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くまモンに学ぶ仕事の流儀(10)ストーリー=物語をのせる

第3章 快進撃
その2   必ずストーリーをもたせる

第2章で紹介したtwitter活用術やブランディングに関しては、地道にコツコツと築き上げていった部分を紹介しましたが、くまモンの仕掛けのなかには、用意周到に準備をし、鮮やかに話題をさらったみせたものもあります。起点から着地まで、最も鮮やかだったものをご紹介します。

2013年10月末、熊本県知事が記者会見で「くまモンが赤いほっぺを無くしてしまった。皆さん探してください。」と呼びかけました。
実際に、その時から全国各地に登場したくまモン(着ぐるみ)には、トレードマークの赤いほっぺが無く、アテンドのお姉さんと「赤いほっぺ探してください」と
ビラを撒きながら、観覧車の上から探してみたり、警視庁に遺失物届けを出してみたり。

実はこれ、熊本県が行なっていた『赤いけん!ウマいけん!くまもと』というキャンペーンの一環。
熊本には、生産量全国1位のトマトやスイカをはじめ、いちご、赤茄子、桜鯛、赤牛、馬刺しなど「赤い」食材がたくさんあるということをPRする内容です。
その「赤」とくまモンの赤いほっぺを関連づけ、しかも「美味しいものを食べるとほっぺ」が落ちるというところから、「くまモンが熊本の赤くて美味しいものを食べ過ぎてほっぺが落ちてしまった!」というストーリーだったのです。

記者会見から4日後、種明かしをする動画を公開して、くまモンの赤いほっぺは、トマト畑やスイカ畑で見つかりました!というオチをつけて決着させました。

以前に書いたように、そもそも赤いほっぺはデザイナーの水野学氏もくまモンの象徴として取り入れていたものです。そのトレードマークをうまく活用し、熊本食材の「赤」と「美味しさ」を実に見事に紹介したと言えます。その証拠に、この一連の広告は世界レベルの広告賞をいくつも獲得しました。

さらに驚いたのはこれだけではありません。
赤いほっぺが無くなった時、多くの人がSNSで反応し「心配だ」とか「見つけた!」などの賑わいを見せたのですが、これに対して、今度はお礼として「ありがとまと」なる高級トマトをプレゼントする企画を行ったのです。
なかでも歌舞伎役者の市川海老蔵には、ブログで話題にしていたことをきっかけに
わざわざ舞台公演後の海老蔵を訪ね「ありがとまと」をプレゼント。さらにその縁がつながり、熊本県八千代座で予定されていた海老蔵の舞台にくまモンが出演するところにまで結びつけたのです。どこまであらかじめ段取りされていたのかはわかりませんが、実に見事です。八千代座の公演ももちろん大成功。数年後には、なんと歌舞伎座の舞台にまであがるなど、前代未聞の快進撃を続けています。

▶︎本日のポイント
「プロフェッショナル」でも紹介されていましたが、くまモンの仕掛けは常に「ストーリー」つまり「物語」を強く意識しています。番組内で紹介されていたのは、ロクシタンの創業者にコラボ商品の開発を直談判というシーンでしたが、これも「熊本県職員が営業して実現した」というよりも「くまモンが直談判」というほうがはるかに面白みがあります。
上記の事例でも、「くまモンが赤い食材をPR」ではなく、「くまモンが赤い食材を食べ過ぎてほっぺを落とした」というほうがはるかに楽しいし、思わずSNSにあげたくなりますし、人(熊?)の温度感が伝わるような印象になります。

最近は、企業の公式twitterアカウントが、一見仕事に関係ないtweetをしたり、中の人どうしが仲良くなって一緒に旅行したりゲームをしたり…といったことも珍しくなくなってきましたが、そのようなやりとりの中で自然なかたちで自社商品が紹介されていたり、会話のノリで新しいコラボ企画が生まれたり…という様子をみていると、日頃のゆるい会話は、そのようなストーリーのあるPRを生むための布石やきっかけづくりのようなものだろう、と感じます。
巨額な広告費を投資して、ポスターやCMを展開しても、目に触れさせることはできても、その中身まで深く認知してもらうことや、まして「共感」を生むことは難しいのです。

ただし、ストーリーとは、常に画期的なアイディアで世間をアッと言わせるものでなければいけないということはありません。むしろ、アッと言わせようと無理やりストーリーっぽく仕立てたものは、見慣れている人には嗅ぎ分けられますし、下手をすれば炎上します。それよりも、インパクトは弱くとも、中身が伴っているほうが大切です。まずは大前提として、なぜやるのか、なにをやるのか、どうやるのか
という点について、しっかりと中身を説明できる状態にしておきましょう。

紹介した事例でも

なぜ:熊本の食材は魅力的で美味しいから
なに:赤い食材ばかりをまとめて紹介するキャンペーンをする
どう:専用サイトを作ったり、くまモンを使ってPRする

なぜ:熊本にある八千代座が魅力的だから
なに:海老蔵の公演に合わせて紹介する
どう:くまモンが舞台に立つ!

なぜ:ロクシタンが行う視覚障がい者支援の活動を、熊本でも行ってほしい
なに:ロクシタンの売上の一部を熊本の視覚障がい者支援にまわす仕組みをつくる
どう:くまモンとロクシタンのコラボグッズを作成し売上の一部を寄付

といった中身が前提にあります。
これらを、ただまっすぐに紹介しても、「ふーん」で終わってしまう可能性が高いので
・くまモンが熊本の赤くて美味しい食材を食べ過ぎて赤いほっぺが落ちた!
・ほっぺ探しに協力してくれた海老蔵に会いにいき、仲良くなる!
・くまモンがロクシタンの創業者にイベント会場で直談判!
といったストーリーを乗せたことで人々の関心を呼んだのです。

内容も伝え方も両立、というのは簡単ではありませんが、くまモンの例を紐解いていくと、理解しやすいのではないでしょうか。

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