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歩く 

朝起きたら顔を洗って、日焼けどめを塗って、歩く準備をする。


いちに、いちに、となんとなく屈伸をして、なんとなく膝をぐるぐる回して、(ご存知の方は、ぐるぐるぐるぐるグルコサミン♪のCMを思い出してほしい)ドアを開ける。
右ポッケにはお守り袋、左手にはスマートフォンを持って。

「行ってくる」

家族にこの一言だけ唐突に伝えても、最近はわかってくれるようになった。

外に出ると、輝く朝日がパアーッと目に入る。
このドアを開ける瞬間が結構好きだったりする。

⭐︎

いちに、いちに。

最初はなんだか、必死に歩いていた。

たまたま家にあったウォーキングの本に、三分走ったら三分歩いて…とか書いてあったので、スマートフォンで時間を確認しながら歩いていた。

あとは「腕を振って歩かなきゃ」とか、「足は大股で」とか、ガチガチに意識して歩いていた。

多分「こうしたら間違いない、大丈夫」みたいなものが欲しかった。

それに沿って、歩きたかった。

⭐︎

いちに、いちに。

家の周りを大体2周したら、15分ぐらい経つ。
その15分の間で、たくさんのものが見える。


花壇の手入れをしているお爺さん。
下を向いて歩くサラリーマン。
犬のお散歩をしている女の人。
すみれ色のランドセルを背負った小学生。

今一番気になるのは、全身黒色の格好で決めた、小柄な男の人。
年齢は50代ぐらいかなあ。
いつもすれ違うのだけど、どこに行くのだろう。

皆それぞれだけど、それぞれ何か抱えているのだろうな、と思う。

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いちに、いちに。

真夏の暑い日だった。

「もうすぐ出発するぞー」というバスをめがけて、子どもの手をひいて猛ダッシュしているお母さんがいた。

あれ、あのお母さん、見たことあるな…

子どもをバスに乗せるタイミングを見計って、ちょっと勇気を出して、声をかけてみた。

やっぱり、昔働いていた職場で、お世話になった人だった。
明るくて、まっすぐで、昔と全然変わっていなかった。

ご近所さんということで、「またお茶でもしましょ」とLINE の交換をしたけれども、うまくできていなくて、それ以来まだ会えていない。

またご縁があれば、会えるよね、と思う。

⭐︎

いちに、いちに。

腕を大きく振って、大股で歩く。
音楽も聞かず、ただ、のしのしと歩く。
夏は必須だったアームカバーと帽子が、もうすっかり、今は長袖とカーディガンに変わった。ジャージは少し分厚めのものを履かないと、寒い。

今日も市バスがブォーっと音を立てて、わたしの横を通る。

時々コースを変えて歩いてみるけれど、それはそれで、面白い。
ちょっとお気に入りの道も見つけた。
通っていた中学校のグラウンドの裏側で、朝の光と樹々のコントラストが綺麗なのだ。
けれど毎日通ると面白くないので、あまり通らないようにしている。

⭐︎

いちに、いちに。

「ただいま」

ドアを開けて、家に入る。

父は新聞を読み、母は朝食の準備をしていて、それぞれ自分のやることをやっている。

今日も青空の下、ウォーキングができた。
そのあと食べる朝食は、いつもよりちょっと美味しくなる。
(ゆで卵は必ず食べる)

それから、会社に行く準備をする。
右ポッケのお守り袋を、鞄に入れて。


ルーティーンって最初はそんなことないけれど、いつのまにか、だんだん自分だけのお守りみたいになっていくのかなあ、と、ふと思った。



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