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OHSS+陽性反応が出た後の入院生活のお話②

看護師さんの優しい言葉で、入院継続を決意した7月中旬。
卵巣の捻転がこわくて入院を継続したのだけれど、毎日が白い病室の中のベッドの上で完結してしまう日々は、思っていた以上にストレスが溜まった。
外の空気を吸いたくても外出禁止。絶対安静だから、病棟の中をうろつくのももちろんダメ。
「3週間とか4週間目になってくると、気持ちが病む人もいるんですよ。声をかけてくれたら、一緒に病棟の中を見て回ることもできますから。あと、医院長が読んだ本がたくさんあるので、本を借りることもできますよ」
と、安静にしていることに対してアドバイスをくれた看護師さんもいた。

「本ですか…」
本は好きだ。だから、本は、持ってきていた。のだが、つわりが6週頃から本格的に始まり、キツくて寝ていることのほうが多かったし、動けないことにイライラして文章を目で追う集中力がなくなっていた。
病棟内のお散歩も、何もしないよりもいいかも、とは思ったのだけど、人手が足りず、忙しそうしている看護師さんを呼び止めて一緒に病棟内を歩き回るのも気が引けた。

「動画をよろこんでずっと見ていた人もいましたよ〜」
とも言われたのだけど、成人してから感性が干からびている私は、特別にドラマや映画、アニメにはまるということは滅多にない。
前の週は持ち込んだ仕事に追われていたから、時間もあっという間に過ぎてくれたけれど、何もすることがなくなると、時間の流れが一気に遅くなってしまった。

安心して退院できる時期も、卵巣の大きさ次第だったから、看護師さんもドクターも明確には言えないらしく…。退院したいけれど
「でも、捻転したら怖いしなぁ…」
捻転して手術することになり卵巣が片方なくなることを考えると、不安だった。ただでさえ多嚢胞卵巣症候群なのに。

翌日の検診で
「あー、8センチ超えちゃったね」
と言われた。ついに、左側の卵巣が安静にしているのにもかかわらず自己ベストを更新してしまったのだ。
なぜ安静にしているのに腫れてしまうのか。女性は妊娠すると、それを継続させるためのホルモンが卵巣から出ているそうだ。私の場合、体外受精を行っているため、ホルモンの分泌を薬等でサポートする必要なある。私が通っている病院では、サポートするホルモン剤としてウトロゲスタン膣坐薬を1日3回、エストラーナを2日に1回、腹部と臀部に交互に貼り替えた。
妊娠していて自力で頑張ってホルモンを出している卵巣に、さらに追い打ちをかけるようにサポート用のホルモン剤を摂取しているため、卵巣が過剰に反応して大きくなってしまう。だけど、妊娠を継続させるために9週あたりまではホルモン剤を取り続けなくてはいけない。

妊娠していない場合は、安静に加えて、卵巣を小さくさせる薬がもらえるそうだが、薬は使えないため、卵巣と腹水の様子を見ながら、安静にするしかなかったのだった。
8センチを超えてくると、自宅にいなくて正解だったかも…と少し思えた。

だけど、そろそろ、外に出たい。
外の空気を吸いたい。
病棟の外に出て散歩したい。

インドア派だったから、安静生活なんて楽勝だと思っていた。だけど、巡回にくる看護師さん以外に喋る人がいないと、謎にストレスが溜まってくる。

2週3日目を過ぎたあたりで、自分がそろそろ限界に達しそうになっていることを自覚する。
あんなに捻転を恐れていた先週の自分はなんだったんだ…と自分に呆れる気持ちもあった。

いくら安静にしても卵巣は8センチを超えてその大きさをキープしている。
「うーん、同じ安静度が保てるなら、病院でも自宅でも一緒かもしれない。」
ドクターがそう言ったけど、直接ドクターに退院を申し出るには、先週のこともあり勇気がなかった。

病室中戻ってから、看護師さんに検温してもらっている時に
「あのー、卵巣が大きくも小さくもならないので、そろそろ自宅療養に切り替えたいです…。退院って、どうすればできますか?」
と尋ねた。

すると、看護師さんが
「自分が許可は出せないから、急いで医院長に確認してみるね!」
とすぐに確認をしてくれた。
先週は「入院していないと捻転が怖いです。」とおろとろして不安を訴えていた癖に。動けないストレスが溜まった途端に「退院したい」だなんて。自分の言うことが二転三転してしまったことに、申し訳なさと、恥ずかしさを感じた。

翌日、意外とあっさり退院することになった。
旦那さんに連絡をとり、迎えに来てもらえることになった。

「次の来院してからの診察で、卵巣の腫れがひどくなっているようでしたら、再入院の可能性もあるので、血栓症予防のためにしっかり水分を取るのと、あとは絶対に安静ですよ?無理しないでくださいね。」
と病院を出る直前に念を押された。
看護師さんたちには本当に色々とお世話になりっぱはしだった。夜勤で病院に泊まり込んで、翌朝の診察まで一緒に付き添ってくれた看護師さん。
自分の職種がよく、テレビで多忙であることがニュースになっているけれど、やっぱり医療関係でお仕事している人たちのほうが大変なんじゃないかって感じた2週間でもあった。
「いろいろとご迷惑をおかけしました。ありがとうございました。」
お詫びとお礼を告げて、荷物を持ってくれている旦那をゆっくりと追いかけた。

約2週間の入院生活。家に帰ってから、旦那さんに家事やら何やらをやってもらわなくてはいけなかったのが申し訳ないけれど、好きな時に外の空気を吸えるし、家族と直接話ができるようになったことはとても嬉しかった。

退院してからすっかり1ヶ月以上経過した。8月は自宅療養に専念した。
卵巣も8月末までには4センチほどになってくれていて、無理をしない程度に家事もすることができた。

肝心の赤ちゃんも、週数相応に大きくなってくれた。9週目で、赤ちゃんの形少しずつ人の形になっているエコーを見て、涙が出た。
「去年は人の形になる前に心臓がとまっちゃったんだよな。」
と、やっと妊娠している実感が湧いてきた。
初めての妊娠が流産だったから、検診の度に心臓がちゃんと動いているか緊張してしまう。そして転院してからの検診でもそれは変わらず。
やはり、出産するまでは浮かれた気持ちになれそうにない。(むしろ出産後のほうが大変だろう。)

自宅療養中は人並みにつわりに苦しむことになるのだけど、なんとか妊娠継続していることが嬉しい。
体外受精にステップアップするまで、すごく時間もお金もかかったし、挑戦したあとは合併症になっちゃって大変だったけど、体外受精に進んで本当によかったと思っている。

幸運の女神(フォルトゥナ)には前髪しかない。

大好きな画家が言っていた言葉(元々はレオナルド・ダ・ヴィンチの言葉らしい)。私はしっかりとフォルトゥナの前髪を掴むことができただろうか。
もし、不妊治療をやっている人がいて、体外受精に迷っている人がいたら、私は背中を押したい。
もちろん、自分の意思も、パートナーの意向も、お金や仕事のこともいろいろ考えなくちゃいけないけれど。
もちろん1回で成功するとは限らないし、「必ず授かりますよ!」なんて無責任なことは言えないけれど。
不妊治療に頑張っている人たちが、少しでも前に進めますように。

入院と自宅療養ですっかり衰えてしまった体力と筋力を取り戻すために、体調の様子を見ながら運動と食事に気を配った生活を送りたい。

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