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『Thronefall』感想:詰将棋のような体験が時間を溶かす。超シンプルだからこそ徹底的に迷う800円タワーディフェンス・ストラテジー

『Thronefall』それはいわゆる、タワーディフェンスとストラテジーを組み合わせたシミュレーションゲーム。

ビジュアルもアニメのようなキャッチーな作りで、しかも定価800円。別にハズレでもいいか、そう思って購入したが最後、簡単な操作とわかりやすいシステム、そしてついつい考え込んでしまう戦略構築でみるみるうちに時間が溶ける傑作ゲームでした。

これで早期アクセスなのですから、製品版がどれほど素晴らしい作品になるのか、今から楽しみです。

ゲームの根幹のシステムはタワーディフェンス。
自分(自軍)の拠点めがけてわらわらと襲ってくる敵を倒し、拠点を防衛することが目的です。

防衛の方法はRPGのような戦闘ではなく、ストラテジー形式。
小さな駒のようなキャラクターが自動で動いて自動で戦います。HPは可視化されており、それがゼロになったキャラクターは消えてしまい、一定時間後に復活。キャラクターというより兵士ですね。極めてモブな感じです。一定時間消えるということは、その分敵の進軍を許してしまうので、大きなデメリットとなります。

そしてもうひとつのシステムとして、ターン制であるという点があります。
いついかなるときもリアルタイムで敵が襲ってくる、というわけではありません。

昼に戦闘の準備を行い、夜は敵が襲ってくるので防衛する。その繰り返しを何度も行い、最終日まで持ち堪えればクリアです。

昼パートで行うこと。それは、自陣の構築。
原則として、昼の初めにはいくらかの資金を得ることができます。

例えば、資金として7ゴールドを得るとします。
このゴールドを使い、自陣に建物を建てるのです。
つまりは、次に戦闘が訪れるまで、この7ゴールドというリソースををどのように使い、自陣を強化するか。これが、このゲームの醍醐味であり面白いところです。

兵士を増やす施設は4ゴールド必要です。防衛用の壁は3ゴールド必要です。範囲に入った敵を自動で攻撃してくれる防衛タワーは3ゴールド必要です。この辺りにゴールドを割けば、とりあえず次の敵襲は耐えられるでしょう。そもそも自陣の拠点が破壊されてしまうとゲームオーバーなので、この辺りにリソースを割くのは当たり前です。

一方で、得られるゴールドを増やす建造物もあります。
戦力を増強する建造物のみにゴールドを使い続けると、獲得できるゴールドも7ゴールドのまま増えません。
もちろん、戦力増強にゴールドを使うのも必要です。
でも、もしかしたらそれは過剰な防衛力かもしれません。

ここは、次の昼のターンに得られるゴールドが増える建造物である家(建設に2ゴールド必要)を増やしたり、畑(建設に3ゴールド必要)を建てて、得られるゴールドというリソースを増やし、後の戦闘に備えるのもいいかもしれません。防衛力は少し減る代わりに、今後得られるゴールドが増えるようになるのです。

なぜ得られるゴールドを増やす必要があるか。
それは、後半になればなるほど敵襲は過酷なものになり、大きく自陣のパワーアップをしないと耐えられない、というのが理由となります。

敵襲を防ぐための自陣のパワーアップ。
これに、とても多くのゴールドが必要となるのです。

一つの建造物に対して8ゴールドや15ゴールドかけて強化することで、なんとか敵襲を抑えられるようになります。つまりは、収入を得るための建設を行なっていないと、必ずどこかで自陣のパワーアップが鈍化し、敵襲に耐えられなくなるのです。

そして逆に、ゴールドが得られる建造物を増やしてばかりいると、逆に戦力が疎かになり、敵襲を防ぎきれなくなります。ここは、適度なバランスで戦力と収入を考えないといけません。

では、どのくらいのバランスで、自陣の武力を強化するか。どのくらいのバランスで、自陣の収入を増やす建造をするか。
そここそがこのゲームで最も難しく、頭を悩ませると同時に、面白く中毒性のあるところなのです。

とはいえ、こういった仕組みはストラテジー系のゲームでは極めて基本的な仕組みであり、面白さとして共通している部分だと思います。

では、このゲームがなぜそれらのゲームと一線を画しているのか。それは、そのシンプルさにあります。

シンプルさ

私が以前プレイしたストラテジーゲームでも、畑や家、兵士訓練所を設置することができました。自陣を防衛する柵や壁も設置できました。一方で、「それらを配置する場所は自由に決められた」のです。

このゲームの大きな特徴、それは、家や壁、兵士訓練所、畑など、あらゆる建造物の「設置場所が決まっている」という事なのです。

つまりは、どこに何を設置できるかは最初から決まっていて、プレイヤーが決めるのは「建てるかどうか」だけなのです。

この、「どこに建てるかが強制されている」というのが非常に新鮮でした。こういうゲームは、エリアのどの辺りに何を建てるかが敵との駆け引きであり、防衛の成功や失敗の大きな鍵を握るシステムだったと思います。

ところがこのゲームは、そこをプレイヤーの自由にはさせず、建物が建てられる場所を固定しました。
これがどういう効果を生んだのか。
悪い面として、当然プレイヤー独自の戦略が立てられない、ということになります。

リソースを使いまくって、弓兵を何十人も備える弓部隊を作るとか、ひたすら壁を建造し防衛力に特化した自陣にするとか。そういった個性的なことが出来ません。
兵士訓練所や防衛タワーの数まで、建てられる位置および数が決まっているのです。それを、プレイヤーはリソースの限り選ぶのみです。

これは自由度が失われ、戦略性が乏しくなった…と言えるかもしれません。これが、実はむしろ逆であるように感じました。唸るほど悩むのです。
自由度の高いストラテジーゲームを1からスタートする将棋だとすると、この制限された戦略性、これは詰将棋であると感じました。

どこに何を建てるかがあらかじめ決められているというシンプルさ。
これにより考えられる戦略も限られるというシンプルさに繋がりますが、一方でクリアは簡単ではありません。
自由になんでもできるわけではないというシンプルさは逆に、圧倒的な物量差で勝つパワープレイ戦術が取りにくくなるという結果にも繋がっています。そのため、勝てないときはとことん勝てません。

ただし、必ず解法がある。シンプルでミニマムなシステムだからこそ味わえる、「適切な手順を踏めば答えに辿り着ける」という面白さ。防衛に必要な建造物が建てられる場所が決まっているということは、逆に言うと「この程度の防衛力があれば敵襲を防ぐことが出来る(クリアできる)」ということを証明しています。
詰むことが出来ないように見える詰将棋も、適切な手順で駒を動かすことで、必ず詰むことが出来ます。答えが必ずある。このゲームは、建造物を適切に建設することで、必ず敵襲を防ぐことが出来るのです。

さらに、シンプルさは同時に、ゲームオーバーになった際「あのときああすればよかった」という反省点が明確になるような仕組みでもありました。考えることが多くないからこそ、そう思えるのです。

だからこそ、またやり直したくなる。RPGで、ボスに負けながらも弱点を探したり戦略を考えるように、つい何度もやりたくなる。なぜならシンプルでやることが少ないから、次に何をしたらいいかという想像がしやすいのです。

自由度が低くなることのデメリットを、逆に選択肢が少ないからこそ「次はこうしたい」と想像しやすくなるというメリットで上書きした素晴らしいゲームでした。
そしてそのメリットを生み出すのに必要なのが、緻密なゲームバランス。
これもまた絶妙だからこそ、ついつい時間を溶かしてしまったのです。

さらに言えば、もう一つ特徴的なのが主人公キャラクター。
いわゆるアクションRPG的に、フィールドを自由に移動できます。
この主人公キャラのみ武器を選択出来たり、特殊技を使えたりします。さらには、あえて敵のターゲットとなり、味方や自陣への攻撃を防ぐことも可能です。

つまりは、どこに何を建造したかで敵との勝敗が決まるのではなく、自キャラを操作することで戦闘に影響を与えることが出来るのです。特に、この早期アクセス版最終ステージではその重要性が顕著だったりします。

もちろん、多少強いとはいえたった一人のキャラクターですから、無双することは出来ません。しかし、明らかに影響を与えることは出来ます。
このあたりも、ただ見守るゲームではなく常に能動的にゲームに介入できるというところから、ゲームへの集中、没入が途切れず、気付けば時間が溶けている大きな要素でした。

シンプルで安いゲームだけど、圧倒的にゲームバランスが素晴らしい。
そしてビジュアルも可愛く、ミニチュアの戦争のようなポップさがあります。
戦略性も十分。徐々に解放される要素で、武器チェンジやバフ要素などプレイを強化することも出来れば、敵襲を強化することもでき、それにより上下するスコアを競うのも一つの面白さです。

こんなに面白いのに、まだ早期アクセス。
完成版が心から楽しみなゲームでした。少しでも興味があったらぜひ買うべきです。ただし、確実に時間が溶けまくるので、そこはご注意を……。

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