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食いしん坊の旅路

初めてのひとり旅、陽も傾きかける頃。
鴨川から色づく空を眺めながら、1つの重要ミッションと向き合っていた。

 勇気がいるが、覚悟は出来ているか?
 臆することはない、さぁ行こうじゃないか
 この壮挙を成し遂げるのだ…

どんなミッションなのか、何を躊躇っていたのかというと。
旅に出る前に、自分と約束していたのだ。

「旅先でふらりと美味しそうな店に立ち寄り、カウンターで舌鼓を打つ。
そんな憧れの"ひとり居酒屋"デビューをこの地でキメてみせるのだ…!」と。

ひとり映画、ひとりショッピング、ひとりランチ。
これらに全く抵抗のないタイプでも、夜の居酒屋でしかも初めて訪れる店…となると敷居が高いと感じられる人は多いのではないだろうか?

完全にアウェイの、初めての店。
気軽な立ち飲み屋でもなく、食べることが主体の居酒屋。
しかも、夜の京都。

それは、決して心理的に低いハードルではない。

しかし、ひとり旅でも美味しい物が食べたいとなれば…
このハードルは何としてでも乗り越えなければならないものだ。
食いしん坊を貫く為には、実行するより他に、道はない。

少しでもハードルを下げる為に、事前に店にカウンターはあるか。
おひとり様が許されそうな雰囲気の店か。
ぬかりなくチェックはしていたが、それでもやはり初めてというのは緊張するものだ。そんな内心を押し隠し、微笑みで平常心を演出して入店する。

事前に調べていたように、人気の店のようで。
まだ17時過ぎだというのに、入店の列が出来ており店内は客でいっぱいだ。カップルやグループ客ばかりではあるけれど、それは想定内。
全てを背にしたカウンターに座ってしまえば、もう怖い物などない…。

しかし…そんな緊張感に満ちた心持ちでいられたのも、料理が出てくるまでのごく僅かな間のことだった。

評判通りに美味しい薬味たっぷりのシメサバ、季節のおすすめとろりとしたナス田楽、そしてねっとりとした舌触りにこっくりと甘味のあるゴマ豆腐…頭の中を「要、日本酒!!」の文字が躍る。

ひとくち食べては味わいを噛みしめ、ひとくち飲んでは幸せが広がり…
「美味しいの前には、人数など無意味…!」と悟ったような言葉が、脳内を燦然と過ぎる。

もはや事前の葛藤などさらりと消え去り…
壮挙を成し遂げた達成感よりも、目の前のものを味わうことで頭はいっぱいになっていた。

そうすると、もう後に残るはただの食いしん坊な酒飲みばかりで…
そのようにして、初めての京都での夜はゆっくりと更けていったのだった。


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こちらも400文字という制限を大幅にオーバーしていた、 #旅する日本語 投稿作品。キーワード #壮挙 でした。「時には旅先のように」と同様、過去に制作したzineからのリライトになります。

映画に買い物に、わりと一人行動は平気な性質だと思うんですが。
元の性格が小心者なせいか…雰囲気のわからない初めての店に一人で飛び込むって、やっぱりドキドキするんですよね。

ランチとかラーメンだったら、全然平気なんだけど…夜の居酒屋って、複数人の利用が前提みたいなお店も多いし。カウンターなかったら、ちょっと浮くかなぁ…とか色々考えちゃって。

なので、この時もお店に入るまではけっこう緊張してて。

でも本文にも書いたように、美味しい物の前では全てが無意味…!
そこに夢中になってしまえば、周りなんて関係なかった!!

一人を後悔したのは「連れがいたら、もっとあれこれ食べられたのに!」ってことくらいでしょうか?あれもこれも食べたい、しかし胃袋には限界が…!となると。メニューを見る目が、めっちゃ真剣になりますよね。

わりと食いしん坊だという、自覚はあります。


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