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手紙を書きつづる音

本を読んでいると「脳内で映像が流れる」という体験をします
濃淡、色彩、動きの滑らかさは作品ごとに違います
それにプラスしてBGMを流してくる本に出会ったことが一度だけあります
そして初めて「効果音を流してくる本」を体験しました

音にタイトルをつけるとしたら「手紙を書きつづる音」

ざらっとした質感の紙にインクが走る音
跳ねて伸びて止まる、また走り出す文字の音
直感的に手紙と思ったのは誰かを思ってつづられる
息遣いのようなものを感じたからだと思う

最後の一文字を読んで止まった、その音が耳の奥にぼんやりと残った

「ラウリ・クースクを探して」 宮内悠介さんの作品

ソ連時代のバルト三国エストニアに生まれたラウリ・クースク
その足取りを追う《わたし》の目線で進む物語

ちょっとした仕掛けの効果もあり
2部のラストで溢れてくるものがありました(3部構成)

続けて読むのは難しく落ち着くのに
「時間をかけてゆっくりコーヒーを淹れる」くらいの時間が必要だった

行ったことのない異国の地
そこに流れる時間や風習、柔らかな日差しや風
それらを感じられるような文章が心地よかった

数字にしか興味を持てなかったラウリが
プログラミング言語を通して自分を表現し、世界と繋がる方法を覚えていく

物語の主軸はラウリだけれど
その背景には、ソ連とその周辺国との民族問題があります
歴史に翻弄されながら時代のうねりの中を生きる人々
独立運動、通貨の流れでの格差
隣にロシアというエストニアが国と国民をデータ化する理由
陸つづきで隣接する国があるという感覚を頭の片隅で必死に追いかけました

ラウリがどんな人物かというと「朴訥」という言葉がふわっと浮かびます
どこかですれ違ったかもしれない、とか
どこかで居合わせてたかも、みたいな距離感で価値観も遠くない
とても親近感のわく素直な人だと感じました

読み終わって発行日を確認すると「2023年8月30日」となっていた
読んだのが10月20日くらい
この間の数十日で世界は、また大きなうねりに突入した

例えば、もし9月に読んでいたら、どんな心境だったのだろう
また、この本を開く機会があったとして
そのとき世界はどんなだろうと想像してみる

よりやさしい、穏やかであったらいい

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