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[weryfikacja 検証48~49] sygnalizuje(シグナルを出す), 最頻出 - ノクターン第2版

48.49.
原資料に関する解説 (要約)
『はじめに』前半部分

黄緑色の部分
「各曲の編集(校訂)原則を要約した形で紹介する(full versionではない)。」

桃色の部分
「オーセンティックな原資料同士での内容不一致について、その中でより重要なものについて論じる。」

水色の部分
「ショパンの没後に編集された諸版に見られる、オーセンティックなテクスト(楽譜の内容)からの逸脱で最頻出のものも最小限知らせる。」

「各作品の編集(校訂)原則」を要約した形で示し、「authentic な原資料同士でも一致しないことがある。そうした中で重要性の高いものについて論じる」と。 さらに「ショパンの没後に編集され出版された版(曲集)では、もとの authentic なテクスト(楽譜の内容)から逸脱してしまっていることがある。

(ショパンはそう書いていないのに、変更されてしまったり、)そうした逸脱の中で最も頻繁に見られるものを、シグナルを出して(sygnalizuje)知らせる。」 “シグナルを出す(sygnalizuje)” は draws attentionと英訳されていますが、ここでは要するに「長々と言わず、できるだけ短く知らせる」ことを意味します。

sygnalizuje, つまりシグナルを出すとは:
①特別な意味を持ってシグナルを出す、ということなのか、それとも
②シグナルだけにとどめておこう、つまりできるだけ控えめにするという意味なのか。

受け取り方次第で異なってきます。

これを判断するのは、ナショナル・エディションを理解する人であれば難しくありません。 編集(校訂)原則を紹介し、まず authentic な原資料について論じ、さらに後世の変更された版についても触れる。 “ショパン本人が書いた”(authentic な)ことの方が、後世の版のことよりもはるかに重要です。

2年半前に、このことについて書いています:

sygnalizuje について、例えば訳者のおひとりは「(監修者が書かれていた) notify (知らせる、通知する)または draw attention は、inform (知らせる)ではない」と誤解なさっておられた(2021年5月15日)のですが、それは違います。

原著者のひとりであるカミンスキ先生は、これは「小さなシグナル」なのであると。つまり sygnalizujemy (シグナルを出す)とは:

nie omawiamy tego (それを論じるのではなく),
nie komentujemy (コメントするのでもなく),
tylko jak najkrócej informujemy. (ただ できる限り短く知らせる) のだと。カミンスキ先生の説明は、私が昔からひとりで自然に理解していたとおりのものでした。「最小限知らせる」のです。

sygnalizuje という言葉の意味の把握は、 ナショナル・エディション「原資料に関する解説(要約)」の 「はじめに」を正しく理解するために重要です。

まず authentic/オーセンティック な原資料が大事。その上で、後世に変えられてしまった版についても(必要な場合、)できるだけ短く知らせる、と。

没後に変更された版について「authentic なテクスト(楽譜の内容)からの逸脱で最頻出のもの」を sygnalizuje (短く知らせる)。 「最頻出の」は 「頻繁な」の最上級 naj-szy で najczęstszy/a/e. 英訳は most frequently(…)。 日本語版(各巻共通)の「頻繁に見られる」は最上級ではなく、不十分。

(原文)
odstępstwa od tekstu autentycznego オーセンティックなテクスト(楽譜の内容)からの逸脱

(英訳)
departures from the authentic text 「authentic なテクストからの逸脱」と、

全音の訳「ショパンによるものではないヴァージョン」(5巻とも同じ訳)は異なります。正確な訳は可能であるにもかかわらず。

(原文)
sygnalizuje (…) najczęstsze odstępstwa od tekstu autentycznego
オーセンティック authentic な テクスト text からの逸脱で最頻出のものも知らせる

(英訳) it draws attention to departures from the authentic text which are most frequently encountered

(全音 第2版。別の訳者による翻訳)
頻繁に見られる、ショパンによるものではないヴァージョンも明らかにする

第2版では「オーセンティックでないヴァージョンが頻繁に見られる。それを明らかにする」と言っていますが原文はそうではありません。「オーセンティックな(ショパンの目の通った)テクストからの逸脱で、最頻出(一番しょっちゅう出てくる)のものについて最小限知らせる」と言っているのです。

Special thanks: Prof.Paweł Kamiński


Będę wdzięczna za wsparcie! いただいたサポートはリハビリに、そして演奏活動復帰および再レコーディング準備のために。