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【読書】『翻訳できない 世界の言葉』エラ・フランシス・サンダース著、前田まゆみ訳

本はネットで買うことが多いのですが、お気に入りのリアル店舗の本屋もいくつかあって、近くに行く用事があるときはなるべく立ち寄るようにしています。興味を持っている分野とか好きな作家とかと全く無関係のところで「この本気になるな」と感じるものと出会うことができるのは、何といっても実店舗の醍醐味です。この本も、平台に置いてあった題名と装丁が気になって手に取ったものです。

著者のエラ・フランシス・サンダースさんは、モロッコ、イギリス、スイスなどいろいろな国に住んだ経験を持つイラストレーター。他の国の言葉ではひとことで言い表せない世界のユニークな単語を、著者の感性をもとに文章とイラストで解きほぐしていきます。「はじめに」の中で、「この本で紹介した言葉は、今まで読者の方が考えたことすらなかった、もしくはすでに不思議と思ったことのある疑問への答えになるかもしれません。とらえどころのない、表現のしにくい気持ちや経験をぴたりと言いあてているかもしれないし、長いあいだ忘れていた人を思いださせてくれたりするかもしれません。」と書かれた箇所がありますが、まさに全体がそうした不思議な魅力にあふれている本でした。

こんな言葉があるんだ!と誰かに伝えたくなるものがたくさん出ていますが、「歩くことや走ること」に関わるというこのマガジンのテーマにも関わるものをいくつか紹介すると、たとえばこんな言葉が出ていました。

PORONKUSEMA: トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離(フィンランド語) → 約7.5kmとのことです。
<感想>長いのか短いのか、うーんどうなんでしょう。よくわかりませんが、トナカイと暮らす遊牧民などにとっては、これを把握することはとても大事なのでしょうね。

AKIHI: だれかに道を教えてもらい、歩き始めたとたん、教わったばかりの方向を忘れること(ハワイ語)
<感想>私は方向音痴で、トレイルランの大会でしばしば道を間違えます。地図を見たはずなのに、いつの間にかルートを示すテープが見当たらなくなっていた、なんてことが何度もあります。全く知らない場所で、教わったとおりに道を進んで目的地に向かうというのは、私のような人間にはなかなか緊張感のあることです。だから、AKIHIのような単語を持つハワイ語に親近感を抱きました。

PISAN ZAPRA: バナナを食べるときの所要時間(マレー語)
<感想>ランニングの大会のエイドで、カットした一口サイズのバナナを出してくれることがよくあります。疲れているとき、空腹を覚え始めているときに、バナナの甘さとずっしり感は「いま、エネルギーを補給したぞ」という安心感を強く持たせてくれるものです。ランニングの大会でも、先を急ぐときのバナナか、ちょっと休憩しようかというときのバナナかで、このPISAN ZAPRAはだいぶんと変わってきます。

WALDEINSAMKEIT: 森の中で一人、自然と交流するときのゆったりとした孤独感(ドイツ語)
<感想>ひとけのない山を自分一人で静かに歩くときや、トレイルランの大会でスタート時には何人もいた周囲の選手が距離が進むにつれ段々バラけ、ふと気づくと周りに誰もいなくなっていたとき、このWALDEINSAMKEITを感じます。逆に、自分一人といっても、「道に迷ったんじゃないか…」とか「暗くなるまでに目的地まで行けるだろうか(出発地点に帰れるだろうか)」というようなときは、とてもWALDEINSAMKEITを感じることなどできません。「行き当たりばったりで道に迷っても夜になってもどうにか乗り切れる」というぐらいスキルが高く時間も使える人を除いては、しっかりとした準備や計画がWALDEINSAMKEITには欠かせません。

この本に出てくる単語は、ほかにもイタリア語やアラビア語、タガログ語、ペルシア語など多彩です。中には日本語の単語も出てきます。ひとつだけ例を挙げると「KOMOREBI(木漏れ日)」。そのほかは…ぜひ、この本をご覧になってみてください。

著者のエラさんはインスタグラムでイラストなどを公開しているので、最後にそちらもご紹介します。

https://www.instagram.com/ellafsanders/


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