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今世は引き分け

充実した10月。
ラグタイムの次に観たのは、スリルミーです。
初めて観るのでネタバレにならない程度にちょっとだけ他の方の感想などを読み、ビビりなんでチケットを取るかどうか迷ったんですが、恐々、申し込んだら最前列がきて、本気で狼狽しました。
すごいありがたいけど、大丈夫か…私…??

一気に駆け抜けたような100分間。
私が観た回は、
私:尾上松也さん
彼:廣瀬友祐さん
です。
お2人と、ピアノ伴奏者さんだけの舞台。
背景で鳴ってるピアノがすごく、この舞台のシンプルさを引き立ててくださいます。
内容は大変じくじくしてますが、ピアノのおかげか上品、上質空間。

*以下、ネタバレを避けたい方はそっと画面を閉じてください。


ホラーやグロテスクが苦手な私ですが、恐々でもチケット抽選を申し込んだのは、栗山民也さん演出、というのもありました。
私自身、こうして自分の感じた印象だけをわちゃわちゃ呟いてるだけの、とてつもなくズブの素人なので、詳しいことは何ひとつ言えないのですが、過去、栗山さん演出の他の舞台も何度か拝見していて、ここのこの感じ好きだなぁと思うと演出にお名前があったりしました。
ほぼ同じ舞台セットの中で、さまざまな背景が見えてくるようなスリルミー。
階段上のドアが個人的にすごく好みで、良い仕事するなとかよくわからないことを感じていました。
静寂の中、ジーっと、照明の音や舞台の板がスライドする音さえも、この物語にあっていてすごい良い、とか。

今回、全席指定(ブロック分けなし)だったので、申し込んだ時点ではそんな前の席が手元にやってくるなどとは微塵も思い描いておらず、端の方とはいえ、座席が判明したときは目がくるくるしました。
役者さんお2人とも背が高い方々なので、近くだとよりずっと見上げてる感じで、物語の内容もあいまって、終演後は首肩がガチガチでした、贅沢な痛み笑
尾上さんの歌声を一度、生でお聞きしてみたいというのもあったし、廣瀬さんは以前、石井一孝さんのビルボードライブのゲストさんだったし、日程も合ったのでお2人の組合せを選びました。
あと、事前に見かけたインタビューで、唯一の昭和世代ペアと笑い(苦笑い?笑)ながらお話されてて、ついつい親近感が笑

スリルミーは、「私」の回想という設定でお話が紡がれます。
尾上さんの私、湿度が高い。
じっっとり。
尾上さんは、現在(50代くらい?)と、過去を行ったり来たりされますが、照明の切り替えにあうように、ゆっくり目を覚ますように、すーっと移っていくのも良くて。
最初から最後まで、彼しか見てないのが、まっっったくブレない、一貫してる。
右手はものすごく飛んだりはねたりなのに、左手は聞こえないくらい低い音の鍵盤を押さえつづけてる、みたいな。

廣瀬さん、脳裏に、石井さんのビルボードライブのときの、ものすごく真面目な、穏やかそうな印象があったので、彼役、けっこう大変なんでは…??と思いながら観ておりました。
ただ逆にいえば、廣瀬さんのお持ちのその雰囲気が、大変クズい「彼」がまわりを欺くに余りある外面と思えば、そらみんな騙されるわな、これは、特に、子どもを攫うときの優しい声とか。
彼が嬉々として語る殺人計画を聞いてるだけでドン引きする私でしたが…ムリ…

お2人とも、歌声がしっかり安心感があり、そら内容はちょっと怖いけど、惹き込まれました。
他のペアの方々で観ていないので、違うかもなんですが、このお2人のペアは現実感がある、リアルというか、そんな感じがしました。
本当にあった事件を下地にひいているということを、こちらが認識し続けられる。
だから、怖い、というか。
ラストの件は途中で予測がついたけど、そこで私と彼をどんな風に演じるか、確かにいろんなペアで観てみたい、と思いました。
万能感に酔いながら積み木を完璧に、華麗に積み上げてく彼と、彼が散らかしていく服を黙って回収するような静さでそれを解体していく私。
ただ、結局、彼は私の思惑通りにはならないので、応酬は延々にあの世でも来世でも、続きそうな気すらするラストの、彼の呼びかけでした。


ポスターの背景の鬼灯。
鬼灯、好きなんですよね。
花言葉は、自然美、心の平安、偽り、ごまかし、私を誘って、私を誘惑して、だそうで。
どれも、スリルミーの物語に似合ってる。
また、ラストのシーンを思いながら、「私のもとに迷わず帰ってきて」って意味もあるのだろうか。

ちなみに食用鬼灯、おいしいんですよねぇ。
食べたくなるなぁ。

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