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死にたくなければ最高の料理を作れ!『シナモンとガンパウダー』登場人物紹介&感想


装画を担当しました。
『シナモンとガンパウダー』
イーライ・ブラウン/三角和代 訳
東京創元社
装幀:中村聡

この登場人物相関図は個人の趣味で作成したものです。
オフィシャルなものではありません。

時は19世紀。イギリス貴族のもとで料理人をしていたウェッジウッドはある日海賊の一段に襲撃され、雇い主は殺害され、ウェッジウッドも捕虜となる。そして連れてこられた海賊船で女船長ハンナ・マボットに「週に一度、私のために最高の料理を作れ」と命じられる。海賊船にはろくな調理道具も材料もなく頭をかかえるウェッジウッドだが、工夫をこらしてマボットのために料理を作り始める。「面白さ無類、唯一無二の海賊冒険×お料理小説!」
と書くと、ワクワク海賊冒険物語の始まりのようだが、帝国主義、東インド会社、インド大反乱そしてアヘン戦争へ…と波乱の時代。序盤逃げたい逃げたいと愚痴をこぼしつづけるウェッジウッドが海賊王に俺はなるとか言い出すのかしらんなどとウキウキ読んでいると、物語が違った面を見せ始め、様々な背景を持った乗組員たちとその思惑を乗せ、なぜかアボットがその後を追う赤髪の若き海賊王、こじらせまくりの天才発明家率いる敵船も加わり、ぐんぐんと思わぬ方へ進んでいく。
大河ドラマを見終わったような読書感。とにかく情報量が多く、飽きることなく読めます!乗組員の中に日本人のキズ氏がいて日本の調味料を持ち込んだりするのも、日本人としては楽しいところ。
翻訳の三角和代さんのあとがきをぜひ参考にされてください。
あとがきによると、著者のイーライ・ブラウンは、この本を書くにあたって『料理の鉄人』がひとつのヒントになったとか。アレ・キュイジーヌ!

リンクより下はネタバレありになりますので、これから読まれる方はお気をつけください。

以下ネタバレあり。


『シナモンとガンパウダー』は広義のミステリとして分類されており、「海賊冒険×お料理小説」と帯には銘打たれているが、ロマンス系の側面についてはわりと伏せられている。むしろここがミステリと言ってもいいくらい。

物語後半、なんとまさかのアボット&ウェッジウッドのカップルが誕生。なんとなく2人ともまあまあ落ち着いた年齢、しかもウェッジウッドはお腹が出たおじさんシェフのイメージだったので、えー?そういうのなの?そういう対象だったんだ?などと思ったが、いやそういう思い込みはよくないな。何歳でも、そしてお腹が出ていても恋に落ちることはある。と、ここで改めて考えると12歳のジョシュアに対して息子が生きていればこれくらい、と涙するウェッジウッドは30代なかば?マボットとて息子は10代なのだから30代後半あたりか?と思えば年齢的な違和感はない。
ただマボットからすると手下の1人って感じだと思っていたので、結構びっくりした。マボットも人生いろいろありすぎて「心優しく温かい男性こそが真に男らしい頼りにたる男性なのだということに気づくときたいていの女はもうすでに年老いてしまっている。よかった…すぐそばにいてわたしを支えてくれる優しいまなざしに気づくのが遅すぎなくて…(byオスカル)」みたいな心境になったのか。
だってだって読者からするとウェッジウッドって「ちょっとめんどくさい料理オタク」というイメージなので!前半の愚痴っぽさ、そしてしつこく脱走しようとするの、長いよ!いいかげん腹をくくれ!と全読者(というか私)が思ったよね。

できれば外伝にて、マボットとラムジー卿の物語が読みたい。この2人の関係はすごく興味ある。原著が刊行されたのが2013年ということでいまさら外伝が出るとも思われないが、もう二次創作でも良いから誰か!みたいな気持ちです。

あとは中華双子の1人フォンが実は女性だった、という話。乗員のひとりのアッシャーと実は恋仲で、フォンのお腹には赤ちゃんもいる。アッシャーはウェッジウッド の脱走に巻き込まれたというだけで特に印象のない人物なのだが、初登場の際に「容姿端麗」と表現されており、フォン、イケメンが好きだったんだね…と、凄腕用心棒の乙女な部分を垣間見てほほえましくなる。若い人が家の復讐に捉われるのがつらいので、子供もできたことだし違う人生を模索してほしかったなあああ。かなし。

等々、ひとりひとりのストーリーに思いをはせてしまってキリがないのだが、ラストは老ウェッジウッドのマボットへの思慕で終わりきゅんとする。
非常に映像的なシーンが多いのでぜひ実写化してほしい!


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