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2024/3 読書感想文「サガとエッダの世界 アイスランドの歴史と文化」

今月も読書感想文をやっていきます。第四回である今回は山室静さんの「サガとエッダの世界 アイスランドの歴史と文化」を取り上げます。Kindle版の再読になります。

↓前回


本書は数年前、アイスランドの歴史や文化を調べようとしたときに読んだものになります。当時、アイスランドに関する本はほとんど見つからず、あるのは北欧神話メインか旅行系の本ばかりでした。そんな中、本書はアイスランド文学であるサガとエッダなどを通して、アイスランドの歴史や文化を紐解いていくという、これ以上ないくらいアイスランドについて知ることができる本でした。

ちなみにサガやエッダとは何かというと、アイスランド発祥の文学のジャンルで、「植民の書」「アイスランド人の書」「グリーンランド人のサガ」、「古エッダ」「スノッリのエッダ」なんかがあります。サガはある程度客観的に起きた出来事が書かれているのが特徴で、アイスランドのみならず北欧の歴史や文化を辿るのに重要な資料になっています。エッダはざっくり言うとゲルマン神話を取り扱ったもので、現在オタクたちが北欧神話に触れることができるのはエッダが散逸しなかったおかげと言っても過言ではないでしょう。

ゲームだと「サガ フロンティア」の「サガ」部分です。サガは一族や家系に起きた出来事が書かれていることが多いので、サガ フロンティア2のギュスターヴ家やナイツ家に焦点を当てたストーリーは正しく「サガ」しているんですよね。原典リスペクトを強く感じます。

マンガやアニメだと「ヴィンランド・サガ」には、本家のサガである「グリーンランド人のサガ」に登場する人物をモチーフにしたキャラクターがたくさん登場します。西洋人で一番先に北米大陸を発見したのはコロンブスだと言われていますが、実は500年ほど早くアイスランド人のヴァイキングが入植を試みているんですよね。最近の教科書ではどう教えているんでしょうか。

さて、話題が少しそれてしまいましたが、読書感想文に戻ります。

本書で最も強く感じたのは、アイスランド人がとてつもないタフ(そして保守的)だというところです。アイスランドに入植した人々は、美髪王ハーラル一世のノルウェー統一を良しとしなかった古きゲルマン人の部族社会を守ろうとしたヴァイキング達です。時流に乗らずに古き良き伝統を守るため、最果ての地に入植する姿勢はかなりタフ。

デンマークに支配されてからは何世紀にも渡って火山の噴火や飢饉、疫病などなど不遇な時代が続き、アイスランドから撤退する話なんかもありました。しかし、粘り強く耐えることによって近年では地熱を利用した農業や温泉業が成功し、ついに自然までも征服したもはかなりタフです。アイスランドの歴史を紐解くと、当時のヴァイキングがどれだけ強い存在だったのかわかる気がします。

ゲルマン文化や神話が生き残った経緯や条件というのも非常に興味深いです。上で述べたようにアイスランドに入植したのはゲルマン文化を守ろうとしたヴァイキングで、自分たちの文化を守る意識が高かったんですよね。さらに、彼らは元は地方の豪族だったので教養も高い。さらにさらに、アイスランド入植に際して土地に根付いた権威を持っていくことができなかったので、自分が何者か、どれくらい長く続きどんな偉業がある家名なのか新天地で宣言する必要があったんですよね。

それらの条件が重なった結果、キリスト教の伝来時に一緒に入ってきたラテン語を使って自分たちの生活や家系を書きまくったのです。自分たちの文化がキリスト教に埋もれる前に。それが後にサガやエッダとして編纂されて、現代ではゲルマン文化や神話を知るための重要な資料になっています。

北欧神話をベースにしたゲームやアニメなどのコンテンツは、こういったアイスランド人の積み重ねの先にあるものなんですよね。一つ一つの小さな積み重ねが大きな転機になるのは、歴史の面白さであり醍醐味だと感じました。

ゲルマンの部族社会を発展させた結果、なんと10世紀にアルシングという民主議会を成立させているのも面白いです。当然、近代以降の議会とは大きく異なるものではありますが、北の果てでこんなにも文明が発展するのは驚きです。本書でも触れていますが、短期間で文化や政治が発展していく様は、なんだか古代ギリシアを彷彿とさせます。発展後に大国に飲み込まれるのも含めて。

本書の文章の語り口は軽快で、著者である山室静さんが翻訳家であり講師でもあったのでなんだか楽しい授業を聞いているような感覚になりました。じゃあ、読みやすく理解しやすいのかと言われればそんなことはありません。アイスランド人って名前のパターンがかなり少ないんですよね。その上、親の名前をダイレクトに自分の名前に入れるので、似たようなカタカナが幾度となく登場します。歴史上の人物の名前を覚えるのが苦手だったら、まず数ページでギブアップすると思います。これは、まあ、しょうがないです。

世界の国々だったり、特定のモノや概念の歴史はネット検索すればまあそれなりに出てくるんですが、横のつながりを体系的に知るとなるとやっぱり書籍を読んだ方が良いと思いました。つまみ食い的にWikipediaとかを読むのは楽しくて楽ではあるんですけどね……。もうちょっとちゃんと読書習慣を見に付けたいです。

まとめ

本書はサガとエッダを紐解くことによって、アイスランドの文化や歴史に迫っていくという作品でした。アイスランドという国はたいへんタフで興味深く、面白い国だと思いました。世界史好きな方はぜひ読んでみてください。では、また!

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