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無意識的に家政婦を製造する因習

「女の子なんだから、寝るお布団の用意くらいは自分でしないと、あかんでユリエちゃん。じゃないと結婚出来ひんようになるよ」

この言葉は親戚のおばちゃんに言われた言葉である。

小学6年生の夏休み、私と父は祖父の墓参りも兼ねて、祖父の故郷である四国の実家へお泊まりに行くことに。
正直な所、お泊まりは嫌だった。日帰りで帰りたい。何故ならなーんにもないど田舎だから!
近くに遊べるような小川とか、小さな公園とかそんなものが一切無いのだ。
親戚の家を出ると、目の前は遙かなる大道路と田んぼしか無い。
ジブリのトトロに出てくる田舎は幻想か?と思うくらいにビミョーな田舎なのだ(都会子にとってはという可能性はある)

車で三時間かけて到着すると「いらっしゃい!くつろいでね」と快く迎えられた。
けど実際にくつろげたかと言えば全く。
お盆なので、もちろん私達家族の他にも親戚らが訪ねている。
その中には初めて会う5歳くらいの坊ちゃんと一つ年上の少年もいた。
大人たちは「子供だし、すぐにお友達になれるだろう」とほっとらかしで、人見知りが激しかった当時の私には、強制お友達になろうイベントはかなりのストレスだった。
ただ坊ちゃんは何故か私にとても懐いた為、遊び相手となり面倒をみる事に。
坊ちゃんは私に遠慮しないが、私はその子が怪我をしないかと、心配して常に気を遣う。結局昼から夕方まで子守りをして、クタクタになった。一人っ子が年下の子の面倒を見るのはハードルが高すぎたのだ。
休憩したくて一人お庭に居た私へ、親戚のおばちゃんが声を掛けてきた。

「ユリエちゃん、ちょっと来てくれる?」
導かれた場所は六畳の部屋。
おばちゃんは襖の中から布団を出し、一枚引く。

「さ、ユリエちゃんもやって。」
言われるがまま、私も同じ事をする。

一緒に布団のシーツを被せながら、おばちゃんは
「女の子なんだから、寝るお布団の用意くらい自分でしないと、あかんでユリエちゃん、じゃないと結婚出来ひんようになるよ」
と言った。

私は「はぁ」と生返事をした。
結婚願望なんて持ちえてなかったからだ。

ちなみに敷いた布団は私と父の分だった。生返事をした私が気に食わなかったのかは分からないが、なぜか泊まりに来た親戚全員の分も手伝わされた。

「はい、終わり。これで一つ家事覚えられたね」
と言ってお礼にアイスクリームを貰った。

そして夕ごはん時、親戚8人分の食事のお膳運びを手伝う事に。
お椀におかずにビールに、と中々に大変だった。

ある程度運び終わったら、やっと席について食べる事が出来た。
一宿一飯のお礼だから、手伝う事には不満は無い。

ただ、「ぎっちょやと嫁に行かれへんのんとちゃう?右手に矯正し?」

やら

「お膳配るのももっと要領良くせなちょっとねぇ」

だとかの発言は子供ながらに納得いかなかった。

結婚を引き合いに出すなら、何故一つ年上の男の子は一切手伝わせないのだろう?家事を手伝うのは女の子も男の子も関係ないじゃ無いか。
少年はお殿様の様に座ったままだった。お前は征夷大将軍の生まれ変わりなのか?
もしや男の子ってお膳を配ることすら出来ない愚鈍なのか?とも思った。

大人の男性も、自分の食べる分を取りに来ることも出来ない程に身体が不自由なのか。

父子家庭で育った私は、そのへんの同年代の子らよりは、断然家事をしていた。
料理はさすがに無理だったけれど、洗濯・家の掃除、片付け、ゴミ出し、全てを大人と同じくらい自分でしていた。
教えてもらわなくたって、布団の引きかたもシーツの入れ替えも出来るのだ。

あまりにも親戚が私を揶揄するものだから、父がフォローする。私が家事をしていると知った今度は「もっとしっかりやらへんと」と被せてきた。
小6でママになれってか。

親戚らは良かれと思って言ってるのだろう。
父子家庭だからガサツでろくに家事もしない子だという先入観も、あったのかもしれない。

その日よばれたご飯は味がしなかった。

次の日は、何度か遊んだ事のある従姉妹のお姉さんと弟がやって来た。

親戚のおばちゃんは中学生のお姉さんにも私と同じように手伝わせた。
彼女はとても頭の良い人で要領も良かった。そのせいか親戚のおばちゃんにアレやこれやと手伝わせられる事に。
手伝いが終わって一緒に休憩していると、お姉さんがポツリ

「なんで女子ばっかり家事を手伝わなあかんねん」

私達がお手伝いをしているその間、大人の男性達はお酒を飲んでワイワイしていて、男の子は遊んでいた。
「私は絶対、家事手伝わへん人とは結婚せん。仕事だけしか出来ひんパートナーなんて嫌やもん。」
お姉さんもおばさんから例のお言葉を受けたのだろう。

「結婚してもバリバリ私は働きたい。なんで女の子が男の子より頭良かったらあかんの?バカみたい」
物凄く悔しげにぼやいていたのを鮮明に覚えている。


あれから大人になって理解出来たことがある。

昭和生まれの女子はおおよそ、子供の頃から家事を手伝わせられている。
自立した時に問題なく生活が出来るようにする為だろう。
けれど本質的な理由は、結婚後に家事の全てを担えるよう、幼少期から鍛える為なのではないかと考えている。
「家族の為に」と遣り甲斐没取をできるワンオペマシーンを育成しているのだ。

きっと田舎の親戚のおばあちゃんには、私たちが将来結婚するであろう男性が、家事のサポートをするなどと一ミリも頭に無かったのだろう。
だからこそ、男の子には家事を手伝わせなかった。
結果、昭和から平成初期生まれの男性の多くが、結婚した時点での家事手伝いスキルは低いし、家事スキルそのものが低い。
これはもう、親世代の影響を多分に受けているので、どうしようもない。

さてはて

たまに「結婚は墓場」と酒場で男性達が笑い話として話しているのを耳にする。
じゃあ女性版はなんだろう?
「結婚は奴隷」か「結婚は地獄」かな。

こうやって考えていると男女感の結婚が嫌なものになってくるので、ハッピーな映画でも見て、幸せな夫婦もいるのだと気持ちを新たにせねば。


子供の頃の愚痴を読んで頂きありがとうございます。









 

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