歩く
朝起きたら顔を洗って、日焼けどめを塗って、歩く準備をする。
いちに、いちに、となんとなく屈伸をして、なんとなく膝をぐるぐる回して、(ご存知の方は、ぐるぐるぐるぐるグルコサミン♪のCMを思い出してほしい)ドアを開ける。
右ポッケにはお守り袋、左手にはスマートフォンを持って。
「行ってくる」
家族にこの一言だけ唐突に伝えても、最近はわかってくれるようになった。
外に出ると、輝く朝日がパアーッと目に入る。
このドアを開ける瞬間が結構好きだったりする。
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いちに、いちに。
最初はなんだか、必死に歩いていた。
たまたま家にあったウォーキングの本に、三分走ったら三分歩いて…とか書いてあったので、スマートフォンで時間を確認しながら歩いていた。
あとは「腕を振って歩かなきゃ」とか、「足は大股で」とか、ガチガチに意識して歩いていた。
多分「こうしたら間違いない、大丈夫」みたいなものが欲しかった。
それに沿って、歩きたかった。
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いちに、いちに。
家の周りを大体2周したら、15分ぐらい経つ。
その15分の間で、たくさんのものが見える。
花壇の手入れをしているお爺さん。
下を向いて歩くサラリーマン。
犬のお散歩をしている女の人。
すみれ色のランドセルを背負った小学生。
今一番気になるのは、全身黒色の格好で決めた、小柄な男の人。
年齢は50代ぐらいかなあ。
いつもすれ違うのだけど、どこに行くのだろう。
皆それぞれだけど、それぞれ何か抱えているのだろうな、と思う。
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いちに、いちに。
真夏の暑い日だった。
「もうすぐ出発するぞー」というバスをめがけて、子どもの手をひいて猛ダッシュしているお母さんがいた。
あれ、あのお母さん、見たことあるな…
子どもをバスに乗せるタイミングを見計って、ちょっと勇気を出して、声をかけてみた。
やっぱり、昔働いていた職場で、お世話になった人だった。
明るくて、まっすぐで、昔と全然変わっていなかった。
ご近所さんということで、「またお茶でもしましょ」とLINE の交換をしたけれども、うまくできていなくて、それ以来まだ会えていない。
またご縁があれば、会えるよね、と思う。
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いちに、いちに。
腕を大きく振って、大股で歩く。
音楽も聞かず、ただ、のしのしと歩く。
夏は必須だったアームカバーと帽子が、もうすっかり、今は長袖とカーディガンに変わった。ジャージは少し分厚めのものを履かないと、寒い。
今日も市バスがブォーっと音を立てて、わたしの横を通る。
時々コースを変えて歩いてみるけれど、それはそれで、面白い。
ちょっとお気に入りの道も見つけた。
通っていた中学校のグラウンドの裏側で、朝の光と樹々のコントラストが綺麗なのだ。
けれど毎日通ると面白くないので、あまり通らないようにしている。
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いちに、いちに。
「ただいま」
ドアを開けて、家に入る。
父は新聞を読み、母は朝食の準備をしていて、それぞれ自分のやることをやっている。
今日も青空の下、ウォーキングができた。
そのあと食べる朝食は、いつもよりちょっと美味しくなる。
(ゆで卵は必ず食べる)
それから、会社に行く準備をする。
右ポッケのお守り袋を、鞄に入れて。
ルーティーンって最初はそんなことないけれど、いつのまにか、だんだん自分だけのお守りみたいになっていくのかなあ、と、ふと思った。
ありがとうございます。文章書きつづけます。