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本 / 『戦争は女の顔をしていない』抜き書き

 もしもあなたがこの本を〝どんな本なのか楽しみに〟思い、〝何が書いてあるのか知ることに期待して〟いるのなら、この記事は #ネタバレ になります。でも、読書する際にネタバレされたら読む意味が減ると思うならば、それは軽々しいことではないでしょうか。少なくともこの本についてはそう思います。

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 この本のタイトルや、漫画化作品やあれやこれやから勘違いしないで欲しいことは、「女性とは戦争を起こさないものだ」という趣旨の本ではないということだ。むしろこの本はかつて出征した女性たちへのインタヴューに沿って書かれている。戦争は女の顔をしていない、とは、女性は戦争を起こさない、とか、女性は戦争を望まないサイドだったという話ではない。なんなら本のタイトルだけが、私にとって不満かも知れない。彼女たちは記憶を語る。


戦争に行ったことのある人たちが言うには、一般市民は三日間で軍人感覚に変わるとか。どうしてたった三日で十分なのだろう? それともこれも作り話だろうか?
「私は忘れられるものなら、忘れてしまいたいわ、忘れたい」ほとんど囁き声でオリガ・ワシーリエヴナがつぶやく。 
「せめて一日でいいから戦争のない日を過ごしたい。戦争のことを思い出さない日を。せめて一日でいいから……」
憎しみもなしに銃を撃つことなんかできないさ。これは戦争なんだ、狩りじゃない。


「みんな、あなたに会うのを喜ぶよ。待ってるよ。どうしてか教えてあげよう、思い出すのは恐ろしいことだけど、思い出さないってことほど恐ろしいことはないからね」

 場違いなようだが、森博嗣の『すべてがFになる』のある箇所を思い出した。「記憶と思い出の違いとは?」「思い出は思い出せるものだけれど、記憶のなかには思い出せないものもあるんだ」という言葉を、私はずっと握っている。この単語の定義はどうでも良いが、思い出さない記憶もあるという事実だけは知っておきたい。【思い出すのは恐ろしいことだけど、思い出さないってことほど恐ろしいことはないからね】

冬の負傷者の重いことといったら……血と雪の水分が凍ってがちがちになった詰め襟のシャツ。血がしみこんで凍り付いている軍用ブーツは、切り裂こうったってとても無理。とても冷たくて、死人みたいだった。窓の外は冬。言葉では表せない美しさ。魔法のような白いモミの木立ち。一瞬、すべてを忘れてしまうほど……そしてまた……


私の戦争には三種類の臭いがあるんです。血の臭い、クロロホルムの臭い、そしてヨードの臭い。


静かに黙って死んでいく者、「死にたくない!」と喚く者。ひどく汚い言葉で罵る人、突然歌い出す人……モルダヴィアの歌だった……。静かに黙って死んでいく者、「死にたくない!」と喚く者。ひどく汚い言葉で罵る人、突然歌い出す人……モルダヴィアの歌だった……。

モルダヴィア:モルダヴィア、モルダビア(Moldavia、ウクライナ語、ロシア語)もしくはモルドヴァ、モルドバ(ルーマニア語、モルダヴィア語)、モルダウ(ドイツ語: Moldau)

 モルダウ? と思って検索してみたら、やはり独語におけるモルダウが、モルダヴィアである。私たちが小学校のときに無邪気に歌っていた「モルダウ」にさえ、そんなにも背景がある。

その時も思いました、生き物の見ている前で何という恐ろしいことをしたんだろう、馬は全て見ていたのよ……

 かみさまが見てる。だから悪いことを犯すのは怖い。私と同じかみさまを信じていない誰かも、馬が見ている前で何かをすることに恐れを感じる。畏敬の念というものの根本は、誰の心にもあるのだろうと思った。どうしてだろう?

「ソ連の将校は降伏しない、わが国で捕虜になった者はいない、生き残った者は裏切り者だ」、同志スターリンはそう言って、捕虜になっていた自分の息子を拒絶したほど。

 捕虜はすなわち「裏切り者」
 いや、それはほぼ、私たち日本人の過去の姿だ。「捕虜になるくらいなら自決する」と歌って死んだひとたちは、私の祖父母の代だ。
 祖父母と云えば、母の両親、父の両親。
 では、同じ観念が孫の私たちを包むことはほど遠いだろうと誰が云えるだろう? 「捕虜は裏切り者」この引用部分の話者は捕虜になった男性の妻……「裏切り者の妻」ということで、職業も満足に得られない。昔のことだなんて云えるのだろうか? 今だって言葉狩りも他者の否定も盛んなこの国で。

今日は、「キエフ」表記が「キーフ」に変わっていくご時世で、「チェルノブイリ」が「チョルノービリ」に書き換えられていて、今日はショックでした。日本人が頑張らなきゃいけないことって全然それじゃないでしょうが。

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 本当にさあ……敵国語ハ避ケマセウ仕草したって何も、なんにもならないのに、何なの……うわあ引くわ……。

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