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Jリーグ 観戦記|天秤の揺動|2021年J1第12節 川崎F vs 名古屋

 透き通るような青ではない。しかし、世界は分厚い陽光で満ちている。ごみ収集車が川崎市歌『好きです かわさき 愛の街』を奏でる。その甲高い音色が、周囲に舞う光の粒子を照らす。そして、等々力へと向かう足取りを軽やかにする。

 連なる首位攻防戦は二戦目を迎えた。始まる前から、この試合が帯びる高い熱量を感じていた。辺りには人々の期待が飛散している。しかし、スタジアムには静けさが漂い、入場者数も制限された。サッカーは開かれたものであるべきだ。しかし、世は非常の時を迎えている。熱気と静けさ。そこに僕たちが直面している、歪みが透けて見える。

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 強い日差しが照りつける。ほのかな痛みを肌に感じながら、試合に見入った。ピッチは険しく、雄大な渓谷のようだ。険しい岩々と化した選手たちが中盤に屹立し、行く手を阻む。その場所で視線と体勢を前へと向ける川崎の選手たち。そして、岩肌を削って道を開ける家長。そのポジションチェンジは神出鬼没であり、静かに流れる小川のように滑らかだ。

 名古屋も負けてはいない。山﨑が前線から中盤へと身を移す。時間と空間のない場所。そこで身体を張る。その動きは緩衝材となり、ボールはサイドへと流れ着く。等々力の空に舞うクロスは簡潔なる攻撃を体現する。そして、中盤に敷いた緊密なブロック。それは川崎が繰り出す縦パスとともに、ボールへと押し寄せる。

 どの試合にもあるように、この試合には流れがあった。天秤は両チームの間で揺れ続ける。ジェジエウの跳躍は雄々しく、三笘と山根の間で結ばれた点と線は一切の無駄を排除するかのように華麗だった。二つのゴール。それは諦観も帯びる名古屋のオウンゴールへと帰結する。点差は三点。

 しかし、名古屋は勢いを取り戻す。齋藤、ガブリエル・シャビエル、柿谷が入る。齋藤のドリブルは象徴的だ。それは川崎陣内を駆け抜け、相手の意識と視線を引き寄せる。その動きは右サイドに空白地帯を生む。整備された川崎の守備に混乱が生じる。「引きつけて、離す」。そんな言葉を連想した。森下のオーバーラップと稲垣のゴール。マテウスのフリーキック。静寂が等々力に漂う。名古屋の反撃はサッカーの定石とも呼べる、その言葉に集約される気がした。

 川崎にとって、終盤は苦味を伴う時間だった。繰り出される縦パス。周囲の選手たちの動き。その重なりこそが、川崎の攻撃に厚みをもたらす原動力だ。しかし、後半はその動きに影が差した。

 雲が川崎を覆う。雲間から光を注いだのは田中碧だ。ジェジエウの先制点を生んだコーナーキック。攻守の切り替えは誰よりも早い。その存在感はチームにおいて群を抜く。躍動感のある動きは攻守が一体となった川崎を象徴する。

 そして、冷静な視点は劣勢を跳ね返す。終盤に放たれた、名古屋の守備陣を二分するサイドチェンジ。勝利を手繰り寄せるボールキープ。ゴールもなければ、セーブもない。しかし、田中の一挙手一投足は圧倒的だった。

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川崎F 3-2 名古屋

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