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経営と知財 #5 競争戦略②

1.知財の係争上の強さ、競争力

特許で係争になった場合の勝敗を分ける要素はざっくり以下となります。

勝敗 = 侵害発見容易性 × 特許有効性 × 組織の知財力 × 顧問法律事務所の強さ × 資金力

  • 侵害発見容易性:登録した特許の請求項と対比し、競合の製品が侵害していることを権利者側が明らかにする必要があります。相手の製品を購入して権利者が解析、判別したりしますが、そもそも購入できないようなものの場合、侵害発見は難しいことになります。生産方法だったり、ソフトウェアの中身やアルゴリズムだったり、です。

  • 特許有効性:特許庁の審査で登録になったからといって、100%使えるものかというと実はそういうわけでもありません。先行技術といって、過去誰かが特許出願した膨大な文献群を調べていると実は同じような内容が書かれているものが見つかることがあります。特に大企業においては、競合他社から侵害している旨の警告を受けた際には、上記した侵害性の判断に加え有効性の調査をして、相手の攻撃に対抗したりします。

  • 組織の知財力:係争になった場合、訴訟に至る前に侵害性と有効性の観点で相手方と交渉していくことになります。侵害性の解析や有効性の調査は知財のスキルがないと難しい分野ですので、組織の知財力がダイレクトに影響します。

  • 顧問法律事務所の強さ:大企業においては著名な、大きな法律事務所と契約関係にあることが多いです。裁判になったときには、実績がありノウハウが蓄積した法律事務所の方が勝てる確率が高くなります。

  • 資金力:弁護士に払う費用など、係争には時間とお金がかかります。先行技術の調査なども外注できますが費用がかかります。係争になった際に対抗する資金が尽きてしまったら、権利の良し悪しとは関係なく負けてしまうことがあります。

この観点で考えていくと、知財力や資金力の乏しいスタートアップは不利になります。スタートアップは特に以降記載するような観点も検討しておきましょう。(大企業でも費用対効果の面では同じです)

2.研究開発投資と、競争回避の関係

自分が新しい製品開発のミッションを持っている場合に、以下のAとBのどちらだとあきらめるか考えてみてください。

  • A:既に5千万かけて研究開発を進めている最中に、他社の特許を侵害していることが分かった場合

  • B:まだ開発を進める前の市場調査の段階で、他社の特許を侵害することが分かった場合

シンプルにBの方だと感じるのではないかと思います。
ただ実態としてはAのように既に開発投資してしまった後に他社特許に気づくことが多々あります。大企業のサラリーマンの場合はなおさらですが上司への説明も含め引きづらくなってしまっています。その場合、逆に、上司に怒られないようにお金と時間をかけて有効性の調査を行い問題ないように持っていくこともあります。
要するに、相手が引く(撤退する、新規参入をあきらめる)リスクが小さい段階で、いかに相手に新規参入することによるリスクを認識してもらうか、ということです。相手方に競争回避をさせることが重要です。

3.リスクを感じるための要素

シンプルに書くと相手が攻撃してきそうと感じるか否かです。例えば以下のようなやり方があります。

  • 積極的に係争になることを望む人はいませんので、最低限、特許の存在を相手側に認識させます。特許技術であることをホームページ等でアピールしていること。製品リリースに合わせてなるべく早いタイミングで公開するほど、他社が余計な投資をする前に気付く可能性も高まります。

  • テクニカルな話しになりますが、特許が登録になったあとに分割し、また登録になったら分割し、を繰り返していること。(詳細は割愛しますが、費用をかけていることで本気であることが伝わり、権利範囲を確定させないことで侵害合わせこみのリスクを感じさせることができます)

  • 1つの技術に多面的に、複数の特許を出していること。所謂特許のポートフォリオを築き、技術回避ルートが無いようにします。(ただしこれは結局、高度な専門性が必要です)

  • 早期審査をかけていち早く登録特許をもっておくこと。本気度が伝わります。(ただしこれも費用対効果の観点から、良し悪しはあります。)

なお、大企業の場合は、新規の開発に入る前に他社特許を調査していることが多く、自分たちで気づいてくれることも多いです。ただし、自分たちで調べて登録の特許が見つかったという事実に比べると、それがホームページ等でアピールされていて特許を重視している会社だと感じることの方が、リスクは感じ易いかと思います。
少なくとも、中規模や小規模な企業同士、スタートアップ同士の競争の場合、他社の特許調査を事前にしていることはほぼありませんので、無用な競争を回避するためには自分から発信しておく必要があります。



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