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くまモンに学ぶ仕事の流儀(9)コラボの裏にあるもの

第3章 快進撃
その1    コラボの背景に見える公務員の知性

地道な努力を重ねながら着々と認知度を拡大し続けるくまモン。
その快進撃を語る上で、必ず紹介されるのは数多くの有名企業とのコラボです。
国内は言うに及ばず、海外でも
・バカラ(フランス)
・ライカ(ドイツ)
・シュタイフ(ドイツ)
・MINI(ドイツ)
・DE ROSA(イタリア)
・ロクシタン(フランス)
などなど、名だたるビッグネームとのコラボを実現させています。
国を代表する企業が、海外のいち都道府県(東京でもなく)のキャラクターの限定商品をつくるというのは、例えば、TOYOTAがアラバマ州のマスコットキャラクターの限定レクサスをつくる...みたいなことでしょうか。
ちょっと想像がつきません。

これらのコラボ企画を行う理由は話題づくりです。
何度か書いているように、そもそも熊本県は利用料をとらないので、いくらコラボ商品が売れても儲けはありません。
それよりも、世界的ブランドとのコラボによって、国内はもとより海外のメディアがこぞって取材に訪れ、記事や動画が拡散することが狙いなのです。
もちろん、単なる打ち上げ花火で終わらせないよう、コラボ相手には伝統ある、なおかつ遊び心のあるブランドを選び、内容にも気を配ることで、くまモンの価値ひいては熊本県の価値を高めています。

では、どのようにしてこれらのコラボは実現に至ったのでしょう。
もちろん小山薫堂の力添えや、くまモン人気を嗅ぎつけたブランド側からの申し出、というケースも少なくないでしょう。
ですが、くまモンを支える県庁職員の、人間力によるものもあるようです。

例えば、イタリアの自転車ブランド「DE ROSA」とのコラボの場合。
くまモンがミラノ万博に参加することになり、せっかくイタリアに行くのならどこかビックネームと組めないか、と考えたチームくまモン(県庁職員)。
同時期に映画「弱虫ペダル」に出演することが決まっていたこともあり、ならば自転車メーカーの「DE ROSA」はどうか?となりました。
そこで、職員が出したメールがこちら(一部抜粋)。

『今回ご連絡を差し上げましたのは、国際博覧会が開催されているミラノにくまモンがお伺いすることになり、重ねて別途国内での話題化の案件もありまして、自転車でのコラボレーションを御社にてご検討いただく可能性がないかと思ったからでございます。「くまモン」は黒いからだと赤いほっぺが特徴でして、御社取扱いブランドの「DE ROSA」のロゴと近しいのではないかと勝手に思っているところです。突然のことで誠に恐縮なのですが、興味をお持ちいただけるようであれば、一度ご説明に参りますので、御連絡をいただけると幸いです。何卒ご検討よろしくお願いいたします。』

このメールをきっかけに、コラボは見事成立しました。

また、コラボ案件とは少し違うかもしれませんが、
作家の村上春樹がプライベートで熊本県を訪れ、そこらじゅうにくまモンがいることが気になり、ひそかに熊本県庁に取材に行ったことを雑誌「CREA」に書いたのです。そのことを、雑誌に掲載された始めた知った職員が、編集部に送った手紙がこちら(一部抜粋)。

『今回の来熊で、残念ながら村上氏がくまモンに会う機会はなかった御様子。まずはくまモンに会っていただいた上で、あらためて印象を持っていただきたいと思うのです。大変厚かましいお願いであることは重々承知しております。しかし「僕はいったん何かが気になりだすと、いちいち気になってしょうがない因果な性格」でいらっしゃるなら、周辺取材だけでなく、直接くまモンに会っていただくべきと思うのです。どこへでも参ります。・・・もとい。海外はご勘弁ください。まずは、貴編集部を訪ね、●●様に村上氏への取り次ぎをお願いすることから始めさせていただければと思います。あるいは、熊本在住の●●氏に貴編集部への取り次ぎをお願いすれば実現いたしますでしょうか?』

村上春樹とくまモンの対面はまだ実現していないようですが、これだけ正しい日本語で端的に内容を伝えつつ、ユーモアさえ感じさせる文面であれば、少なくとも相手に不快な思いを与えることはないと思います。
その他にも、コラボなど大きな成果をあげたエピソードからは、くまモンのプロデュースを担当する職員の方々が、常識をわきまえ、教養をもち、好奇心旺盛な人柄であることが伝わってきます。

▶︎本日のポイント
実際に文面を読んでいただくとわかるように、コラボ実現の裏には、礼をつくした言葉遣いや気配り、的確な説明があったことがわかりまます。いくら企画がよくても、結局は人と人との信頼関係。丁寧なコミュニケーションが不可欠である、ということは忘れてはいけません。

また、もうひとつ、コラボ実現の裏に見え隠れするのは、担当者の「好奇心」です。
例えば、上記の事例で挙げたDE ROSAも村上春樹も、それぞれ市場においてどのような存在なのか、どのような特徴があるのかあらかじめ知らなければ、上記のような文面は書けません。他にもくまモンが関わってきたのは、漫画、アニメ、スポーツ、歌舞伎、クラシック音楽、落語、企業、著名人などあらゆるジャンルに及びます。その都度、そのジャンルの誰と組むか、どんなことなら失礼に当たらないか、ファンのツボにはまるかこれらを、毎回必要性を感じてから勉強しても追いつきません。だからこそ好奇心がモノをいいます。
日頃からいろいろな業界のことに首をつっこみ、友人をつくり、あれこれと思いを巡らせている人、つまり好奇心旺盛な人は、どこに行けば、誰に聞けば、どんな知識が得られるか知らず知らずに把握している可能性が高いのです。

知識が増えるということは、「知らない」ことに気づくこともできます。それがまた次の知識につながり、同時に謙虚さにもつながります。
前例のないことをやらなければならない仕事や、複数の業界や業種が絡み合う仕事をする時には、とても大切な資質です。

手始めに、単なるゆるキャラだと思っていたくまモンの裏になにがあるか、
好奇心を呼び起こしてこんな本を読むのはいかがでしょう。


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