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【映画レビュー】法廷遊戯

こんな面白い日本映画は久々に見た。ちょっとびっくりした。

この映画がどんな映画か、ちょっと定義付けが難しい。ミステリーであり人間ドラマであり法廷ものであり、ミステリーとしても面白いし、人間ドラマとしてもよく出来ているし、法廷ものとして斬新な切り口もあるし、でもそれがメインの魅力ではない気がする。映画の醸し出す空気感が独特で、でも雰囲気だけじゃなくちゃんと中身がともなっている良作だ。
私は小説を読む時は、書いてある中身よりも文体に魅力を感じる傾向にあって、この映画には小説でいう文体がドンピシャで刺さったみたいな、空気感がめちゃくちゃ好みだという感覚があった。

冒頭はやや現実離れしている感じで、この映画が描くものについて何も知らなかったので面食らった。法科大学院の学生たちが遊びで模擬裁判をしているのだけど、地下の洞窟みたいな場所に学生たちがろうそくを持って集まってその模擬裁判のゲームをやる。その会場だけは雰囲気を出そうとしてリアリティがなくなってしまった感じがしたけど、そこから先の雰囲気の作り方はかなりすごい。よくわからないけど不気味な感じ、仄暗い感じを先に受け取ってから、徐々に情報が明らかになっていく。法科大学院生たちの現状がわかり、過去がわかり、そんな彼らに事件が起こり、その裁判が行われる。この情報の出し方の上手さ、ちょっとずつわからない事が出てきてちょっとずつそれが明らかになっていく塩梅がちょうど良い。そして情報が明らかになっても作り上げた雰囲気を損なわないところも上手い。
セリフがけっこう独特で、現代の言葉からはちょっと乖離しているのだけど、何十年も前に書かれた名作を読んでいるような新鮮さを感じた。不自然ではあるのだけど、その不自然さが他の作品にはない魅力になっている。

雰囲気だけでなく、ストーリーも上手い。メインキャストの3人の人生を描く事に集中しているので、人間性やそれぞれの関係を深く掘り下げる事が出来ている。これだけメインキャストを絞ってあるので、ミステリーの中でも「誰がやったか」を解きたいタイプの人は楽しめないだろうけど、この映画のミステリーは法律や裁判と個々人の心理を上手く絡めた新しくてロジカルな納得がいくものだった。ただ万人受けするようなわかりやすいものではないので、評価されにくいだろうなとも感じる。
映画のメインテーマは同害報復、「目には目を歯には歯を」というやつだ。野蛮な思想と思われがちなこの理論を用いて理性的な復讐を描く。珍しいテーマなのにちゃんと理解できるし、ストーリーの中にちゃんとテーマがはまっているのが上手いと感じる。

長々と語ったけど、この映画について上手く説明できない。わかりやすくコレがすごい!というキャッチーな売りがあるわけではなく、とにかく全体的に素晴らしいのだ。例えば「杉咲花の怪演が見どころ!」と言ってしまうとこの映画の魅力を矮小化してしまう。もちろん杉咲花ちゃんの演技は素晴らしかったけど。
廉くんの映画だ、見よう。と軽い気持ちで鑑賞したら思いがけずめちゃくちゃ面白い映画だった。

『法廷遊戯』 4.5

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