ロープウォーク
かおを見て話すのは初めてのことだ。
真如は東の彼方から渡ってきた。
五反は西の彼方から渡ってきた。
ロープウォーカーズたちである。
「コバさん、はさみ要りますか?」
それが五反の第一声だった。真如は一瞬、虚を突かれたが、
「はさみは、持っています」
答えてから改めて名前を名乗り、頭を下げた。
「よろしくお願いします」
五反も軽く頭を下げる。
「どうぞよろしくです」
「ところで……」
ところで。
そうですね/
どちらかが/
そうなんです/
譲らなければ/
通れませんよね/
どうしたものか/
道を譲った方は/
落ちますね/
はい。
落ちたら終わりですね/
どちらかが/
道を譲って落ちる/
そうなんです。
……。
「十人乗りの船があって、」
「十一人居るときの問題ですね」
「その答えの統計」
「ご存知でした?」
リベラリズムなら、全員船から出る。
或いは、リバタリアニズムの風潮があれば、船の席は自由に争われる。
或いは、彼らは功利主義者。社会にとって有益な順に比較して、最も無益な人間を置き去りにして船に乗る。
或いは、くじ引きで決める、ポストモダニストたち。
或いは、アナーキストたち? どんな混乱が起きることか。
どれにしましょう。
「何れかを?」
「あ、鋏、」
はさみ?
「鋏を、どうするんです?」
「ロープを、切ることが出来ます」
微笑。あんなに近付いたのに遠くなってゆく。
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