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生成AIと法律問題 -vol.4-著作権法②

こんにちは!
生成AIを使う際に生じる法律問題を、自分の頭の整理も兼ねて簡単に説明しています。

生成AIと関連する著作権法上の論点は以下のとおりです。

1 著作者・著作権者
2 著作物性
・プロンプトの著作物性
・ 生成物の著作物性
3 著作物の利用
・学習モデル構築における著作物の利用(著作権法30条の4)
・生成物による既存の著作物の著作権侵害
4 著作者人格権

前回は、上記「1 著作者・著作権者」について解説しました。

今回は、上記「2 著作物性」について解説していきます。

2 著作物性

(1) 「著作物」とは

「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を言います(著作権法(以下「法」といいます。)2条1項1号)。
かかる定義は、以下のとおりに分けて説明されます。
・「思想又は感情を」表現したもの
・「創作的に」表現したもの(創作性)
・「表現」したもの

以下では、上記各要件の解説と、生成AIによる生成物との関係での論点を説明します。

(2) 「思想又は感情を」表現したもの

①  意義
著作権法で保護されるためには、その作品が、最低限、人間の精神的活動の成果といえるものでなければなりません。もっとも、ここでいう「思想又は感情」は、芸術的に高度なものである必要はなく、表現者の何らかの気持ちが現れているという程度で足りるとされています。(以上、島並良他『著作権法入門〔第2版〕』18頁)
そのため、「思想又は感情」の表現であるか否かが争われることは、通常はあまりありません。

②  AI生成物が「思想又は感情」の表現といえるか
AI生成物の場合は、入力に対応して学習モデルを介して処理を受けた出力として生成データが得られます。生成AIの実装形態は、現状では電子計算機たるハードウエアとソフトウエアによる情報処理であると考えられ、AIが自律的に生成したものについては、人間の創作的な関与がないため「思想又は感情」が含まれておらず、著作物として保護されないと考えられます。
一方で、人が思想・感情を創作的に表現するための道具としてAIを使用したと認められれば、AI生成物は著作物に該当することになります(文化庁著作権科「AIと著作権」)。
「道具としてAIを使用した」と認められるか否かは、前回ご説明した考え方のとおりです。

(3) 「創作的」に表現したもの(創作性)

①  意義
また、著作物として保護されるためには、創作性、すなわち、著作者の何らかの個性が表現されている必要があります。
既存の著作物の模倣や、ありふれた表現には創作性が認められず、したがってそのような表現は「著作物」と言えません。

②  AI生成物が「創作的」表現をしているか
AI生成物が、既存の著作物の模倣であるか、ありふれた表現であるかについては、通常の著作物と同様に判断されます。

(4) 「表現」したもの

①  意義
著作物とは、著作者が自らの思想、感情を混入して具体的に表現したものをいい、そのような具体的な表現を生み出すもととなった思想、感情それ自体は著作物として保護されません(島並他・前掲22頁)。「アイデア」それ自体は保護の対象にならない、とよく言われるのは、このことです。
たとえば、あるイラストレーターの作品の「作風」それ自体は、「アイデア」に過ぎず、著作権法の保護の対象にはなりません(文化庁著作権課「AIと著作権」NBL1246号)。

②  AI生成物と「表現」との関係
AI生成物についても、当該生成物が、他の著作物の作風や画風といったアイデアという点で当該他の著作物と類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない場合には、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害にはなりません(素案5.(1)エ(イ))。
アイデアは「表現」ではなく、著作物ではないから、著作権も発生せず、そのアイデアを真似たとしても著作権侵害にならない、ということです。
ただ、一方で、素案には以下のとおりも記載されています(素案5.(1)イ(イ))。

近時は、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。このような場合、当該作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず 表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。

素案5.(1)イ(イ)

翻訳すると、「作風」「アイデア」は著作権法で保護しないが、「作風」「アイデア」を似せると、当然「表現」も似る可能性が高まる(そして結果的に著作権侵害になる可能性も高まる)、ということです。

まず、「特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う」場合というのは、
例えば、「AIいらすとや」が挙げられると思います。

このような、特定のクリエイターの作風を活かした画像を生成する場合、結果として、既にある著作物と類似する著作物が生成されてしまう可能性があります(この場合は結果として著作権侵害となり得ます。)。

例えばこちらが既にあるいらすとやのイラスト。

既にあるいらすとやのイラスト

こちらがAIいらすとやで生成したイラスト。

AIいらすとやで生成したイラスト

この2つの画像は、似ていますよね(著作権侵害というほど類似してはいないと思いますが。)。作風が似ると、結果としての表現も似るというのは、こういうことです。
この2つの画像がもっともっと似ていて、「類似している」と言える場合は、生成したイラストが、既存著作物の著作権を侵害していると評価できる、ということです(依拠の問題は別途あります。)。

(5) プロンプトの著作物性

今までは生成物の著作物性の話をしておりましたが、
段階を変えて、プロンプト(生成物を生成する際に入力する指示)を書くのは大変だから、著作権を認めるべき、という議論も一応あります。
あまり問題になることはなさそうなので簡単に説明しますが、
①プロンプトに小説やイラストなどの著作物を入力する場合
②プロンプト自体がプログラムである場合
にわけられそうです(柿沼太一ほか「ChatGPTと生成AIに関する法的倫理的課題」(NBL No.1245))。
①の場合は、プロンプトは著作物である前提です。プロンプトの著作物該当性については、上記(2)~(4)の規範に基づいて判断されます。
②の場合は、例えば、エンベッディング(Embedding)といって、ユーザがプロンプトに入力する前処理として、その入力と関係のありそうな知識をプロンプトに加えることで、当該生成AIがその知識を利用した回答をしてくれるようにする手法があります。このような処理をした場合、プロンプトはプログラムの著作物(法10条1項9号)であると言える可能性があります(柿沼太一ほか「ChatGPTと生成AIに関する法的倫理的課題」(NBL No.1245))。

(6) まとめ・私見

というわけで、著作権者該当性と重なる論点も多いですが、生成AIを使用して作品を作った場合に、その作品が著作物に当たるかという論点について整理しました。
特筆すべきはやはり「アイデア」「作風」それ自体は「表現」したものといえず、著作物性が否定されるという点になります。
この点は、クリエイターやそのファンからは批判が続出している点かと思います。
実際には、著作権法的には問題が無いものであっても、SNS等での炎上によって、実際に違法かどうかにかかわらず、評判や売上に大きく影響してしまう例もあります(生成AIかどうかにかかわらずですね。)。
ただ、作風を著作権法で保護すると、あるクリエイターが一つの作品を作って、その著作権を譲渡した場合、そのクリエイターは同じ作風の作品を作ることができなくなります。また、アイデアを著作権法で保護すると、ある学者がある学説(アイデア)を発表した場合、それ以後は他者が似た学説を発表できなくなり、学問の発展も阻害されます。
「アイデア」「作風」それ自体を著作権法で保護しないのにはそれなりに理由があります。
ちなみに、この手のクリエイターからの批判については、素案が一応見解を出しています。

「著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。」

素案5.(1)エ

これは法30条4という別の要件の話ですが、文化庁は、アイデアや作風が類似するというだけでは著作権侵害にはあたらないということを前提にしています。

次回は、著作物の利用について整理していきます。
それでは今日はこの辺で🐑
めえめえ

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