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全音HP“検証”声明文を、私が訳してみました

2022年4月5日の全音HP「ナショナル・エディション『ショパン : ノクターン 』日本語版の検証について」の深刻な問題点に関してこちらに書かせていただきました


検証とは言えなかった”検証“ページ

・検証者の先生は匿名。
・396の問題箇所のうち、わずか約2.5%にあたる10箇所だけを要訂正とし、より重要で深刻なものが含まれている残り 97.5%については なぜか「訂正不要で許容範囲内」と断定(その根拠は示さず)。
・15日後の2022年4月20日、見てわかりやすい別の10箇所(11-20)の明らかな誤りについて「きっと検証者の先生は見落とされたのだと思います」と訂正表への追加を求めたところ訂正不要との返答。しかし、なぜ訂正不要かの根拠を検証者はひとつも示せず、50日が経過しても無回答。
・つまり“検証”のはずが、検証と言えるものではなかった。
・全音は「10箇所以上訂正したくない」とのこと。したい、したくないの問題ではなく、読者のために数百箇所の訂正が必要。全音は読者への誠意を見せなければいけない。
・チヒさんは日本語がおわかりにならないため、依頼して仕事をしてもらった検証者の見解どおりに声明文を出してしまい、結局「実は検証者の見落としがあり、実際には訂正箇所が倍以上あることがわかりました」と再度声明を出さねばならなくなり大迷惑を被っている。
・チヒさんの声明文は長いものではないにもかかわらず、その日本語訳(訳者名 非開示)の十数箇所に問題が。それも翻訳者のするミスとは思えないものが多い。ノクターンの訳での大量変更と同じことが、チヒさんの声明文日本語訳でも起こっている。
・全音は、チヒさんの声明文日本語訳の改変(全音担当者の“校正“が加わっているかどうか)について問われても無回答、否定もしていない。

声明文(ポーランド語原文および日本語訳)

以下は、最初にチヒさんの原文、そして私の翻訳、そしてその後に全音HP訳(訳者名 非開示)です。


Dot. weryfikacji japońskiego tłumaczenia Wydania Narodowego „Nokturnu” F. Chopina
Dr Daniel Cichy
Dyrektor i Redaktor Naczelny PWM

Polskie Wydawnictwo Muzyczne zostało poinformowane przez panią Yuko Kawai, która dokonała tłumaczenia na język japoński tomu „Nokturny” w ramach Wydania Narodowego Fryderyka Chopina pod red. prof. Jana Ekiera, że w opublikowanej przez wydawnictwo Zen-On japońskiej wersji woluminu „Nokturny”, w pierwszym nakładzie pierwszego wydania znajduje się 396 błędów.

Podjęliśmy więc decyzję o weryfikacji listy przekazanych przez panią Yuko Kawai błędów przez niezależnego eksperta, który może wylegitymować się zarówno muzycznym jak i lingwistycznym dorobkiem i doświadczeniem. W wyniku wykonanej analizy okazało się, że większość wskazanych przez panią Yuko Kawai usterek nie stanowi istotnego problemu. Mimo rzetelnie prowadzonych prac redakcyjnych i edytorskich przez wydawnictwo Zen-On i stałej ścisłej współpracy z zespołem Polskiego Wydawnictwa Muzycznego oraz prof. Pawłem Kamińskim, redaktorem Wydania Narodowego, 10 miejsc wymaga uzasadnionej korekty. Szczegóły dotyczące zakresu nieścisłości wymienione są w poniższym raporcie.

Uwzględnienie korekty sprawi, że japońska wersja Wydania Narodowego Fryderyka Chopina będzie jeszcze lepsza.

Mamy nadzieję, że wydawnictwo Zen-On będzie kontynuować publikację tego pomnikowego dzieła, które dotrze do jak najszerszej grupy pianistów w Japonii.


(河合優子訳)
F.ショパン・ナショナル・エディション『ノクターン 』日本語訳の検証について
ポーランド音楽出版社(PWM)ディレクター兼編集長
ダニエル・チヒ博士

ポーランド音楽出版社は、ヤン・エキエル編ショパン・ナショナル・エディション『ノクターン 』の日本語訳をおこなった河合優子さんから、全音が出版した『ノクターン 』日本語版初版第1刷には396箇所の誤りがあるとの知らせを受けました。

そのため、河合優子さんから送られた問題箇所リストの検証を、音楽・言語の面で実績と経験のある独立した専門家によっておこなうことを決めました。分析の結果、河合優子さんの示した欠陥の大部分は重大な問題とはならないことがわかりました。全音のしっかりした編集作業、そしてPWMチームとナショナル・エディション編者パヴェウ・カミンスキ教授との恒常的で緊密な協力にもかかわらず、それでも10箇所は根拠ある修正を必要とします。どこが問題なのかの詳細は、下記のレポートをご覧ください。

これらの修正を考慮することで、ショパン・ナショナル・エディション日本語版はもっと良くなるでしょう。

全音がこの記念碑的な作品(訳注: ナショナル・エディション)の出版を続行し、できるだけ幅広い層の日本のピアニストたちにこの楽譜が届くことを期待します。


(全音HP訳・翻訳者名 非開示)
ナショナル・エディション『ショパン:ノクターン』日本語版の検証について
ポーランド音楽出版社(PWM)社長
ダニエル・チヒ博士

 ナショナル・エディション『ショパン:ノクターン』日本語版第1版第1刷(以下、本書と記載)について、本書の翻訳を担当した河合優子氏から当社(訳注:PWM社)に対し、本書には396箇所の問題があるとの申し立てがありました。
 当社は、音楽と言語の面で経験があり、信頼できる専門家に依頼し、その申し立て内容の検証をおこないました。検証の結果、河合氏からの申し立て内容のほとんどは問題にあたらないという結論に至りました。ただし、全音楽譜出版社、当社およびパヴェウ・カミンスキ教授によって実施された徹底的な編集および編集作業の絶え間ない緊密な協力にもかかわらず、10箇所については修正の必要性が認められました。詳細は以下のレポートをご覧ください。
 これらを修正することにより、本書はより良い内容になるでしょう。
 これからもナショナル・エディションの日本語版が、良き内容で全音から出版され、日本のみなさまにお使いいただけることに期待します。


全音HP訳の具体的な問題点 

(1)  (…) większość (…) nie stanowi istotnego problemu.

全音HPより

この部分は忠実に訳すと「大部分については重大な問題とはならない 」となるのですが、全音HPでは「ほとんどは問題にあたらない」と訳されており、なぜか「 istotny 重大な/本質的な」という言葉が省かれています。

「大部分については重大な問題とはならない」(原文に忠実な訳) と
「ほとんどは問題にあたらない」(全音HP訳)
は同じではない。


(2)  Podjęliśmy (…) decyzję o weryfikacji (…).

全音HPより

「検証をおこなうことを決めた」のであって「検証をおこなった」(全音HP訳)とはここでは言っていない。


(3)  (…) niezależnego eksperta,

全音HPより

「独立した/中立的立場の 専門家」であって「信頼できる専門家」(全音HP訳)とはチヒさんは書いていない。

niezależny を「信頼できる」と訳す人がいるとはどうしても思えないのです。果たしてミスでこんなことが起きるだろうか。


(4)  W wyniku wykonanej analizy okazało się, że większość (…) nie stanowi istotnego problemu.

全音HPより

「分析(アナリーゼ)の結果、(…) 大部分については重大な問題とはならないことがわかりました。」は
「検証の結果、(…) ほとんどは問題にあたらないという結論に至りました。」(全音HP訳)と同じではない。

つまり「(重大な問題とはならないことが)わかった/判明した/明らかになった」と言っているのであって、「結論に至りました」(全音HP訳)とは言っていない。これは結論という意味ではない。


(5)  (…) może wylegitymować się zarówno muzycznym jak i lingwistycznym dorobkiem i doświadczeniem.

全音HPより

なぜか「dorobek/実績」という言葉が省かれている。


(6)  Mimo rzetelnie prowadzonych prac redakcyjnych i edytorskich (…)

全音HPより

rzetelnie は「きちんと/確実に」であり「徹底的」という意味ではない。チヒさんは「徹底的な編集」(全音HP訳)とは書いていない。


(7)  (…) rzetelnie prowadzonych prac redakcyjnych i edytorskich przez wydawnictwo Zen-On (…)

全音HPより

「全音楽譜出版社のきちんとした編集作業」であって
「全音楽譜出版社、当社およびパヴェウ・カミンスキ教授によって実施された徹底的な編集(…)作業(…)」(全音HP訳)ではありません。

つまり編集作業は全音。ポーランド側は協力で、編集作業ではない。もちろん「徹底的」とも書かれていない。


(8)  (…) stałej ścisłej współpracy (…)

全音HPより

stała は「常の」「恒常的な」(一時的ではない)であって、全音HP訳の「絶え間ない」(途中で中断しない)とは違う。


(9)  (…) jak najszerszej grupy pianistów w Japonii.

全音HPより

「できるだけ幅広い層の日本のピアニストたちに届く(…)」とチヒさんが書いているのに、この部分が訳されていない。


(10)  (…) tego pomnikowego dzieła, (…).

全音HPより

「この記念碑的な作品 」とも書かれているのに、これも訳されていない。


(11)  (…) wydawnictwo Zen-On będzie kontynuować publikację tego pomnikowego dzieła, które dotrze do jak najszerszej grupy pianistów w Japonii.

全音HPより

「(…) 良き内容で全音から出版され、(…)」(全音HP訳)とありますが、「良き内容で」という言葉は原文にはありません。内容がどうであるかなど、チヒさんは何も書いていない。

翻訳する人がこんな行為(付加)を本当にするだろうか。

付加しないと文の収まりがわるいということもなく、ない言葉をここに翻訳時に加えようという発想にはまずならない。


(12)  (…) zostało poinformowane przez panią Yuko Kawai, (…)
           *       *    *
   (…) wskazanych przez panią Yuko Kawai (…)

全音HPより

全音HP訳 には「申し立て」という言葉が2回出てきます。しかしチヒさんはこの言葉を1度も使っていない。「(河合優子さんから)知らせを受けた」「(河合優子さんの)示した(欠陥)」と書かれているが、申し立てとは書いていない。


(13)  Podjęliśmy więc decyzję o weryfikacji (…) przez niezależnego eksperta (…).

全音HPより

そして検証は「専門家によっておこなう」と書かれていますが「専門家に依頼」(全音HP訳)とは書いていない。この文を訳す時、依頼という言葉を訳語に入れようとは普通考えないと思います。依頼について何も書いていないためです。


(14)  (…), które dotrze do jak najszerszej grupy pianistów w Japonii.

全音HPより

「(できるだけ幅広い層の日本のピアニストたちにこの楽譜が) 届くこと (…)」と書かれていますが、「(…)お使いいただけること(…)」とはここでは書いていない。


全音の皆様へ、訳者名開示と訳文訂正のお願い

決して長いとは言えない声明文の日本語訳に、十数箇所もの問題が見つかっている。これではノクターンの解説に何百という問題箇所があるのも不思議ではない。

両方でほぼ同じことが起こっている。

全音はまず、声明文の翻訳者名(検証者名?)をすべての人に示すこと。透明性が重要です。

この声明は、要は「“検証”してもらったところ、重大な問題ではなかったようだ」(実際は問題山積ですが)と伝えることが目的なので、通常なら訳の細部にそれほど拘らなくてもよいものなのです。

それなのに、今回なぜ問題にしなければならないか。

100% 検証者の先生の訳なら(そうは思えませんが)、この不正確さで“検証”がおこなわれたということになってしまう。一方、もし全音担当者の手が加わっているなら、全音は勝手な変更という行為への批判に対してまるで懲りていない、改変することに対し まったく罪の意識がない、これほどの事態になっていながらなおも平気で改変する、翻訳問題のページなのに、そこで再び全音担当者が自ら、大変な(改ざんの)証拠を私たちの前に見事に晒してしまったということになります。

全音HPの訳は全体にわたり何というか変なのです。不正確、忠実でない、しかしそれらは翻訳者のミスとは思えないものが多い。どなたかの願望または思い込みによって、全音担当者にできるだけ都合のいいように、全音の印象が少しでもよくなるように、訳者の印象がよくなくなるように、強引に変えられてしまっている感じがあるのです。「そんなことしちゃだめでしょ」と言いたくなるような。

信頼できるとチヒさんは書いていないのに、なぜか「信頼できる」ということにし、また そんなことは書かれていないのに(無理にでも)「結論に至りました」ということにしてしまう。そして、やはりそうは書かれていないのに「徹底的」な編集と書いてしまう。露骨で強引すぎます。チヒさんが書かれたことへの敬意がない。

この不誠実な訳文に対し、この声明文の翻訳者(検証者?)が抗議して直させないのもおかしい。とにかく変だとしか言いようがありません。一体どちらなのでしょうか。それともすべて全音担当者が訳したのでしょうか。

チヒさんが書いていないことが書いてあってはいけない。
チヒさんが書いているのに書いていないのもいけない。

いずれにせよ、検証者(翻訳者)名を開示すべきです。そしてチヒさんに失礼のないよう、これらの問題箇所を直してあげることが大切だと思います。



(参考)
エキエル編ショパン・ナショナル・エディション日本語版、
一体何が起こっているのか《1》

一体何が起こっているのか《2》ーー私たち(国内外)の声を受け止めて




Będę wdzięczna za wsparcie! いただいたサポートはリハビリに、そして演奏活動復帰および再レコーディング準備のために。