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お気に入りのシャツに染みを見つけた

今朝、妻が作ってくれたピザトーストを、膝の上に座る娘の口に運んでいた。
眠そうな目をしながら、一口食べては私にもたれかかりモグモグ。
3歳児の頰の膨らみがゆっくりと揺れていた。
それをつついたりして嫌な顔をされた。
特別ではないが、なんとなく、幸せだなと思う数分間だった。

会社で唯一の心のオアシス、便座の上で、Twitterのサバンナを眺めながら一息ついて、手を洗う為に洗面台の前に立った。
鏡に映る、お気に入りの白いシャツを着た坊主頭の男を尻目に目線を手元に。
暖房なんて効いていない、温水も出ない冷たい空間で、両手に清潔さを取り戻す。

鏡に目線を戻すと、シャツに小さくも真っ赤な点があるのを見つけた。
同時に、それが何かを理解した。

そう、トマトソースだ。

世界の何処かの日光をたっぷり浴びて育ったプリップリの真っ赤なトマトを馬鹿でかい鍋で煮たりして、緑色のラベルの缶に詰められ、コストコで私たちと出会い、今朝妻の手によって食パンの上でチーズと愛情をプラスされて、焼き上がったピザトーストのソレだ。

お気に入りのシャツに、染みが。。。

この染み落ちるかな。。お気に入りなのに。。普段ならそう考え、その日1日を少し暗い雰囲気で過ごしたりするのだが、今日は違った。
自分でも意外だったが、嫌な感情が一切湧いてこなかった。
真っ先に思い出したのは、今朝膝の上でもたれかかりながら、頰をふるふるさせていた、娘とのあの時間だった。

この染みには、今朝の数分間の物語が内包されていて、見つけた瞬間、頭の中で再生された。
なんだかとても、良い気分だった。
ふと鏡の中の男をみたら、気持ち悪くこちらに微笑みかけていた。
でも嫌な気はしなかった。

後になって、もしかしたらこの染みは、自分自身が食べたトーストのものかも知れないなと思ったけど、そんな事どうでもよかった。
もうこの染みは、今朝の素晴らしい数分間を語ってくれる存在なのだ。
日常には、小さな物語の足跡が沢山転がっているのかもしれないと思った。
そうだといいな。
きっとそうだ。
明日から、少しだけ、足跡を気にしてみようと思う。

まぁ、シャツは、綺麗に洗濯はするけど。
お気に入りのだから。

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