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『瀬戸内国際芸術祭2019 ひろがる秋』を観た(2019/10/24〜26)

私は地域規模の芸術祭に取り憑かれてしまったのだろうか。春に訪れた瀬戸内国際芸術祭に秋にも訪れてしまった。去年は大地の芸術祭に冬と夏に訪れた。芸術祭の魅力を再確認すべく、私は再び瀬戸大橋を越えずにはいられなかった。

◎一日目

【本島】

前日の荒天予報で心配していたものの、現地についてみればさして雨も風も強く無かった。

よくよく公式の情報を調べてみると豊島・直島の辺りは欠航が出ているけれど本島行きの便は通常通りの運行。

私は運が良かった。

本島は江戸から明治にかけての古民家が残る笠島地区の街並みがとても綺麗だ。

お墓の形も私が見慣れているものとは違い、地面に点々と石が配置されている感じで、初めのうちお墓だと思わずついうっかり見入ってしまったけれど、後で調べたら両墓制と言って、霊魂を祀る場所と死体を祀る場所を分けている=お参りするお墓と実際のお墓が違うんだとか。
つまり、私が見たのはお参りするお墓の方だったのだろうか。

因みに街中を普通に蟹が歩いていた。

〜観ることのできた作品〜

ho11 笠島−赤と黒の家

ho10 Moony Tunes

撮影禁止になっていたけれど、月や引力、宇宙空間を思わせる作品でとても好きな感じだった。孤独感が強い。

ho12 軌道(革命グラウィタス)/パラベンツ/引力の反映

日本間から突如異空間へ。鏡とスリッパや座布団等の配置で惑わされる。時空が捻れている感覚。

ho09 善根湯×版築プロジェクト

ho08 産屋から、殯屋から

無数に立てられている真っ赤なてるてる坊主のようなものが印象的。祠につながる大きな溝があの世とこの世の境の様だった。祠の内部は炎が燃え滾っている様だ。

ho07 恋の道

一見折り紙のようにも見える船。角度を変えれば表情も変わる。

ho02 シーボルトガーデン

かつてシーボルトが称賛した瀬戸内の島々の植物が植えてあった。

ho06 咸臨の家

咸臨とは、船上の平等の意味=価値観や文化などの違いを認め合うことを表現している。壁には色々な模様の板が貼られていて、チグハグだけれど鮮やかだった。暗く静かな空間で心が洗われた。

ho04 海境

この本は塩で固められている

ここは海底で、船の上から命綱が降ろされている状態。生きるか死ぬかの瀬戸際、らしい。本島周辺の複雑な潮流、危険と隣合わせの漁師の日常を現している。

ho5 漆喰・鏝絵かんばんプロジェクト

ho3 そらあみ<島巡り>

春会期の時に沙弥島で観たそらあみが本島に来ていた。島巡りってそういう事だったんですね。

ho1 Vertrek「出航」


本島で観た作品は、生と死の境、水中と水上の境、空と海の境、時間の狭間等々、何かの境界線をモチーフにしたものが多かった気がした。


◎2日目

【粟島】

前日の夜に唸りながら悩んだ挙句、2日目は粟島からの高見島に決めた。

粟島行きの船が出る須田港へ行ってから高見島行きの朝一の便が欠航になっている事を知り、しかもスタッフさんに聞いてみたら他の島は前日からの雨の影響で一部メンテナンス中の作品もあったらしい。

今回の旅は極めて運が良い。

aw10 須田港待合所プロジェクト「みなとのロープハウス」

出港する港から早速作品がお出迎え。

粟島はスクリュー型と言われているそうだが、私は岐阜県に似ていると思った。

島に着くと、まだ小雨が降っていた。

aw01 Re-ing-A

ここは港から一番離れた場所にあり、尚且つ朝一で来たせいなのか私以外には誰もおらず、ただ波が打ち寄せる音が聞こえ、眺めているうちに雨が止み、雲間から太陽の光が漏れる様を見届けられたのは感動的だった。

海に浮かんでいる檻の様なものに入っているのが『Re-ing-A』という。沈没船から引き揚げられた煉瓦で造られた瀬戸内象。夕陽に映える『Re-ing-A』を観ながらここの海岸に打ち上げられているもので作品を作ろう。というワークショップも開催されていたらしい。
『海の底を想ゾウしてみよう』というちょっとオヤジギャグなモチーフではあるけれど、このシュチュエーションは想ゾウするに値するものだった。

aw07 過ぎ去った子供達の歌

学校にある全ての時計が4時8分で止まっているのは、廃校になり学校の全ての電源を落とした時間が4時8分だったかららしい。学校が、学校を必要としなくなった子ども達に嫉妬し、喪失感を抱いている様にも見えた。

aw06 思考の輪郭

aw04 粟島芸術家村
『鯨の目』『言葉としての洞窟壁画と、鯨が酸素に生まれ変わる物語』『鯨の目』『ワルリ族 ジャングルの住人たち』『文化の糸ワルリ画』『ワギャ(虎)ワルリの自然の神さま』『プロセスルーム』『祈りと語らいの部屋』

海=生命のスープという持論のもと、生命の循環を描いている。

洞窟壁画の様ではあるけれど、これは建物内に作り上げた空間。粟島の島民の方と作家との共同制作らしい。荘厳でありつつ何か温かみを感じる。


この作品の展示場所の直ぐ近くには、『漂流郵便局』という思いの告げることの出来ない誰かへの手紙が所蔵される場所がある。
興味があったものの営業日を何故か避けた日程の組み方になっていたのに、偶然にも団体様が来たタイミングに居合わせ、急遽開ける事になったらしく、奇跡的に入館できた。

ホントに運が良い。

「もう亡くなったあの人へ」という様な書き出しを見ただけで泣けてきたから、わたしも大分年を取ったんだろう。

aw01 瀬戸内海底探査船美術館 ソコソコ想像所

海底から引き上げられたものが吊るされていて、机に用意されている用紙にデッサンを描き、描いているときに何を思ったかを書く。というコーナーだった。

aw03 TARA
『serie avec tara』『TARAで描いたドローイング群』『黒潮/Black Current』『クロニクル/chronicle』

廊下の窓ガラスには、粟島の海からは色々な国から来る船を見ることができるという事で、世界中の船が瀬戸内の港に向かう光景の写真を飾っていた。

aw05 SOKO LABO

『海底からの登山』『TARAに乗って航海に出る』『海底から流れてきた時間』『孤独な龍神自動販売機-LONELY DRAGON GOD VENDING MACHINE』

冷蔵庫内の漂流物だったペットボトル等の加工品は販売されていたが、大分時間が経過したからか、虫が溜まっていた。田舎の道路沿いにある自販機って感じだ。

『海からの視点withTANeFUNe』

最初色鮮やかで綺麗だと思っていたけれど、全て海に流されていたゴミだと知るととても複雑な心境になる。美しく仕立てて興味を引かせるというのは、ゴミ問題について考えさせる良い取っ掛かりになっていて考えられているなと思う。

下の写真奥の建物は多数の作品を展示し、粟島のシンボルでもある粟島海洋記念公園。ここは日本で最初に村立で開設された国立粟島海員学校の跡地であり、浅葱色っていうんでしょうか、とても綺麗な色の木造の洋館だった。

aw02 種は船プロジェクト /TANeFUNe

aw08 ナイト&デイ(人生は続く)/この家の貴女へ贈る花束

床一面に、布の端切れでできた花の様な装飾の絨毯が敷かれていた。なんとなく棺桶に入れる花の様にも見えた。
空き家の中の現在と12時間前の映像を流しているモニターが各3〜4台設置されていて、風が吹いていたのか、ずっと照明の紐が揺れていて不気味だった。

aw09 ヒキコモリ

外を見ることのできるモニターが部屋にあり、布団が置かれていた。家を出る時に出会す『私はひとりだ』の文字は胸に刺さる。


粟島は廃棄物、漂流物、海底に実在するものしないもの問わず、普段目に見えぬものの想像を膨らませられた。


【高見島】

ここまで来たらもう完全に快晴。
日焼けしそうなくらい暑くなってきた。高見島は急な斜面、石造りの壁に階段が特徴的。島の方々にとっては日常なんだろうけれど、足元がやや危ないけれどとてもドラマチックな風景。
所々に何故かキリンのオブジェがあったけれど、何か物語があるのだろうか。

ta01 積みかさなる白と空白

ta06 内在するモノたちへ、

ガラガラと引き戸を開けると、下に空間が広がっていた。砂利が敷かれ、中心にあるものは天井を貫いていた。高見島の地底深い所に辿り着いてしまった様だった。

ta05 まなうらの景色

ステンレス線を繋ぎ合わせて出来ている。縁側に置いてあった手に取れるサイズのものも数時間かかるとの事で、途方もない作業だった事が伺える。

ta04 keep a record

古い写真や手紙を蜜蝋で固めた作品や廃虚に置き去りにされていた写真をモチーフにした作品があった。大事な記憶の様でもあるし、記憶が膜を張って曖昧になっていく様にも見えた。

ta10 除虫菊の家/静かに過ぎてゆく 除虫菊の家/はなのこえ・こころのいろ

除虫菊の栽培で栄えていた高見島。
2階一面にある蚊取り線香は1〜2時間に一度ぐらいで火をつけているそう。

ta09 家の"メメント・モリ"

一階と二階でコンセプトが違うらしい。一階は人のいた痕跡を感じ生々しさがあるけれど、二階は蜘蛛の巣と葉脈の様な模様が、静かに自然に浸食されていく虚しさと清々しさを感じた。

ta07 過日の同居

ta11 海のテラス

ta12 KIRI

ta08 うつりかわりの家

管を通してできた穴が沢山あり、豆電球を沢山付けているのかと思うぐらい外から入る光が眩しかった。島民の方やボランティアの方と共同で作り上げたらしい。外から見たら瓦屋根にもびっしりと管が通っていた。


ta02 時のふる家

こちらもアクリル板と外から入る微かな光だけ。うつりかわりの家とアプローチの仕方は似ている気がするけれど、こちらは儚さを感じる。

ta03 Long time no see

かつてここに建てられていた家に有った物で作品を再構築している。鯉のぼりが良い味を出している。
皿の多さに田舎を感じた。

高見島は全く使われていないんだろうなと思う建物が多く、島という生き物の力強さと微かに残る人間のいた名残りが、ノスタルジーを超えたディストピア感を醸していた。


【高松港】

多度津港から電車で高松迄行き、夜の玉藻公園にてART BOOK FAIRを散策した。
公園外にも出店者がいて、移動式本屋の横から異様にズゴドンズコドンした音楽が流れてるな〜と思ったらDJブースが設置されていた。
想像していたノリと違う。
しかし公園内部の披露閣という広い畳張りの建物内で、やや薄暗い照明の元、国籍問わず自主制作の写真集や絵本、雑貨やCD迄も販売していて、静かな熱気が高揚感を煽った。夏祭りの縁日みたいだった。

tk03 「銀行家、看護師、探偵、弁護士」


◎3日目

【男木島】

男木島は猫だらけだった。

偶然居合わせた猫好きの写真家の方に男木島の猫写真の撮り方のコツや猫スポットを教えて頂いたお陰で猫写真が潤った。感謝。

近年は島の事情も鑑みず勝手に餌を与えてしまう人がいてトラブルも発生しているのだとか。

無料の休憩所では普通のお椀で茶粥を無料で振る舞って頂き、お土産で柿まで頂いてしまいかえって申し訳ない気持ちになった。優しすぎる男木島の方々。

og01 男木島の魂

og02 タコツボル

og16 歩く方舟

og17 青空を夢見て

og07 The Space Flower・Dance・Ring(宇宙華・舞・環)

og08 アキノリウム

5分ぐらい? 木や竹でできた小さな楽器の集まった装置が、涼やかで優しい音色を耳でも目でも楽しませてくれた。

og05 男木島 路地壁画プロジェクト wallalley

本島にあった『咸臨の家』に貼られていた壁板と同じ気がする。と思ったら作者が同じらしい。しかし暗い建物内で見るのと外で見るのとでは雰囲気が変わる。元々の壁の色やトタン屋根にも馴染んでいて綺麗。

og09 未知の作品2019

スタッフさんが黒を際立たせるためなのか、除草作業をしていた。
地面を踏み締めると透き通った音がした。

og10 SEA VINEー波打ち際にてー

陶器でできたお花。花弁には島固有の虫の絵が描かれている。少し触れれば折れてしまいそう。

og11 Trieb-家
家の中に大量の水が流れ落ちていた。音と匂いに圧倒された。

og12 自転-公転

og13 記憶のボトル

宙に浮くボトルの中には、古ぼけた写真を切り取ったものや造花やがらくたの様なものが入っていた。
天井より先も続いていそうで、アカシックレコードみもある。

og14 漆の家

og15 部屋の中の部屋

90度回転したお部屋

og06 オンバ・ファクトリー

島民の方それぞれにそれぞれの用度にあったオンバ(手押し車)を作る工房。ユニークな形のオンバが沢山。

og04 うちの海 うちの見

og03 生成するウォールドローイング -日本家屋のために

今回の旅行で訪れた島の中では、一番島民の方を沢山見かけた様な気がした男木島は、島民の方の生活を豊にするアートが溢れていた様に思う。


【女木島】

こちらも猫だらけ。女鬼島、鬼ヶ島とも呼ばれている。

島の奥には鬼の洞窟もあったみたいだけれど、都合女木島は滞在時間短めで一部の作品を観ることにした。

mg01 カモメの駐車場

風が吹けばクルクルと回るカモメ。青空がよく似合う。とても可愛い。

mg02 20世紀の回想

mg04 BONSAI deepening roots

お風呂場も盆栽。他にも色々な盆栽が展示してあったけれどどれもカッコ良かった。

mg05 「島の中の小さなお店」プロジェクト Café de la Plage/カフェ・ドゥ・ラ・プラージュ

mg06 「島の中の小さなお店」プロジェクト ヘアサロン壽

mg07 「島の中の小さなお店」プロジェクト ウェディング・ショップ

mg08 「島の中の小さなお店」プロジェクト ピンポン・シー 

mg09 「島の中の小さなお店」プロジェクト ランドリー

mg10 「島の中の小さなお店」プロジェクト 世界はどうしてこんなに美しいんだ

mg11 「島の中の小さなお店」プロジェクト un…  こころのマッサージサロン

mg12 「島の中の小さなお店」プロジェクト 的屋

一つの建物の中に遊び場やサロン等色々な要素が詰め込まれていて、新たなコミュニティの提案といったところ。


mg13-B 女根 / めこん

mg14 ISLAND THEATRE MEGI 「女木島名画座」

mg15-B 不在の存在
写真撮影不可だったけれど、言わずと知れたレアンドロエルリッヒの作品。左右対称の部屋と不意に砂利が足音を立てては消える中庭。触れられそうで触れられない異世界と同居している様で、向こう側の世界からこちらはどう見えているのかも想像してしまう場所。

mg18 家船

【高松港】

いよいよ旅の最後、高松港周辺を散策。

tk02 国境を越えて・海

tk06 北浜の小さな香川ギャラリー うちわの骨の広場


tk07 北浜の小さな香川ギャラリー LEFTOVERS

tk08 北浜の小さな香川ギャラリー 香川漆芸 

付喪神がとても可愛い。

tk09 北浜の小さな香川ギャラリー うどん湯切りロボット

くじ引きで当たりが出た人にはうどんが振舞われるシステム。喋って説明もきっちりしてくれる。観覧していた人曰く、香川の人の喋り方。

tk10 北浜の小さな香川ギャラリー Watercolors

tk11 北浜の小さな香川ギャラリー Izumoring—cosmos

色のついている本は読む事ができた。


瀬戸内国際芸術祭の玄関口である高松港は、近未来的で都会的でありつつも、今迄の郷土の事も考えていた。

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今回の旅では3日間で小さな島を5ヶ所巡ったけれど、未来に心躍る様なものから未来の為に考えさせられるもの、歴史を感じるものがあったりと、同じ瀬戸内の島でも扱われる作品から感じ取る雰囲気も島毎に違う風に感じたし、島自体も石垣がある所があったり木造メインの所があったりと違った文化を持っている事が分かって、それぞれの島の魅力をたっぷり味わえた気がした。

そして芸術祭のボランティアスタッフの方が話しかけてくださったり無料の休憩所の方がお菓子やら茶粥やら色々と振る舞ってくださって、島の方々と沢山交流する事ができるのも地域規模の芸術祭の魅力なんだなと改めて実感した。とても温かかった。

春に行った時にも思った様に、やっぱり作品とその土地との違和感が無くすんなりと世界観に浸れるのは凄いと思ったけれど、それは地域の方とアーティストとの交流やリスペクトがあるからこそ、なのだろう。

今度は芸術祭抜きでも観光で島に訪れたい。



開催地:直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、犬島、大島、沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島、高松、宇野

春会期:2019年4月26日~5月26日
夏会期:2019年7月19日~8月26日
秋会期:2019年9月28日~11月4日

3シーズンパスポート:4,800円(前売:3,800円)
会期限定パスポート:4,000円



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