見出し画像

コーヒー生産地での経済の変化と売り方について

こんにちは、川野優馬です。


最近は世界のコーヒー生産事情もどんどん変化しています。
身近な例として、僕が2018年から生産に関わっているインドネシアのバリ島で起きていることを紹介したいと思います。


僕は現地のチームと共に農園や精製所を運営しています。
農園はコーヒーの木を育て、年に一度の収穫期に熟したコーヒーチェリーを収穫する場所。精製所は、その収穫したコーヒーチェリーを集めて皮剥きをしたり発酵させたり洗って乾燥させたりする、チェリーから生豆にする加工場所のことです。

 バリ島の精製所、コーヒーの乾燥台


精製所をやっていると、自分の農園だけでなく、周りのたくさんの農家さんからコーヒーチェリーを買うことになります。農園と精製所がセットになっていて、自分の農園のチェリーだけをその場で精製する生産者もいますが、ほとんどが、農家さんはチェリーを売るだけ、精製所はチェリーを買い集めて精製に集中する、というような体制で成り立っています。

そうすると、僕らは農家さんとチェリーの価格について交渉することになるのですが、最近バリ島では急激にコーヒーチェリーの値段が上がっています。

チェリーの値段を誰が決めるかと言うと、基本的には、農家さんの言い値と、買い手である精製所の提示額、の擦り合わせになります。国によっては、うちは一律いくらで買うよーと決めてる業者もいたり、深い赤色の完熟を揃えたらプラスでいくら払うよとか、最後精製所の利益が出たらそれを農家さんに分配するからうちに譲ってねという感じでやっている精製所もあったりと、いろんなスタイルがあるかもですが、バリ島では割と農家さんの意見も強く、買い手の提示額で農家さんが満足しない場合、農家さんにはすぐ断られてしまいます。

僕たちが精製所を始めた2018年ごろは、標高高いエリアの品質いい完熟チェリーで1kg70円ほどで買わせていただくことができていました。それが今年2023年になると1kg180円ほど出さないと農家さんは譲ってくれない状態になりました。2.5倍くらいにチェリーの価格の相場が上がってしまっています。

これは農家さんにとっては良いことだと思います。同じ仕事で2.5倍の収益になるので、とても嬉しいことです。買い手によっては未熟チェリーも混ざっていてもいいから1kg180円で買うよ、と提示する業者も増えてきて、この場合農家さんは熟したチェリーを選んで収穫する手間なく、より楽に多くの収入を得られるので更に嬉しいことです。

コーヒーの木に実るコーヒーチェリー、この種の部分を洗って乾かして脱穀すると生豆になります


なんでこんなに急激に状況が変わってきたのか農家さんに話を聞きに行ってみました。

2021年からインドネシアでは、アジア初のCOE(Cup of Excelllence)という国際品評会が始まりました。その国のその年のコーヒー生産の中で1番美味しいものを決めようというコンテストです。いろんな生産者が1番の出来のコーヒー生豆をここに提出して、サンプル焙煎されテイスティングされてスコアがつけられ、上位は世界同時オークションにかけられ高額で売買がされていきます。生豆で提出する以上、このコンテストに提出するのは精製所になります。実際コーヒーの風味はこの精製方法によって大きくコントロールされるため、品質の鍵を握るのも精製所です。僕らもCOEには提出してみたんですが、一応バリ島では1位にはなれたんですが、COE受賞にはあと0.1点足りず一つ下の賞であるNational Winnerという結果で、インドネシア全体でのコンテストになるとかなりレベルも高いものになっていました。

このCOEのおかげで、いろんな精製所が上位を目指してチェリーを集めたため、チェリーを買う競争が激しくなり値段が上がって行きました。

その中で農家さんの言い分としては、これは僕は本当かなーと半信半疑ではあるんですが、小さい精製所がチェリー集めに躍起になってマーケットが荒れていったりすることを大きい精製所が嫌って、小さい精製所を意図的に潰すためにチェリーの価格を釣り上げて彼らが買えないように、かつ仕入れられずに廃業になるように戦略的に仕掛けてるんじゃないかと言うんです。

実際にチェリーが高くて買えず、一部の資本を持っている大きな会社だけがチェリーを仕入れている状況に進んでいますし、チェリーが高すぎて精製業を止めてしまっている小さな業者はたくさんありました。チェリーが高いと、つまり精製所にとって仕入れ値が高いと、販売する生豆の価格も必然的に高くしないと利益が出ないのですが、品質と見合わないと高い価格ではなかなか生豆が売れないため、商売が厳しくはなります。

で、コーヒーに関わる現地の人たちが言うには、これも推測なんだと思いますが、小さい精製所が潰れた後、大きい会社はまたチェリーの買取価格を元に戻して行くはずだ、と言っています。僕はこれが本当に起きるかなと疑問で、農家さんからしたら今まで180円で売れていたら、そのつもりでコストかけたり収入のあてにするので、なかなか安くはしにくいんじゃないかと思うんですが、もし仮にそうなった場合他に売り先がない状況だったら安くても売らざるを得ないですよね。どこまで本当かわかりませんが、まあ確かに起きなくもないかもとも思いました。

バリ島のコーヒー農園の様子


どこまでが推測でどこまでが本当かなかなかに怪しいですが、実際に現場は荒れているというところで、これからどう変わっていくのかとても興味を僕は持ってみています。ちなみに僕らの精製所は今年は高い相場だったけど頑張ってチェリーを仕入れて精製をしました。現地の人件費や物流コストなどを含めると、生豆としての価格も安くはないコーヒーになってしまいますが、思い入れのある場所でみんなと一緒に作ったコーヒーなので、今年は日本にも持ってきて焙煎してしっかり売りたいとも思っています。


そういう面で、ロースター目線からすると、コーヒーの「コスパ」みたいなところも難しい部分だったりします。どういうことかと言うと、コーヒーのおいしさ(業界用語で言うところのカップクオリティ)と価格のバランスでいうと、ルワンダとかの方がもっと安くてうまいってなっちゃうんです。コーヒー豆の原価が国ごとの経済状況、マーケットの状況によって決まる以上、1つのおいしさの基準だけで切り取ると、安いのにうまい国もあれば高いのにまあまあみたいな国もでてきてしまうんです。


致し方ないところなんですが、これには2つの打開する考えがあるとも思っていて、1つが味の好みは人それぞれだから一概に業界水準の点数などでコスパを評価せず、豆ごとの違いや個性に重きを置いて価値を伝えるということ。もう1つが美味しさ以外の価値をもって売るということ。

僕は、例えばバリ島のコーヒーだったら、実際かなり美味しいとも思うんですが、何度も通って実際に自分たちで作っていることや、精製メンバーの人との関係性、現地の景色やストーリー、こんなものもお客さんにわくわくを持って伝えられたら大きな価値だと思っています。

国によって、コーヒー生産の現場はいろんな変化があり、国ごとのコーヒーを仕入れる以上そんな差を含んだ価格や品質になっていきます。だからこそコーヒーは面白いんだとも思います。



今回のバリ島の話、皆さんはどう思いますでしょうか?僕は、今後どうなっていくのか2割ほど不安ですが8割はいい方向に進んでいくと良いと思って見守りたいと思っていますし、なにより、実際今年のコーヒーがどんな風に仕上がっているか楽しみです。

お店で出したいと思っているのでお楽しみに!


川野優馬


SNSのフォローやコメントお待ちしております!

Twitter: @yuma_lightup
Instagram: @yuma_lightup

おすすめの豆はこちら


YouTubeでもコーヒーのことをお伝えしています!


コーヒー豆はWEBショップで販売しています!


Podcastでもコーヒーの話をしています!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?