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Jリーグ 観戦記|間の妙|2020年J1第34節 柏 vs 川崎F

 水色が空からこぼれる。柏の地は僕にロンドンのセブン・シスターズ駅周辺を連想させた。ホワイト・ハート・レーンへと歩いた五年前。人々が発するざわめき。ビルの谷間にこびりついた煤。それらを全身で浴びながら、三協フロンテア柏スタジアムへと雑踏を踏んだ。

 スプレーを吹きかけたような白い雲が青空に映える。上空一面に行き渡る水色の海。終わりの見えない雄大な風景はスタジアムと僕に息吹を吹き込む。

 この箱型のスタジアムはイングランドの匂いを思い出させる。黄で染められた客席。片隅に切り取られた水色の群衆。ピッチの緑。整然と色が並ぶ。浦和との試合から選手を入れ替えた川崎。そして、柏にはオルンガと江坂がいる。笛が鳴らされ、初めての舞台に意識のピントを合わせた。

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 川崎は長短のパスを織り交ぜ、ボールと流れを手繰り寄せる。抑揚。短いパスは相手の意識を手近に寄せ、長いパスはゴールへと向かう行程に展開をもたらす。鍵盤を叩く手指の強弱により、ピアノの旋律に色彩がもたらされる。川崎のパス回しは僕にそんな想像を呼び起こした。

 緊密な中盤。高々と掲げられたディフェンスライン。川崎の中盤に自由を与えず、奪ったボールは前線で待ち構えるオルンガやクリスティアーノへと届けられる。鋭利な縦パス。上空を舞うロングボール。多様なパスが川崎の守備陣を襲い続ける。柏に先制点をもたらしたオルンガ。その動きは大地を駆ける野生動物のようだ。力強く、しなやか。序盤の負傷を露ほども感じさせず、その雄大な跳躍が眼に焼きつく。

 二点を追う川崎。後半からピッチへと降り立った家長が試合の色を変える。家長は前半にはなかった、間と落ち着きを川崎に与えた。家長に停泊したボール。その間は柏の勢いを削ぎ、緊密に張られた意識の網を分散させる。

 止まるだけではなく、家長は動く。右から中央、そして、左へ。磁石のごとく、柏の守備陣は家長へと身体と意識を吸い寄せられる。家長の斜行により、淀んだ川に生まれたばかりのような水が注がれた。

 手痛いミスにも動じず、柏は前へと向かった。勇猛な突進。パスや疾走は川崎の間隙を突き続ける。敗れはした。しかし、川崎の自由を奪った大胆不敵な守備に鳥肌が立った。待ち構えるルヴァンカップ決勝。黄色の戦士たちの戦いはまだ終わらない。

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柏 2-3 川崎F

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