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【短編小説】サンタクロースから一生分のプレゼント

 華やかな結婚式をしたのはまだ記憶には残っているけど、一年くらい前の事になる。妻となってくれた亜紀とは一緒に住み始めてから衝突することが多くなった。

 付き合っている時はそんなことはなかつたのに。同棲してみた方がいいとは友達にも言われたりしたけど、自分達は大丈夫だと勝手に思っていたんだ。
 
 二人とも仕事が忙しくて帰ってくる時間も早かったり遅かったりであまり一緒になることがなかった。一緒になった時は食卓を一緒にすることもあったが、大抵が出来合いのものを買ってきていた。特に健康に気を使うこともせず、別に食べれればいいかなと思っていた。
 
 それなのに、今日は家に帰ると亜紀がご飯を作っていた。なんで急に作り出したんだろうと疑問に思ったが、それを口にするのは野暮だろう。あれ。今日なんの日だったっけ。

「お帰り」
「うん。ただいまぁ」

 料理はチキンにポテトフライなどパーティのようだ。時計を確認すると25日であった。今月は師走の12月。すっかり忙しさで忘れていた。だから作っていたのか。なんか亜紀の席にはサラダやら酢の物が多い。

「食べよっか」
「あれ? 亜紀は肉食べないの?」
「うん。ちょっと匂いが……」

 なんで肉の匂いがダメなんだ。今までそんなこと言ったことなかったのに。急にどうしたんだろう。サラダはパクパクと食べている。そして、酢の物を口に入れると目を瞑り「んー!」と美味しそうな声を上げている。

 一体何が起こっているんだろう。俺もチキンを頬張る。「美味いよ」と亜紀にいうとはにかんだように笑った。

「それ買ってきたやつだもん。そりゃ美味しいよ」

 そうなのか。そりゃ美味しいわけだ。香ばしくて甘めのタレが口の中に広がって肉を包み込みパーティが口の中で開かれているようだ。

 巷ではサンタクロースが来る日だったりするんだろうけど、俺たちはもういい大人だ。サンタクロースなんて来ないだろう。皆が諦めているところ。

「ねぇ、これ見て?」

 亜紀が出したのは黒い中に米粒のような白い何かが写っている写真だった。これは一体なんの写真なんだ。首を捻りながら眺めていると亜紀は嬉しそうに笑った。

「赤ちゃんだよ?」

 俺の頭は真っ白になり、不意に込み上げてくる熱いものは俺の視界を歪ませてとめどなく流れてきた。サンタクロースは俺たちにプレゼントをくれたんだ。

 子供という自分の一生をかけて愛を注ぐことのできるプレゼントを。

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