本とデッサン画
読み終わると一本の大木のイメージが浮かんでいた。
ーすぅーと不動の何かがそこに佇んでいる感じー
連作短編集だからこその美しさでした。
「赤と青とエスキース」 青山美智子さん
(本の概要を編集)
メルボルンの若手の画家が描いた一枚のエスキース(下絵)
長い間旅をしてきた絵が語り出す
「文庫化されるのが待ち遠しい」
そばに置いておきたいと思わせる作品でした。
読んでいるとき絵にまつわる、こんな体験を思い出しました。
老舗のベーカリーやコーヒーショップなどのお店が並ぶ
○○通りを歩いていて見つけた一つの看板
「描きます 1000yen」
(値段はよく覚えていない)
黒い線のみのデッサン画が並べてあり、
それらを見て「やってみよう」と思ったこと。
カメラで撮られたものではなく、
人の目を通して、人の手で描かれた自分ってどんなだろう、と。
画家さんと話したことを今でもよく覚えています。
とても正直な人で「本来なら断るお客さんだった」と教えてくれました。
もちろん断らなかった理由も続けてくれた。
(こんな感じ↓)
・その日、足を止めたのが私が初めてだった
・もうすぐ日が暮れそうで儲けゼロは避けたかった
「断る理由」は髪を下ろしていないから、でした。
その日の私の髪型は、かなり手の込んだまとめ髪。
「ほどいてくれ」とは言いにくい。
でも断りたくない、ということでそのまま描いてくれました。
雑談しながら数分後、できたことが告げられ、
仕上げに白いなにかで「てんてん」として完成でした。
(今、思い返すとパステルカラーだったような)
鼻先と唇の上に「てんてん」だったはず。
それをした瞬間、一気に立体的に見えて驚きました。
思わず「わぁー」とか言っちゃってたと思います。
右下に日付と名前を入れるということで、名を伝えました。
驚きと笑いが混ざった反応が返ってきて、不思議に思っていると
「エキゾチックな名前が出てくると思ったけど古風な名前で驚いた」と。
「卒業証書授与」みたいに渡されたデッサン画を受けとり、
その場を離れながら、こんなことを感じていたのを覚えています。
髪を下ろして描いてもらう、また来ようって。
そんなことがあったのだったな。
読書は不思議だ。
物語の中の誰かの体験や人生に触れることで、
忘れていた、何年も前の体験を鮮明に思い出すのだから。
あの絵、探してみようかな。
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