたのかな?その頃は、天然のブリが時期によってあるくらいだったポルトガルだけど、その少し後くらいから、なんとハマチの養殖が出てきた。初めは「ハマチの活け締め始めました」と業者から連絡が来るようになり、仕入れてみたら、養殖だった。「Ikejime」という日本語で売り始めているのにも面白い。


こんな風に、過去10年ほどの間で劇的に変わった魚市場だけど、業者から届いてみたら、ひどい状態のものなこともよくあって、時には毎日のようにクレームの電話をかけたものだ。向こうとしても、面倒臭い取引先だなぁと思っていたに違いない。でも、その甲斐あって、私たちには、生で食べても自信を持って大丈夫!という状態の魚だけリストを送ってくれるようになったし、今でも個人的に付き合いがあるから、しょっちゅう電話して色々話しておいて良かったなぁ、何事もこういうコミュニケーションは大事、大事!と、普段から心がけている。


ポルトガルの有名な鮮魚といえば、なんといってもイワシ!いつもキラキラ新鮮です。






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