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年越しドイツベルリンからドレスデン 岩山の森ザクセンスイスへ1人旅 地獄の年明け

こんにちは、2024年そうそう、落ち葉と土にまみれた斜面にて泥まみれになってきました、ドイツベルリン在住アーティストYurikaの地球生活ピーポーです。

ドイツの年越しの瞬間はみんな路上や家のベランダから花火を上げまくり爆発音と火の粉が街が覆う、そんな刺激的な光景も一度経験すれば満足で、年越しはベルリンの街を離れ自然を体感すると決めている。
夏の誕生日も自然に行くと決めている。
クリスマスは街を走ると決めている。
ベルリンに来て変なルールが増えたなぁ、と思うものの自分がそうしたいからそうしているだけの話でルールでもなんでもない。


去年の年明けはベルリンから電車で1時間半ほどの距離にあるバルウニム自然公園の森を歩き回り、小さい街のコテージに泊まり作品制作をして過ごした。

今年はもう少し遠くに行きたい、
北のバルト海か、
南の黒い森か、
北東のブナの原生林グルムジンの森か、
東南の野生の狼が多く復活しているポーランドとの国境あたりか。。。

なかなか行きたい場所が決まらず、だらだらしていたらとうとう年末になってしまった、

直感で岩山が有名な国立公園に決めた。
2023年は多くの石や岩に感動した1年だったので、岩山に行こう。
そうしよう。


ベルリンから240km Sächsische Schweiz ザクセンスイス



ザクセンスイスまでの行き方、電車、街の宿、などを夜通しで押さえて荷造りをする。
服を用意して2日分のサンドイッチを作り岩山で絵を描くためにスケッチブックと画材を詰める。
気がついたら朝になっていた、30分仮眠したら出発しよう、
そうして3時間寝過ごし、31日の10時に家を出た。


鈍行の長距離列車、1度乗り換えをしてドレスデンの街へ向かった。
車内で食べたサンドイッチはよりにもよって酢漬けの魚を挟んだものを開けてしまい、ああ、車内に臭ってるかもなあ、と思いながら味わって食べた。
他にはサラミ、チーズ、野菜などのサンドイッチがまだ7つほどある。

ドレスデンの街に着いたのは14時ごろだった。

Dresden ドレスデンの街



今夜泊まるホステルがあるのは街の南側に位置するドレスデン中央駅の近く、そこをゴールとしてまずは北に位置するドレスデン ノイ・シュタット駅で降りてみよう、
偶然にも駅の中のスーパーが開いていたので立ち寄り水とバナナとチョコがけプレッツェルを買った。
ミルクチョコレートと塩味が効いているプレッツェルを齧りながら道を歩いてみた。
まだ栄えているエリアではないらしく、12月31日ということもありとても静かだった。
クリーム色の建物が連なり道の

途中道を走る路面電車、トラムと街並みを写真に収めようとカメラを構えたところ、前を歩いていたカップルが長いハグとキスをし始めた。

私がカメラマンだったら首から下げた一眼をすぐさま構えていい写真の1枚でも撮っているであろう情景だった。
カメラマンではない私はカップルの抱擁に興味はないのでカップルを追い抜いてスマホで街の写真を撮る。
街の真ん中を走る路面電車、道の両脇を同じ高さの建物が隙間なく並ぶ。
一階部分のコーヒー屋やレストランはどこもやっていなかった。


川沿いにでる、川に近付いてみると堤防を降りることができた、川と同じ目線の道を歩く、
なんだか鴨川みたいだ、
ドイツドレスデンの鴨川。


時刻は15時、夕日が暮れたころで、川の向こうの建物にぼんやりとオレンジに光る雲がかかっている。
一際美しい造形の橋を渡ってみた。

橋を渡って南側にたどり着くとこれまた大きな建物が視界を埋める、
レンガ作りの教会や城、表面が所々黒く煤けている、
焼かれた痕だ。

第二次世界大戦終戦間際にアメリカ、イギリス軍によって落とされた爆撃により焼かれた街と壊された建物。
落とす必要のなかった爆撃だと言われている。
日本のことを思い出す。

黒い煤の表面と相反して荘厳なでいて優雅な装飾を施された建物、綺麗だな、と思った。


地獄の年明けinホステル


周辺を歩いてさらに南へ向かいドレスデン中央駅に着いた、18時になっていたのでホステルに行きチェックインを済ませロビーでダラダラした。
部屋は六人部屋、私の場所は二段ベッドでなく窓際の平らなベッドだった、ラッキーだ。
シャワーを誰かが使っていて、待つのもめんどくさくなり浴びる気が失せたのでシャワーは浴びないことにした。
向かいの二段ベッドの下段に体の大きい中年の男が座っていた、ハロー、と言ったら元気のない笑顔でハローと返してきた。

ロビーのソファに深く腰掛けてサンドイッチを2個食べた、サラミとチーズ。
あとバナナも食べた。

夜8時、年越しに向け町中から花火の爆発音が増え始める、ベルリン同様ドレスデンでもみな花火をするのか、道やベランダから脅威の花火を放って楽しむ、救急車や消防車が忙しく走り回っている。


明日は5時に電車に乗って森に向かい岩山の上で日の出を見たい、もう眠いし早く寝ようと部屋の戻りベッドに入った。

他の人たちは街に繰り出しているようで先ほどの巨漢と私だけ、
外の花火の爆発音はうるさいが寝れないこともない、意識を手放すところで向かいのベッドから地獄の地響きがなり始める。

想像を絶するほどのいびき、

いびき男を廊下に出すわけにもいかない、
叩き起こして注意して治るものでもない、
むしろ明らかに酸素不足で死にかけているのはこの男本人なのだ。
男の喉から放たれるいびきと新年を祝う花火の爆発音で結局3時頃に意識を失うまで眠れなかった。


ベッドの中で耳を押さえてうずくまっている間、目を瞑っていびきのことを考えていた。

いびきとは不思議なもので、寝ている本人に悪気がなくとも発生する現象である、

鼻とのどから繰り出される震えの音も、定期的なリズムを刻んでいれば波の満ち引きのように心地よくなり眠れるかもしれない。
しかしそうはいかないもので短い感覚で不定期に息を詰まらせ、いびきが止まったと同時に虫の鳴き声のようなか細い声で苦しそうに喘いだかと思うとせきを切ったような爆発音とともに息を吹き返す、
そしてまたいびきがなる。


2023年は音について考える機会が多い年だったとはいえ、こんなにもいびきに思いを馳せたのは生まれて初めてだった。
サウンドアート、ノイズ音、そういうパフォーマンスに触れる機会が増え、演奏を聴きにいくだけでなく私自身も人前でパフォーマンスをした、
ハンマーで植物と布を激しく叩く音もアートとして作品にした。

しかし今の私はどうだ、男のいびき一つを楽しむこともできずにこんなにも神経を削られている。

気分を変えて岩のことを考えてみたが結局なかなか眠ることはできなかった。


日付を超えたあたりから少しずつ相部屋の人たちが戻ってきたが、あまりのうるささに怒りを露わにしているのを被った布団の向こうに感じた。

ホステルに
泊まるときには
耳栓を。

それだけを強く心に刻んだ。


早朝のSächsische Schweizザクセンスイスの森

朝4時半、自然と目が覚めた。
上着を着込んでホステルを後にする。
まだ暗い街は年越しの騒音が嘘のように静かだった、月が光っている。

ドレスデン中央駅からS1の電車でクロートラーテン駅で降り、フェリーで川を渡りザクセンスイスの森に入る予定だ。

温かい車内に座ったら一瞬で寝落ちしてしまい寝過ごして何もない暗闇の駅で降りた、乗り換えた電車でも一瞬で気を失って乗り過ごした。
今の私にとっては、ホステルのベッドよりも電車の方が最高の寝心地だということだった、
静かって、すごくいいな。

元旦の朝、森へ向かう電車、他に乗客はおらず自分専用動くベッドだと思うとこのままどこかへ行ってしまってもいい、
そう思いながらも頑張ってクロートラーテン駅に着いた。

街灯がオレンジに光るフェリー乗り場は人の気配がなく、予定時刻を過ぎても船はこない、空が白んでいくのを見ながらもう一度暖かい電車で寝たい、と途方に暮れているところに
向こう岸で小さいフェリーの運転席に人が入って行くのが見えた、
船は音を立てながら川を腹這いにしてこちらに向かってきた。

よかった、チケットを見せて船に乗る、おじさんに何時から働いてるの?と聞くと5時半からだ、と言っていた。
こんな誰もいない暗い川を、一人で行ったり来たりしているのか。
恐れ入る。

空が白んで暗闇の中に隠れていた森や街の輪郭が現れてきた。
早速そびえ立つ岩山が思ったよりもすぐそこに大きく見える、
ドイツではなかなかみない光景、岩。
ああ、あそこに行くんだ、眠気も朝靄と共に消え頭がすっきりしてきた。


奇岩が待つ森に入る


ハイキングコースに入るために元々チェックしていた入口を探すもなかなか見つけられない。
何度か行き過ぎては戻りながらGoogle マップと照らし合わせると、確かに道らしきものが看板の横から斜面に沿って続いているのが見える。

斜面に対して斜めに延びる微かな道幅に沿って登ってみる。

倒れた木々、
落ち葉と土で埋もれた道、
なんとか階段であったであろう石を見つけ、落ち葉をかき分けながら手足をついて歩いた。

ずり落ちそうになり掴んだ木の根はすっぽりと抜け、違う幹を慌てて掴んだ。

一人、静かな森で下方に転がった木の枝のカサカサという音が響く。

あまりの道の険しさに一旦動きを止めて辺りを見渡す、人の気配がないのは道を間違っているからか、朝早だからか、分からなかった。

背中に熱が篭り上着を脱いでバックパックに詰めた。
あまり汗をかくと後で冷えてしまう、と思いながら全身の筋肉が熱を帯びていく、息は上がり心臓とふくらはぎが脈を打っている。


道に入り20分ほど、相変わらずの傾斜はひどくこのまま尻をついたら下の川まで滑っていけそうだ。
川の方を振り返って見下ろすと向こう岸に沿って延びる線路の上を電車が走っていくのが見える。ついさっきまであの電車の車内で暖かく寝ていた体が、今は地面にしがみ付いて目一杯酸素を取り込んでいる。
知らない土地で、知らない街で、知らない森で、私は一体何をやっているんだろう。

少なくとも大晦日にサイゼリアのドリンクバーでジュースを混ぜて過ごしていた16年前の自分は微塵も今日の日を予想しなかっただろう。

人生とはよく分からないものだ。


安全をとって一度引き返そうかとも思ったが、前方の方に見える大きいくぼみを登り切ったら大きい道と合流しそうだった。

腰に巻いたジャケットの袖をキツく縛り直して進むことにした。
両手で慎重に地面を掴みながら、膝とつま先を順に土に食い込ませて体重を乗せて這い上がってみた。

周辺にあまり木がなく、掴めるのは心もとない雑草のみ、土の上全体を覆う乾いた落ち葉はサラサラと表面を流れていく、どれだけ土の奥に手を入れても粘土のない土は形を崩して下に流れていく。

最後は勢いをつけて斜面を登り切りやっと平らな道に出た。

驚くことに平らに整備された道は明らかに正規のハイキングコースで、どうやら私が登っていた道は道とも言えないただの斜面だった、
地面に階段らしきものがあったことから、おそらく遠い昔に使われていた旧道なのだろう。
事前にパパッと調べたからか古い情報だったのかもしれない、

をしなくてよかった。


道の先に大きい岩がある、その手前で階段と手擦りがある。
階段と手すり、なんとありがたき文明の力なんだろう
「文明すごい!」
と荒い呼吸と共に叫んだ。

全速力で走った後のような心音。
最後の斜面でさらに汗をかいていたのでどうでも良くなってタンクトップになった、
膝は土でドロドロだった。

岩に続く道を歩くとちらほら人がいることに気がついた、
遭遇した老夫婦は私をみて少し驚いていた、
おそらく正規の道を歩けば土に塗れることも、ここまで息を上げることもない。


Bastei バスタイの奇岩 展望


8時半、空は完全に明るかった、日の出は9時の予定だが雲が厚い。ドイツの冬に晴れなど期待は端からしていない、雨でないだけありがたい。

ここからはいくつか絶景ポイントの岩が続く、気がつけばだいぶ高いところに自分が立っていることに気がついた。
眼下にエルベ川が流れる。

天空にかかる橋、バスタイ橋を渡りバスタイの岩に立ってみる。
見渡す限りの針葉樹と、古くにエルベ川に削られた剥き出しの岩肌を眺める。雲はもこもこと何かを隠しているようだった。
なんだか中国にいるような気分にさせられる、そんな奇岩の森。

日の出は雲の向こう、幾層の雲にオレンジの光を溶けさせて微かに陽を届けていた。

上着やトレーナー全てを着込んで、しばらくスケッチブックに絵をかいた、新年の森と龍。


この周辺はかつて城があったがその城を落とされてからは跡形もない。
向こうにペンションやレストランが見える、あのあたりに大きい城があったんだろうか。
レストランにはいって温まろうと思ったが、まだサンドイッチもバナナもある、ハイキングコースを進むことにした。


奇岩が立ち並ぶコースを抜けて森に入る、木の看板を目当てに進み次の目的
Schwedenlöcher シュヴェーデンレッハーに向かう。


Schwedenlöcher シュヴェーデンレッハー 岩の隙間をひた歩く

まさかここが入り口?というくらい狭い岩と岩の隙間に急な階段が伸びていた。
そびえたつ岩の表面には薄い苔のような植物が覆っていてみずみずしい緑色をしていた。
湧水なのかチョロチョロと流れる水は斜面を降るとともに小さい川になっていく。
こんなにも岩に触れることはなかなかない、ここぞとばかりに岩に触れた。

岩、何歳なんだろう。

何組かの家族とすれ違った、皆反対側からのルートで階段を登ってきていてこの険しい階段をよく登るなあ、と思ったが子供は楽しそうだった。

岩の間に延びる道は2.2kmほどで小さい川沿いに出た、この川沿いに歩けば元来たフェリー乗り場に帰れる。
小さい水の流れはやがて他の流れと合流して大きい川になった。

家族、老夫婦、一人の女性など多くの人間がこの森を楽しんでいた。


今朝の急斜面での心寂しさはどこへやら、賑やかな森の顔を見せていた。


入り口のやり直し



フェリー乗り場に戻ってくる手前に正規のハイキングコースの入り口があった、本来ならここから道が始まっていたのか。
どうやら完全にフェリーを降りてからの道を間違えて進んでいたらしい。
入り口からは険しい階段が続いていたが斜面を這いつくばる必要はなさそうだ、階段ってすごい発明だよなあ。

なんとなく悔しさが残っていたので、今朝登ることのできなかった正規の入り口から入って少し登ってみた。
入り口が必ずとも最初とは限らない、今日みたいに入り口が最後にくることだってあるんだ。


階段の途中で休んでいる人をぐんぐんと追い抜き階段を登りきって途中の別れ道からフェリー乗り場に戻った。
今朝見ることのなかった村の雰囲気が思ったよりも賑やかで驚いた、ログハウスと色とりどりの装飾、夏は人で賑わっているであろうことが想像できる。

ポケットに手を突っ込み、今朝使用した行き帰りの紙のチケットをおじさんに見せて船に乗った、あの真っ暗な中現れたフェリーのおじさんとは違うおじさんだった。


電車を待っている間川の向こうのザクセンスイスの森を眺める、今朝は夜に隠れていた大きな奇岩がどっしりとそこにいるのが見える。


あっという間の帰り道



ドレスデンの街に戻り、帰りの電車のいくつかがストライキを起こしていることを知り、街でゆっくりせずにそのままベルリンに帰った。
乗り換えは1度で済んだ。

帰りの電車ではこの旅の感覚を文字で書き起こし、音声を録音して残した。
年が明けて初めて帰ってきたベルリンは雨が降っていた、友人と合流してホットチョコレートを飲んで龍の話をした。

音声での記録はこちら


今回得たものがいずれどういう形で消化され表現に生きるか、とても楽しみだ。


ここまで読んでいただきありがとうございました、
ことよろです。