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【映画レビュー】ロブスター

シュールで意味がわからない世界観が、妙に面白くて引き込まれる。かなり変な映画だ。

この映画の、意味がわからないあらすじを聞いて欲しい。パートナーのいない者は身柄を拘束され、街から離れたホテルに監禁される。そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、動物に変えられてしまう。何を言ってるんだコイツは……?と口を開けてしまいそうな説明だけど、映画を見ても何をやってるんだコイツらは……?というシュールな世界が描かれる。
この意味のわからない世界が、魔法や超能力なしで淡々とディストピアとして描かれているからすごい。

主人公の男性が、パートナーを見つけるための施設送りになったところから物語は始まる。主人公以上にこの世界のルールがわかっていない観客に、淡々とシステマチックにルールが提示されていく。なんだこのヤバい世界は?と思いながらも、ちょっとずつルールを理解していく。服装や行動など徹底的に管理された日常や、45日の期間を延長する方法や、パートナーが出来た時の手順や、逆にシングルのまま期間の最終日を迎えた時の手順など。パートナーになるには、単に互いに好きになるだけじゃなく共通点が必要だという事もわかる。
そしてこの世界にも、反政府組織みたいな体制に反発した組織がある。しかしレジスタンスにも体制側と真逆なだけで体制側とおなじくらい厳しいルールがある。パートナーを見つけなくていい訳ではなく、見つけてはいけない。シングルで他人に頼らないよう徹底したルールがある。
こうして挙げてみると恐ろしい世界のようだけど、不思議と不気味さを感じない、なんならクスッとしてしまうようなシュールさで描いている。わりと性的な事や残虐な事もあるのだけど、それがあまりに淡々と描かれるので共感する余地を与えず不思議で意味不明な空気を感じるだけだ。ただ、完全に意味がわからない訳じゃない。この描かれているルールがただ不思議な空気を作るためだけでなく、ちゃんと物語のなかで上手く作用している。ちゃんと意味がわかるし、ものすごく心を揺さぶられる場面もある。

ちなみにこの映画、『ロブスター』というタイトルが付けられているだけあって作中でロブスターについて語られる場面がある。ロブスターは100年以上も長生きする可能性があって、さらに死ぬまで生殖機能を持つそうだ。そんな印象的で今後の人生に役に立たなそうな知識を思いがけず得てしまった事も、なんだかこの映画らしいなと感じてしまった。
人間が動物に変えられる事もある世界なので、この世界には動物がたくさんいる。動物になって森に放されたであろう、森の景色に全然似つかわしくない不自然な動物たちがちょくちょく現れたりするのも、意味不明な世界観ではあるけどちゃんと作り込まれているんだなと感じられる。

『ロブスター』 3.5

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