お顔合わせはいつだって緊張する

「お目にかかるとき、失礼かとは存じますが、名刺をいただくことはできますか」
「名刺交換しましょうか?
僕は知らない人はあまりいない会社に勤めていますが、あとからえーってなるよりも、最初に確認するのはよいと思います」

明日は、ギターさんとのお顔合わせの日だ。
私は、相手の身元をはっきりさせるために、はじめましてで名刺交換をお願いしている。
今日び名刺などいくらでもつくれるけれども、何かやましい動機がある人はここで連絡が途絶えたり、無視したまま話が進んだりするから、ふるい落としてしまう。

あれれ、ギターさん、私が勤務先にこだわっていると思っているようだ。
私が求めているのは、大企業でも、年収でも、肩書きでもなく、身の安全が保障されてお顔合わせをすることだけだ。

「ありがとうございます。
勤め先云々ではなくて、あやしい目的の方は、名刺をいただけますかと言った時点で、連絡が途絶えたりするんです。
一応、オバさんでもも女性なので、身を守る手段です」
「なるほど!」

彼、有名企業になびかないまりかに、がっかりしたのかな。
たしかに、プロフィールの年収は、1000万円以上とある。
本当であれば、それなりに名の知れた大きな会社で仕事をしていると思われる。
それにしても、名刺交換というのは、私がサクラか営業かとでも思ったのだろう。
いまはどう思われたってかまわない。
過去2回のマッチングサイト生活も含めて、公共の場所であってもお顔を合わせる人の身元は知っておきたい。
コトが起きたにせよ、勤務先を押さえておけば、何らかの手立ては取れる。
少しは安心して話ができる。

7つ上で私の数倍稼いでいるのであれば、お会計はスマートに彼にまかせてしまおう。
頃合いを見計らって、お手洗いに立とうかな。
次があるときのために、お礼にスターバックスヴィアをバッグに忍ばせてある。
LINEでのやりとりで、コーヒーが好き、とあったから、職場でも手軽に飲めるインスタントを準備してみた。
「楽しい時間をありがとうございました。まりか」のメッセージを添えて。
もし、次がなさそうなら? 中身だけ会社に持っていって、自分で飲もう。

とりとめなく考えながら、いつもより念入りに化粧水を閉じ込め、目元と口元にシアバターをたっぷり塗り込み、美容液をゆっくりと押し込み、乳液とクリームとでこってり肌に仕上げた。
しみそばかすは隠れないけれども、カサカサちりめんじわだけは避けたい。
花粉症で右目頭のかゆみが治まらないから、アイメイクはできないな。

髪もいつもはだらしなく自然乾燥させてしまうけれども、明日は寝癖がついたら絶対に困る。
すぐにトリートメントにヘアオイルを混ぜ込んで、髪先までしっかりと潤わせ、根元からドライヤーでしっかりと乾かした。
行きつけの美容師さんが言うとおり、油分を仕込んでハンドブローをするだけで、サラサラに仕上がる。
中年の髪の、パサパサしたうねりが目立たない。上出来だ。

明日、着てゆく服を下着からコートまですべて並べて、いま一度、確認をする。
昨日までは紺地に花柄のワンピースのつもりでいたが、やっぱりやめた。
スキニージーンズに、届いたばかりのレモンイエローのボタンダウンシャツと、同じシリーズのカーディガンを合わせることにした。
靴は、紺のフラットシューズ。
彼の身長を慮ったわけではなくて、スキニーとのバランスだ。
このGUのスキニーは、とにかくストッキングと丸みを帯びたフラットシューズとの相性がよい。
7センチヒールを合わせようとしたこともあるけど、どうも靴だけが目立ってしまうのだ。
スキニーをはくから、下着はえくぼさんとのお顔合わせ前日に買った、赤いブラとレースのチーキーにする。
私の胸にシンデレラフィットするブラ、シャツの下にはタンクトップを仕込んで、深めにボタンを外しておこう。
爪には、ナチュラルピンクのエナメルを施した。
口紅は、ローズピンクでよいだろうか。

フラットシューズにスキニーで、70kgオーバーのオバさんはさっそうと歩こう。
満面の笑み、ではなくて、緊張して不安げな表情でギターさんを探して、見つけたら少し柔らかく微笑もう。
ああ、頭の中でシミュレーションが止まらない。

そういえば、夕方以降、ギターさんからのLINEは止まったままだ。
その前のやりとりは待ち合わせの確認で完結しているので、わざわざおやすみなさいだけをいうためにメッセージを送るほど親しくない。
彼からのおやすみが、ほしかったな。


*2023年3月10日の活動状況
・もらった足あと:6人
・もらったいいね:2人
・やりとりした人:1人
いまのところ、やりとりしている人はギターさん以外にいない。
足あとやいいねをつけてくれる人たちも、チェックはしているが、ピンと来る人はいない。
これでしばらくはギターさんの様子を見ることになるのか、それとも新たな狩りに出ることになるのか。
やっぱりお顔合わせは緊張する。

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