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持続的な働き方のための自分の軸

国土交通省が話題である。

この「総勢25名の講師陣」の属性が偏りすぎているとして批判を集めているのだ。

これで思い出したのが、以前仕事相手だった企業だ。短くない付き合いだったが、続けているうちに違和感を抱く出来事が増えていった。しかしフリーランスの身、頂いたお仕事(しかも報酬がいい)はありがたく続けるべきではないのか。そう思って我慢していた。

そんななか、その企業が主催するイベントの告知をたまたま目にした。そこではさまざまな登壇者の名前と顔写真が掲載されていたが、国土交通省同様その属性に多様性はまったくなかった。すべて社会におけるマジョリティ層のみで占められていたのだ。ちなみにこのご時世、ウェブサイトにダイバーシティを謳うグローバル企業では、イベント登壇者の多様性を確保するのはもう当たり前となっている。

もちろん、パッと見ではそれぞれの性自認などはわからないため、もしかするとジェンダーマイノリティの人が含まれていたのかもしれない。ただ、それまでの違和感と、その登壇者の多様性のなさが私のなかでつながった。ダイバーシティの実現を大事にする私にとって、そんな企業のお手伝いをするのは抵抗があった。

私は学生の頃からダイバーシティに対する関心がとても高い。大学の専攻でアメリカ文化論を選んだのは、ひとえにその多様性に惹かれたからだ。卒論でもアメリカの多文化主義教育について書いた。私にとってダイバーシティの追求は自らのアイデンティティと密接にかかわるものだった。

こうした熱意があったからこそ、就職活動でもダイバーシティの実現に少しでも関わる仕事をしたいと思っていた。女性のエンパワメントもその1つである。しかし、そんな熱意をある女性向け下着メーカーの面接で語った私に、面接官はこう言った。

「そんなに社会を変えたいのならNPOとかに行った方がいいんじゃないですか。わざわざ企業でやる必要がないのでは」

企業の社会的責任意識などまだまだ緩かった時代である。ダイバーシティという言葉さえ一般的ではなかった。これを機に私は、ダイバーシティの実現などビジネスの文脈とは相容れないのだと考えるようになり、その熱意を封印した。そしてしばらくはそんなことを忘れたように、多数派に迎合して働いたり生きたりしていた。しかし結局それに耐えられず、大きなリバウンドを経験して今に至る(詳しくは「川下り型キャリアを実践する女の話」へ)。

そして今、時代は変わり、企業は持続的な成長要素としてSDGsやESGに目を向けるようになった。ダイバーシティという言葉も誰もが知るようになった。女性をエンパワーするサービスもたくさん生まれている。そして何よりも、従業員や消費者が企業のミッションや姿勢への共感を重視するようになり、それが人材定着要因や購買要因の1つにもなっている。社会を変える熱意を持つこととビジネスは何ら矛盾するものではなくなった。

そんな世の中の流れとともに、ダイバーシティの実現に何かしら関係するお仕事をいただけるようになった。当然ながらやりがいはとても大きい。一度引っ込めた情熱が思いがけずビジネスとつながったことに驚き、やはり自分の軸はこれだという気持ちが大きく膨らんでいった。もちろんそれ以外のお仕事もしているが、ダイバーシティの実現に対して口先だけの企業には協力しない。これが私のポリシーとなった。

仕事の軸も目的も人それぞれだ。「黙ってやってればお金が入るのに」と言われたこともある。けれど、ダイバーシティの推進に真剣でない企業と仕事をすることは、大げさに言うと魂を売るようなものだ。そんな働き方は持続可能とは言えない。

今後私たちは思っていた以上に長く働かなくてはいけない見通しだ。そんな未来を生き抜くうえでは体力はもちろん、働くモチベーションをどう保つかが肝になるだろう。そしてその原動力となるのは、個人の原体験だったり、思いだったり、熱意だったりするのではないか。その程度やかたちがどんなものであれ。

あれから20年近く経ち、当時の面接官が今どんな思いで働いているのかはわからない。けれど紆余曲折を経て今その熱意を軸に仕事をできているのは感慨深いものがある。そしてその軸に沿ってアクションを起こせたことを、我ながら誇らしいと思う。

Photo: CHUTTERSNAP



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