「歴史」とは何か

E・H・カーが、1962年に刊行した代表作の一つである"What Is History?"において、歴史を定義して「歴史家と様々な事実との間の交流であり、過去と現在との間の終わりなき対話である」[1]と指摘したことは周知のとおりです。

ここでカーが強調した視点は、「歴史」の理解に求められるのは対立や競争ではなく、交流と対話であることを示しています。

すなわち、ある「歴史」においていずれの理解が正しい否かを決めるのは政治力や軍事力ではなく対話であり、しかも対話は不断に続くものであるということになります。

しかも、「歴史」というとき、過去と現在のあらゆる事象を網羅した「歴史そのもの」を前提とするのでなければ、取り扱う分野や対象となる地域などはあたかも無数であるかのようです。

あるいは、もし「歴史」というものに「学問の対象としての歴史」と「政治的駆け引きの対象としての歴史」とがあるとするなら、一方はある時点で可能な限り入手し得る史料や資料に基づき、前後の出来事との関連や整合性を確認しつつ対象がいかなる姿をしていたかを明らかにすることを目的とすると言えます。

これに対し、他方は自らの所属する集団の正当性や他の集団に対する優越性を示し、交渉の場においては他の集団からより有利な条件を引き出す手段として活用することを目指すと考えることができます。

後者の場合、例えばある国の政府が他の国の政府などと競合し、自らに有利な結果を得ようとするなら、そのような取り組みは自ずから外交の一環という性格を持つことになります。

そして、外交の要諦が譲歩と妥協であることを考えるなら、ここでも交流と対話が重要であることが推察されます。

それだけに、「歴史」を巡る問いは決して一朝一夕で解決するものではなく、カーが対話が「終わりなき」ものであることを強調した理由も、この点に存するのです。

[1]Carr, EH. What Is History?. New York: Alfred A. Knopf, 1962, p. 35.

<Executive Summary>

What Is a History? (Yusuke Suzumura)

According to an explanation by Edward Hallett Carr, history is an unending dialogue between the present and the past. Now we examine a meaning of a challenge to understand and interpretate history with Carr's idea.

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