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虚構と現実、番組のヤラセ疑惑とアフラシャブ号 〜ウズベキスタン〜

先日、某人気旅番組のヤラセが発覚し、調査終了まで同番組の放送が休止されると発表があった。
秘境や危険が伴う場所のような通常の旅行では中々行かないところをクローズアップしていくスタイルがお気に入りだったので残念ではあったものの心の中では

「まあ、そんなもんだろうな」

という諦めにも近い、投げやりな思いがあった。同時に、ウズベキスタンで経験したことを思い出したので今回はその事を記していこうと思う。

2018年夏、私はウズベキスタンを訪れることを決意した。
目的地はサマルカンド。子供の頃からシルクロードというワードに物凄い憧れを持っていた。シルクロードの中継地点でありオアシス都市なんて私にとっては夢の地のようだったし何よりキャッチフレーズになっている「青の都」が何だかRPGのようで心惹かれたからだ。

そんな折に、某人気番組でウズベキスタンが取り上げられていたのを偶然視聴し、実に面白かったのでそれが最後の決め手となった。
(念のために記しておくが冒頭で述べたヤラセ番組とは別番組である)
そうとなると俄然やる気も出るもので、かなり早い段階で夏期休暇の申請をし、航空券の手配をした。

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そんな中で一番苦労したのが、高速鉄道「アフラシャブ号」のチケット手配だった。アフラシャブ号は首都のタシケントからサマルカンドまで2時間、最大走行速度250km/hで駆け抜けるいわばウズベキスタンの新幹線である。

目的地へ最短で辿り着くにはどうしても必要なこの鉄道、
調べてみるとどうやらその中で1等から3等まで座席のランクがあり
1等車は革張りのリクライニングシート、軽食やお茶の無料サービスもあり中央アジアにいながら日本の新幹線より快適に過ごせるとのもっぱらの噂である。これは1等車に乗るしかない。即座に決断しチケット手配に着手した。


本来チケットのスタンダードな入手方法は現地の売り場で直接購入となっており、旅行者のブログや口コミを検索すると殆どの人が店頭で購入をしていた。だが、事前予約が可能な上に1等車は非常に人気がある為乗りたい便のチケットが確実に購入できるかどうかは運次第という非常にギャンブル要素の強い情報も同時に出てきて一気に焦った。

何故なら私には5日間の休暇しか無い。1分1秒たりとも無駄にしない為にはどうしても7:30発の便に乗る必要があったのだ。尚且つ1等車に乗りたい。
そこだけは絶対に譲りたくない。何としてでも事前に手配をしなければという使命感で私は一気に燃え上がった。

手始めに国内の旅行代理店を当たってみたが現地購入価格の4倍もの値段がする上に希望の時間が無い。ダメだ。
次いで、現地の旅行代理店を当たることにした。安い上に希望の時間でも予約が取れそうだ。早速メールでコンタクトを取った。
ウズベキスタンの旅行代理店なんて何だか胡散臭く無いだろうか、ちゃんと予約できるだろうか。不安な中の連絡だったがとても親切な担当者のおかげで初めのうちは事がスムーズに進んでいた。

雲行きが怪しくなったのは先方が他人の明細を間違って送信し、その指摘と訂正でゴタゴタした後に送られてきた1通のメールだった。

「アフラシャブ号の運行がしばらく取りやめになった、理由はわからない。一般鉄道でのチケットしか手に入らなそうだ。我々も困惑している」

そんな内容のメールが送られてきたのだ。急いでウズベキスタン国営の時刻表で調べてみると確かにアフラシャブ号は全線ストップしている。決して嘘ではなさそうだ。どうしようもない。
結局予定していた時間より3時間以上ロスをすることになるが渋々先方の案である一般鉄道のルートで購入をし、代金を支払った。
目の前が真っ暗になった。

ここまでの間約1週間、ずっと英文メールでやり取りをしていたのでどっと疲れが出てきた。しかも希望の列車のチケットは手に入らなかったのだ。
しかし私は未練たらしく、毎日暇さえあれば国営サイトで運行情報をチェックし続けた。ここまで来るともはや執念、ストーカーのようだ。

そうして数日が経過し、結局私の執念が勝利することとなった。
運行が再開したのだ。急いで代理店に「どうやら運行が再開したようなので一般鉄道の予約をアフラシャブ号に変更したい」とメールを送った。
代金はすでにカードで支払い済みだったので断られるリスクもあったがそんなことを気にしている場合では無い。行動を起こすか、起こさないかが重要なのだ。結果は常に行動についてくる。

「OKです。金額も同額なのでこのまま手続きを進めますね」

おお、神よ。私の望みの喜びよ。
その日の夜、受信したメールを見ながら涙ぐんだのは忘れられない。代理店への最初のコンタクトから実に2週間以上が経過していた。

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そんなこんなで手に入れた血と汗と涙の結晶のようなチケットを握りしめ、
現地で駅に向かい、そして事件は起きた。

7:30、タシケント発ブハラ行き。サマルカンドで途中下車。準備はバッチリだ。極度の興奮の中でタシケント駅へと向かっていた。
何故興奮をしているのかというと、努力の末に入手したチケットをいよいよ使うということもあったが、それ以上に日本で見たあの番組が影響をしていたのだ。仮にその番組を「Q」としよう。

「Q」では私と同じサマルカンドへ向かう行程を取り上げていたのだが、その中に「ウズベキスタンの駅は警備が厳重!!ウワ〜!!」というくだりがあったのだ。

ウズベキスタンはソ連の崩壊を機に独立した国であり、建物や体制には未だ社会主義の名残が色濃く残っていたりする。警備が厳重というのも頷けるな、と視聴をしながら納得をしていた。

番組の中で取材班はタシケントの駅に到着をし、列車に乗車するまでの間に実に5回もパスポートと乗車券のチェックを受けていたのだ。

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5回。社会主義の名残がプンプンする重厚なデザインの駅で5回もチェックを受ける。
敷地に入るのに1回、駅舎に入るのに2回、ホームに出て列車に乗るまでに2回。そんな感じだったと思う。コワモテの駅員が物々しい雰囲気の中チェックをする度にスタジオからはウワ〜!!と歓声が上がっていた。

何だかそれだけで冒険みが増してくる気がしていた。このチェックをくぐらねば「青の都サマルカンド」へは辿り着けないのだ。帰国したらいい土産話にもなりそうではないか。
「いや〜タシケントの駅で5回もIDチェックがあってさ〜、凄かったヨ〜」
なんて台詞を飲み会か何かで披露するかもしれない。万が一チェックに引っかかったらどうなるのだろうか。想像するだけでワクワクしてくる。

チケット入手のサクセスストーリーの先には厳重な警備をかいくぐるというフィナーレが待っているのだ。これは興奮しない方がおかしい。

そんな想いを抱きつつ駅へ到着し、いよいよチェック!となり
そして大きく肩透かしを食らった。

2回。

たったの2回。敷地に入るのに1回、駅舎に入るのに1回。以上、終了。
オイオイ、全然違うじゃん。
5回と2回ってかなり違うでしょ。

朝のノンビリした空気の中、陽気な駅員に「はい、見せてね〜」なんて言われてズッコケそうになったし、乗車の際にスタッフにチケットの提示をしようとしたら「いいから早く乗れ」とジェスチャーで返される始末である。
振り返ればホームでは家族連れが車両をバックに記念撮影をしている。

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これがヤラセというものか…

念願の列車にとうとう乗れたという事はとても嬉しかったし、ハッピーな気持ちではあったものの心の隅に小さな影がポツリ、と落ちたようだった。
番組からしたら些細な事なのかもしれない。
ヤラセというよりは話を盛った、が正解なのかもしれない。
たまたまその日は2回なだけで、5回チェックする時もあるのかもしれない。

そう考えれば考える程、自分が抱いていた期待とワクワクが子供じみたもののように思えて恥ずかしくなってしまった。そして、自分の単純さを呪った。番組の情報を鵜呑みにして過剰に期待をするのが悪いのだ。そう思うしかない。

子供の頃から紀行番組が楽しみだった。いつか同じ場所で同じ体験をしてみたい。
そう思いながら育ってきた自分としてはテレビ番組が必ず真実を伝えるとは限らないという事実を受け止めるのが少々心苦しかった。

結局番組「Q」よりかなりホノボノとした雰囲気で列車はサマルカンドへ向けて滑るように走り始めた。
念願の1等車両。フカフカの革張りのシートが私のしぼんだ心を優しく包んでくれた。

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ちなみにこの話には後日譚がある。


小さな落胆を胸の奥底にしまったまま無事に旅行を終え、帰国してから数ヶ月後。

番組「Q」はとある国で有りもしない祭りを捏造し、番組内でさも事実のように紹介するという大規模なヤラセを行なった事が発覚してそれが問題になったのだ。

「バーカ!バーカ!!」

そのニュースを見ながら、心の中にいる子供の私が顔を真っ赤にして怒っていた。結論、ウソはよくない。
旅コラムを書くようになってつくづくそう思うようになった。リアルな体験を嘘偽りなく、そして面白く伝えたい。面白さの為に真実を隠さないようにしたい。この体験を反面教師として生かしていかねばなるまい。


結果としていい経験が出来た。そう思わねば。
私の旅はまだまだ続くのだから。

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